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第一話 ぬこにゃん

作文や感想文が大嫌いな自分が、まさか小説を書いてみようなんて思う日が来るとは思いもしませんでした! 全くの見切り発車ですので、ゆるーい感じで読んでいただけるとありがたいです。

◆◇◆ 第一話 ぬこにゃん ◆◇◆


 ある本にこんなことが書いてあった。九〇歳以上のご老人に聞いた、

「九〇年の人生を振り返って、唯一後悔していることは何ですか?」というアンケートへの回答。

その九〇%を占めるその答えは……



「もっと冒険しておけばよかった」




 在宅ホスピスというのを知っているだろうか?

 治る見込みのない末期のガン患者などがモルヒネなどの鎮痛剤を使用して、死ぬまでの短い期間をなるべく心穏やかに家族と共に過ごせるように補助する終末医療の一つだ。

 多くのガン患者が抗ガン剤によって治療を試みるが、必ずしも上手くいくとは限らないのが現実だ。

 副作用による地獄のような苦しい思いを必死に耐え抜いたにもかかわらず、ガンの進行を止められなかったり、転移が新たに発見されたりして心を打ちのめされ絶望していくのだ。

 死を迎えるまでの残された貴重な時間を、せめて家族と共に心穏やかに過ごしたい。最後は家族に看取られながら静かに迎えたい、そんな願いを補助するのが在宅ホスピスの目的だ。


 俺は坂本(さかもと)優希(ゆうき)。一応、高校二年生。一応というのは、病気治療のため学校にはもう行っていないからだ……。今は在宅ホスピスのお世話になっている。

 そう、俺はガンだ。

 高校一年の秋に倒れた時、医者には余命六ヶ月と言われたらしい。それからもう一年近く経っている。

 最初の三ヶ月は抗ガン剤治療による副作用の苦しみで、とても生きているという状況ではなかったと思う。髪は抜け落ち、常に嘔吐おうと)感と倦怠けんたい)感に悩まされる毎日。

 あれだけ苦しんでも結局ガンの進行を止めることはできなかった。先に心が死んでしまう……そう思った。情けない話、うちに帰りたいって泣いて頼んだ。どうせ治らないなら家に帰りたいって超泣いて頼んだ。もう限界だった。

 両親はとても悩んだと思う。わずかでも助かる見込みがあるなら抗ガン剤治療を続けるべきだという思いと。亡くなったおじいちゃんがガンで倒れた時の、あの病室での寂しい死の情景を繰り返したくないという思いの間で……。

 朦朧とした意識の中、たくさんのチューブにつながれて、白い病室で死を迎える……あの悲しい景色。

 死を迎える最後の瞬間、俺はどうありたいだろう?


   ◆◆◆


 俺は家のベッドの上で、『ハンターズクエスト』をプレイしていた。これはハンティングアクションRPGというジャンルに類するゲームで、モンスターを倒して素材を手に入れて武器や防具を強化しつつ、物語を進めていく大人気ゲームだ。ネット通信対応で複数のプレイヤーと一緒にプレイすることもできる。俺の一番大好きなゲームで、当然一番やり込んでいるゲームだ。今ちょうど、ダウンロードした追加コンテンツの物語が大詰めにさしかかり、巨大なドラゴンとの戦いに挑戦するというところだ。


 そこへ、にゃ~と当家の飼い猫、ぬこにゃん(メス 黒猫)が、器用にドアを開けて入ってくる。ト、ト、ト、タンッ! とジャンプして俺のところに軽やかに着地する。

 定位置の俺の左側に座るとにゃーと見上げてきて、撫でろと要求する。

「ぬこにゃんは今日も元気そうだな~。今じゃ俺の方が死にそうだよ~」

 そう言いながら俺がなぜると、ゴロゴロと目を細める。


 今でこそツヤツヤの綺麗な黒い毛並みの美猫、ぬこにゃん……

 三年前、三月の後半くらいだったか、季節はずれの大雪が降った日、家の前で寒さにブルブル震えていた子猫。

 ガリガリの子猫が小さな声でニャ~ニャ~と「寒い、助けて」とうったえている姿を思い出す。

 あの死にそうだった子猫が今では、どこに出しても恥ずかしくない元気な美猫さんになって……(ノД`)ホロリ

 俺に命を救われたと思っているのだろうか、家族の中で一番俺になついている。それに飼い主の贔屓目(ひいきめ)を差し引いても、かなり賢いと思う。子猫の時はいろいろやんちゃをしたけども、なんとなーく、こちらの言っていることを理解しているような感じで、これはやっちゃいけない! と怒られたことは二度とやらないのだ。ぬこにゃん、マジ賢い。


 ただ……ぬこにゃんという名前だけがちょっと残念な感じだ。

 ちなみに「ぬこにゃん」の命名は俺、ご当地キャラが流行っていたのを安直にパク……インスパイアしてテキトーにつけた過去の俺、ほんとあやまれ!

 みんな、ペットの名前はちゃんと考えてつけないとダメだぞ!(`・ω・´)キリッ


 そうこうしているうちに、テレビ画面に巨大なドラゴンが現れる。『ハンターズクエスト』の追加クエストボス、猛り狂う巨大火竜レッドドラゴンだ。

「きたー! おおー、すげー迫力!」

 俺がつぶやくと、ぬこにゃんは画面のところに移動しドラゴンを睨む。

「お、ぬこにゃんも一緒にやっつけるか!」

 そう声をかけると、にゃっと短く返事をする。そして、画面のドラゴンが動くと、たし! たし! と早速ネコパンチをくらわす。ぬこにゃん、マジかわええW

 もちろん画面には保護フィルターが付けてあるので大丈夫だ。画面下でネコミミがチョロチョロと踊るのを見ながら俺もドラゴンに攻撃する。たまに俺の攻撃とぬこにゃんのネコパンチが重なったりすると「ユニゾンアタック!」とかバカなことをぬかしながら約一時間、なんとかギリギリでドラゴンを倒すことができた。

「やったぞー! ぬこにゃん、ドラゴンスレイヤーだ!」

 にゃー♪ とぬこにゃん。

 ドラゴンを倒したことで、ゲームの主人公はドラゴンスレイヤーの称号を手に入れ、人々に英雄として称えられる。クエストクリアのエンドロールが流れる。

「いいよなあ、こんな冒険してみて~」

 思わずつぶやいてから、我ながら恥ずかしいことを言っていると苦笑い。

「ふう、さすがに疲れたかも……そろそろ寝るか~」

 いつものように俺と一緒に寝ようと定位置につこうとしたぬこにゃんが……耳をピクンと立て、サッと部屋の隅のほうを凝視しはじめる。

 何もないはずの空間を見つめている猫の姿とか、こわい。え、ちょ、何? 何かいるの? 猫は霊感が強いっていうから、霊的な何かが見えてるの? マジでこわいから! ぬこにゃん、何見てるんですか!? と心の中で叫ぶ。

 …………。

「どうした~? 何かいるんですか~?」とわざと声を出しつつ頭を撫でてみる。

 じっと一点を見つめたままだったぬこにゃんが、しばらくしてふっと力を抜く。そして、俺の顔を見上げて小さく「にゃぁ」と鳴いて頭をこすりつける。

 ここ最近こういうことが多い。

 ……死神でも様子を見に来ているのだろうか?

 身体の具合もだんだん悪くなってきているから、ひょっとしたら本当にお迎えが近付いて来ているのかもしれないなぁ……。

 日に日に死に近づいている。

 あとどれくらいぬこにゃんと一緒に寝起きすることができるのかな…………。

 俺はゲームのコントローラーを持ったままうつらうつらしていた。

 そして、突然毛を逆立てて立ち上がるぬこにゃんに気づかないまま深い深い眠りへと落ちていった。


   ◆◆◆


 子猫はひとりぼっちだった


 目ヤニと涙の跡でガビガビのみじめな顔

 ガリガリに痩せ、骨が浮いてみえる身体

 毛並みはボサボサに荒れてみすぼらしい上にノミだらけだ

 弱りきったその身に、季節はずれの大雪の寒さは致命的だった

 哀れなぐらいブルブルと震え、その小さな命が終わるのも時間の問題だった


 寒くて寒くて

 お腹がすいてお腹がすいて

 みー……みー……と弱りきった小さな小さな声で鳴く

 助けて……助けて……


 ほんの少しでいいからぬくもりがほしくて、動くものへよろよろと無意識に向かう……


 そして…………



 子猫は忘れない

 抱き上げられたその手の暖かさを


 子猫は忘れない

 かけられたその優しい声を


 子猫は忘れない

 つつまれたその胸のぬくもりを


 子猫は 絶対 絶対 忘れない……


   ◆◆◆


 胸のあたりに感じるやわらかい感触とあたたかさ……

 いつものようにぬこにゃんが潜り込んできたんだろう。

 ……というか、いつもより重い。完全に上にのっているなぁ、こんにゃろめ。

「もう、重いよ~、ぬこにゃん~」

 ねぼけながら、頭をなぜる……なんかサラサラな髪のような感触…………。

「……ん?」

「にゃ~~」とほっぺを舐められる。

「う~! ザラっとする、ザラっとする~! もう~こいつめ~」

 そう言って、ぬこにゃんの顔を両側から挟み込むようにつかまえて目を覗き込もうとする。


 ――ツヤツヤの綺麗な漆黒の髪、神秘的な金色の瞳の女の子。


 見たこともないような超絶美少女の顔が目の前にある。


 キスできそうなほど近い距離にっっ!


 ――――――――――――――――えっ?


 長いまつ毛が縁取(ふちど)るまるっこいアーモンド型の人懐っこそうな目、少し(みどり)がかった金色の瞳は幻想的でキラキラしている。その瞳の中には、俺のびっくりした間抜けな顔が映っていた。


 完全に俺の時間は停止した。

 それとは逆に心臓はバクバクと早鐘のように鳴っている。何が起こっているのか全くわからない。

 ギギギとロボットのような動きで、なんとか女の子から手を離す。

 ど、ど、どうすればいい? この状況は一体!? なんで女の子が俺の上にのってるの?


 女の子は凍りついて動かない俺を不思議そうに見つめて、ペロっと俺の口元を舐める――――



 …………女の子にペロペロされた――――――――――っっ!!



 ペロペロ――――

 ネットで見かける『美少女(^ω^)ペロペロ』とか、『prprしたい(*´Д`)ハァハァ』とかの、あのペロペロですか!?

 ……何言ってんだ俺!?

 しかも逆に美少女からペロペロされたっ!? そして、すっげーザラっとする!? 猫の舌みたいにザラっとする!? どゆことっ!? 女の子の舌ってザラっとしてるの!?

 あれ? これってファーストキスになるの? ペロペロはキスにカウントされるの? 俺って女の子にファーストペロペロを奪われちゃったの? Σ(゜∀゜ノ)ノキャー


 俺の思考回路は完っ全にオーバーヒート、脳みそメルトダウンを引き起こしていた。


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