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第二夜、紫色夢物語

――ただの夢問屋だよ、お嬢さん。

あまりにも聞き慣れない答えに私は顔をしかめる。

夢問屋?問屋っていうのはつまり専門店って事で…花火屋とは縁遠いと思うんだけど。

その様子に気付いたのか、結城は話を続けた。

「見てくれだけで判断するのなら、僕のような者を『陰陽師』と呼ぶ人もいるよ。だけどその解釈は正確には間違っていてね。確かに僕は妖怪のような『人』を夢から引き戻す事はできる。だが、彼らのように呪術を使ったりはできないからね…。」

全く意味が分からない。この人は説明をしてくれているのか、それとも私を混乱させようとしているのか、判断がつかない。…しかし、先に言った通り、私は彼が「何者なのか」知りたいだけで、特に今回巻き込まれた不思議な出来事については、何一つ責めようとは思っていないのだ。

……むしろ好都合。

納得していないながらも、結城の言葉を聞いて気付かない内に企みが顔に出てしまっていたのか、ちらと、こちらを見た結城はまるで奇怪なものを見るように眉を寄せた。

「…ふむ、君はあれだね。僕の商売道具を『若け(しけ)』させた程だから、普通の人とはどこか違うとは思っていたんだが…。君の意図が分からない内では僕の商売を安心して任せられないからね――何を企んでいる?」

まるで、口止め料を聞いているような言い方だった。

「いえ、別に何も企んだりはしてませんよ。ただ、その『手伝い』というのに一つ条件さえつけてくれれば、見返りなんて要りません。むしろ喜んで協力させてもらいますよ。」

「ほう、君はやっぱり奇怪だね。確かに僕の今までの客とは違うようだ。奇怪を通り越して少し不気味でもある。…で、条件というのは?」

「この夏でこれから起こりうる物語を、私にください。」

「…………は?」

そう言ったまま、結城はしばらくの間固まっていた。







「つまり、こういう訳か。君は将来の夢とやらの為に、この夏、楽曲を仕上げる事を課題とされていて、その題材を、僕の商売についてにしたいと?」

「はい。まあ簡単に言うとそんなとこです。」

結城は店番用の椅子代わりにしているらしいダンボールの上に胡座をかき、いかにも理解し難たいといった顔をし、目をつむりながら煙官を持っていない方の手で自らのこめかみを押さえていた。

「君は…その…、変わった思考…いや、嗜好の持ち主と言うか、常識外れと言うか。今朝方起こり得たはずの出来事を目の当たりにして尚、よくその考えを持てたね。……僕が言うのもなんだけれど、敢えて言わせてもらうならば君は――」

とても変わっているね、と、表情は変えないまま、目だけを私に向けて結城はそう言った。

「変わっている、と言うのは私にとっては褒め言葉ですよ、結城さん。」

対して私はニコニコと答える。

「……なるほど。僕としては感慨深いものはあるが、条件というものは分かった。その条件を受け入れた上で、再度君に僕の手伝いを申し込むよ。…ただし、それについては僕からも一つ条件を提示させて貰うよ。」

「…条件って?」

まさかここまで来て企画倒れかと、不安の色を隠しきれないでいると、結城が店の台へと身を乗り出してきた。

そしてまた、不敵な笑みでこう言うのだ。

「その楽曲とやらができた暁には、僕にも一度、聴かせてはくれないか?」

…私は露骨に顔をしかめる。

「なんだ、そんな難しい事じゃないだろ。」

「いや…それ自体は全く構わないんですが…。」

「じゃあ何か不満が?」

私は、しかめた顔を崩す事なく答える。

「正直、貴方に芸術的感性があるとは思えなくて…。」

「………失礼だな、君は。」

その後、私の意見に反論すべく、結城は大衆論がどうとか、恋愛的概念がどうとか、訳のわからない事をまくし立てていたが、適当に流していた私の曖昧な返事に渋々納得したのか、さて、と話題を変えてきた。

「これで契約は成立、という事で問題はないと思うが肝心の仕事内容を話しておかないと。」

そう言いながら結城は店の下でなにやらごそごそとし、一つの小箱を私に差し出した。

それは朱い、蝶や扇などが描かれた和柄の小さな箱だった。

「なんですか、これ?」

「まぁ、開けてみな。」

言われた通り手に取り、蓋をそっと開ける。

中には透明な硝子玉が詰まっていた。

「それはね、悪夢を入れる数珠なんだよ。僕はそれをある筋の人達に売って生業をしていてね。だけど困った事に、どうやら僕はこの神社から出られなくなってしまったようでね。」

どこまでも他人事のように結城は言った。

「出られないって…何でですか?」

「結界。元々ここにはこの神社が目的で来てたんだよ。変な噂を聞きつけてね。――が、まんまと罠にかかったと言ったところか。悪夢を封じるどころか、知らぬ間に僕が封じられてたって訳さ。」

「封じられたって…そんな呑気に構えてられるものなんですか?」

「君が来る事が分かっていたからね。」

間髪入れずに結城が答える。

「…随分と買って頂いてるんですね、私。」

茶化すように言ったはずが、意外にも真剣な顔で返される。

「ああ。僕も正直、会って驚いたよ。『彩』ね…よく考えたものだ。この業界では頂点に位置すると言っても過言じゃないからねえ。僕からしてみれば君は力強い助っ人という訳さ。花火を見られたのは唯一の誤算だったが、それもかえって君にとっては良かったみたいだね。……要らぬとこまで巻き込んでしまった気もするが。」

「……え?」

結城はそれ以上聞くなとばかりに軽く頭を振り、話を元に戻す。

「さて、君にお願いしたい事は大きく分けて三つ。一つ目は客をここまで連れてくる事。二つ、僕の仕事の立会をする事。そして三つめ…。」

そう言うと、浴衣の帯から皺くちゃになった千円札を私に差し出した。

「…これは?」

「さっき言ったろう?不本意ながら、僕はここから出られない。何か買ってきてくれないか?もう三日も何も食べていないんだよ。」








「それで、結局のところ今は私が『客』と呼ばれる人を連れて来ない事には話が始まらないって事ですね。」

「ああ。客の見分け方は……まぁ、見りゃ分かるか。よろしく頼むよ。」

結城は私が買って来たお弁当を水で流しこみながら言った。

「…よっぽどお腹が空いてたんですね……。」

「そりゃあね。僕だって一応は普通の人間だから腹だって空くさ。水に困る事はないが飯は別。」

そう言いながら神社の入り口にあった水場を指す。

「なるほど。じゃあその向かいにトイレもある事ですし、ご飯以外は……あの、つかぬ事をお伺いしますが。」

嫌な予感がした。

「あ?何か?」

「…お風呂は?」

「ああ、それは御無沙汰だねえ。」

「…………そう、ですか。」







そうして夜にまた晩御飯を持参する事を約束して帰宅した。

「客は見て分かるって言ってもねぇ…。あの人、どこまでもあやふやー…」

特にやる事もないのでベットの上でゴロゴロとしながら考えていた。

「やる事も特にないし、適当に歩いてたら見つかるかなぁ?」

[さて、それはどうかな。]

ベットの下の方から老いた声がした。

覗いてみるとルパンが座っている。

「ルパンの声まで聞こえるようになっていたとは…。」

ベットの上から覗いているので、逆さまの状態から話かける。

[少し考えれば分かりそうなものだがな。]

のそのそと、ルパンがベットの下から出てきて、ベットの上にいる私の足の間に座り直した。

「…ルパンがこんな近くまで来るなんて、意外…。」

[別にお前が怖い訳ではない。ただ、花が臆病でな。]

「ひょっとして…ルパンと花ちゃんって…。」

[恋仲だ。]

そう、素っ気なく言うルパンを見て、思わず吹き出してしまった。

「る、ルパンが照れてる…っ!」

[なんだっ、お前だって恋人の一人くらいおるだろう!]

「お、大きなお世話ですっ!」

それに私は作ってないだけで、作ろうと思えばいつだって…!

[ほう。つまりは負け犬か。]

「…猫に犬とか言われたくありませんー。」

そう言うと、ルパンは豪快に笑った。

[それはそうだな。まぁ、せいぜい陰陽師の小僧っこにでも構ってもらうんだな。]

「え、ルパンは結城さんの事知ってるの?」

[三日前くらいにな。猫は勘がいいから、陰陽師の生意気な匂いくらいすぐ分かる。]

「ふーん…。」

三日前、つまり結城は別のどこからか三日前にあの神社を訪ねて来たという訳か…。

だから標準語って事か。意外と元は東京とかにいてたりして。

[ところで、客がどうとか言ってなかったか?]

「あ、忘れてた。」

[こみせ通りの風鈴屋に行ってみるといい。]

あそこには疾る石がいる――

そう言い残して、ルパンは静かに寝息を立て始めた。

全く、気まぐれな猫だ。

でも、せっかくの助言だし、行ってみない事もない。

昨日と違い、空も快晴だ。お散歩にはいい日和である。

「よし。じゃあ行ってみますか。」







そんな訳で、言われた通りに風鈴屋まで来てみた。

この辺の道は「こみせ通り」と言って、それなりに赴きのある建物が並んでいる。

その中でも風情のある風鈴屋はとても魅力的で、特に買う予定なんてないのに思わず入ってみたくなるような雰囲気がある。

あちらこちらにぶら下がっている風鈴は、どこか結城の屋台の花火達にも似ていた。

「あら、今日は随分と若い人が来たのね。」

私が店内を見て回っていると、店の奥から綺麗な女の人が出てきた。

見た目はすごく女らしいのに、着ている服がジーパンにTシャツというラフな格好で、ちょっと違和感を覚えたが、それ以上に彼女は人とは「違って」いた。

――客は……見れば分かる。

彼女の周りには、紫の焔のようなものが纏わりついていた。

ぽかん、としている私を不思議に思ったのか、彼女は首を傾げた。

「私に、何か?」

咄嗟に我に返る。

「え…い、いえっ!えっと…あの……。」

正直、何と言っていいのか分からなかった。

『お客なんですよね?』なんて言ったところで彼女には分かり得ない事だったし、第一、夢問屋がどんな店であるかを私は知らない。売っているのは花火でしかないのだから。

直球に、花火は要りませんか?と聞いても、断られるだろう。

「ふふ。不思議な方ね。」

そう言って彼女は笑った。

くそう…夢の奴!

女みたいな名前しやがって…!

あいつがちゃんと説明してればこんな事には…!

…ん、夢?

「あの…。」

「何かしら?」

「ひょっとして、最近変な夢でも見ていませんか?」

我ながら、変な質問だと思う。

私が初対面の人にそう言われたら、まず変な人だと思うだろう。

しかし彼女は顔色を変えて、怯えたように聞き返してきた。

「何で…その事を…?」

「何でっていうか…ちょっと仕事で…?」

意味の分からない私の返事も半分耳に入っていないのか、彼女は弾かれたように私の肩を掴み、懇願するような目でうなだれた。

「お願いです…助けて下さいっ!このままだと私…あの人を殺しちゃう…っ!」

怖すぎる一言だった。







どうにかこうにか彼女を宥めて、結城のいる神社まで案内したはいいが、彼女はやはり地元の噂を知っていて、最初は躊躇っていたけどなんとか結城を紹介するところまでこぎつけた。

当の結城といえば、だるそうに段ボールを並べて昼寝なんかしていたのだが、彼女を見るなり飛び起きて、それを私が横でじと目で見ているのを見て、彼女は戸惑っていたようだったけど誤解されないようこっそりと言っておいた。

「やぁ、お嬢さん。夢を御所望で?」

営業スマイルとは思えないようなとびきりの笑顔で結城は言う。

「え…?」

「ああ、構えなくて大丈夫だよ。僕は『結城夢』。名前で呼ぶな。以上。で、貴女のお名前を教えてもらえるかい?」

…やっぱりこの人は「以上」で終わらないらしい。

「あ、はい…私は山本紫織と申します。」

「ああ、なるほどね。じゃあ貴女は花一華だ。」

そう言って、店につり下がっている籠の中から一本の手持ち花火を彼女――紫織さんに手渡した。

「あの…これは…?」

「それを今日の内に燃やしてくれれば、後は僕らの方でなんとかしよう。全てが片付いたらお代は二万円程。いかがだろうか?」

そう、張り付けたような笑顔で言う結城を不思議そうに見ながら、微かに紫織さんは頷いた。

「良かった。じゃあとりあえず貴女が此処にいる意味はもうないから、気をつけて帰るといい。」

「え?あ…はい。」

少し迷いながらも私達に背中を向け、振り返る事なく立ち去る様子を見送り、彼女の姿が見えなくなってからようやく結城は口を開いた。

「あー、緊張した。」

伸びをしながら段ボールにうなだれている姿は、緊張したと言うよりも疲れたような様子だ。

隣でうなだれている結城の前にしゃがみ込む。

「まぁ、あんな美人を前にしたら緊張もしますよねー。」

呆れたように言ったつもりが、やきもちを妬いているように聞こえたかもしれないような口調で言ってしまった。

「何だい、彩ちゃん。ひょっとして、君の方が嫉妬してるのかい?」

「…その呼び方やめて下さい。そんな歳じゃありません。」

ニヤケ顔で覗きこんで来る結城に背中を向けながら答える。

「ほう。つまり嫉妬している事は否定しない、と?」

そう言った得意げな声と共に、煙管に火をつけるマッチを擦る音も聞こえた。

「…あんまり喋り過ぎると舌を噛みますよ、『夢さん』?」

したり顔で振り返ると、結城は珍しくぽかんとしていた。

段ボールに頬杖をつき、煙管を持ったまま固まっている姿はいかにも間抜けだった。

「いやあ、呼ぶなと言っておいてあれだけど、君からはそう呼ばれる方がしっくりくるね。」

間抜けな表情のまま、少し嬉しそうに言う。

「………は?」

「うん、これからは名前で呼んで貰って構わないよ。」

満足げに頷く結城が憎たらしくて仕方ない。

せっかく嫌がらせのつもりで言ったのに、喜ばれてたら立つ瀬がないじゃない!

けどもう仕方がないので一つため息を吐き、諦めた。

「…それ、私じゃなくて紫織さんに言ったらどうです?『花一華』だなんてクサい褒め言葉より、よっぽど女の子は喜ぶと思いますよ?」

「花一華…ね。喜ばれるかどうかは別として、僕は褒め言葉として使った訳じゃないよ。」

煙管の煙を吐き出しながら言った言葉は、意外にも冷静で。

どこか遠くを見ているように言っていた。

「君に言っただろう?……君の方『が』嫉妬しているか、と――まあ、君が嫉妬しているかどうかは別として、彼女は少なからずそうだろうけどね。」

「…私は嫉妬なんてしてませんし、紫織さんが初対面の貴方に嫉妬するとは思えません。」

冷たく言い放った私の言葉に結城は少し苦笑いを向けて、そこまで自惚れてはいないよ、と言った。

「まあ、それは今晩分かるだろうから…嫉妬の真相は本人にでも聞こうか。僕から言ったんじゃ語弊も生じるだろうしね。」

そこまで聞いて、ある事に気がついた。

「え、今晩何かあるんですか?」

私の質問に、どこか得意げな顔で結城は答える。

「悪夢払いだよ。それが僕の商売だからね。」

…悪夢払い。

確か、紫織さんは夢で悩まされてると言っていた。

真相は聞いていないけれど、それこそ――人を殺してしまいそうな程に…。

悪夢とはそんなに恐ろしいものなのだろうか?

私が一人考えていると、それに気付いたのか、結城は続ける。

「悪夢と言っても、僕は払える悪夢しか相手にはできない。ただ見るだけの夢ならば誰だって見るし、それは個人の感情に準じているものだからね。けど、人の見る夢には他の『何か』が潜んでいる場合もあるんだよ。それは自尊心をも壊しかねない…そう、例えば……」

言いながら、私が髪に挿していた(かんざし)を抜き、まとめた髪が落ち切る前に、結城はその簪を私の喉元に当てた。

「夢から覚めた時、既に誰かを殺めている可能性だってある。」

チリン、と簪に付いていた鈴が鳴る。

「…………。」

動けなかった。

蛇に睨まれた蛙とはこういう事を言うんだろう。

結城の表情は決して睨んでいる訳でもなく、むしろ少し微笑んでも見えると言うのに。

強張った頬に冷や汗が伝う。

「…まあ、そんな事が起きないように、その『何か』を払うのが僕の商売な訳だけどね。」

今回で言う『何か』が花一華…なんだよ。と、最後に独り言のように呟きながら、簪を下ろし、私に手渡した。

手渡された私の手は、少し震えてしまっていたのだけど。

「…その、花一華って言うのが紫織さんの悪夢の原因なんですね?」

言いながら、密かに簪を受け取った手を握り締める。

「そう言おうと言うのなら、そうとも言える。」

「……そうですか。」

頬杖をつきながら非常に曖昧な回答をした結城に呟くように返してから、一つ大きく息を吸う。

吸ってから簪を握りしめた手を振り上げて――

「ぶっ。」

結城の頭部めがけて振り下ろした。

ゴッ、と鈍い音がし、結城は顔面を段ボールに埋めた。

「何ナチュラルに脅してくれてるんですかっ!すっごい怖かったんですからね!?」

それなりの剣幕で言った私に間の抜けた返事が返ってくる。

「いやあ…ごめんごめん。ついだよ、つい。」

意外にも結城はそんなにダメージを受けている風でもなく、段ボールから顔を離した。

「つっ!つい、で、殺されそうなシチュエーションになってたまりますかっ!」

もはや私の方は半泣きだ。

だってそれ程に怖かったのだ。…うん。

「あー…。悪かった。とりあえず泣くな。困る。」

言っている程、悪びれても困っている風でもなく、苦笑いしながら頭を撫でてくる。

私にしてみれば、撫でると言うより頭に圧力をかけられたようなものだった訳だけど。

「だから、子供じゃないんですってば!」

力任せに頭に乗せられた手を振り払う。

今更ながらも、殴った右手に痛みが走った。

「――っ!」

思わず自分の手を庇ってしまう。

「僕の頭は石頭だからね。」

そう平坦に言いながら、結城はまたゴソゴソと店の下をあさり始めた。

そうして大きな黒い木箱を出し、蓋を開けると一枚の白い紙を取り出した。

…どうやら湿布薬らしい。

「僕の頭にダメージを与えようなんて思ったら、トンカチでも持ってこないと。」

半ば本気にも聞こえる冗談を言いながら、結城は手際よく私の手に湿布を巻いてくれた。

「……ありがとう、ございます。」

バツが悪くなって俯いている私を尻目に、結城は薬箱を片付けると、また煙官を吹かし始めた。

「………。」

なんとなく重くなってしまった空気から逃げるように、結城に背を向けたその時。

「で、一つ聞きたいんだが、花一華をどうやって見つけた?」

振り返るといつもの不敵な笑みで結城がこちらを見ていた。

「……え?あ、えっと…家の猫から聞いて…確か、走る石がどうとか…」

我ながらに、どうかしている会話だと思う。

しかしその返事を聞いた結城は感慨深そうに腕を組み、ため息をついた。

「なるほど、あの生意気な老いぼれ猫は君ん家の猫だったか…。僕としてはどうも気に食わないんだが…まあ、商売がらみだから仕方ない。」

眉間に皺を寄せて言っているのを見るだけで、ルパンと結城が犬猿の仲という事がわかる。

どうやら相当仲が悪いらしかった。

…いや、まず猫と犬猿の仲ってどうなのよ。

「それにしてもあの猫、花一華を『疾る石』と言ったか…。伊達に歳をとってないってか。」

どこか悔し気に言う結城を見て首を傾げる。

「えっと…その、『走る石』ってなんなんですか?」

そんな私の疑問に対し結城は、ああ、と小さく呟いてから近くにあった木の枝を拾い、それで地面に文字を書いていく。

「君は『疾る』を『走る』と勘違いしているかも分からないが、実際に字として表すとこう書く。」

言いながら、少し間を空けて『疾』と『石』という文字が描かれた。

「そして菖蒲の宿し主の性別は?」

謎々のように問い掛けてられたその答えを口の中で言いかけて、やっと気がついた。

「ああ、嫉妬!」

「その通り。」

言って、先程の字に『女』が付け足される。

『女疾 女石』

こうして目で見てから改めて関心してしまう。

なるほど、よく考えたものだ。

「嫉みに妬み…どうして女ってやつはそう恐ろしいのかね。疾る石とは正にその事だ…危なっかしくて手が付けられない。」

しゃがみ込んだまま頬杖をつき、いかにも理解できないというような表情で結城は言った。

「そんな恐ろしいものを目の前にして、緊張せずにいろ、と言う方が男には難しいもんだ。」

口許を吊り上げこちらを見る。

そしてその意図が分かってしまった瞬間にはもう遅かった。

「………え。」

「いやしかし困ったな。僕にはロリコンの気はないんだがなあ…。と、言っても許容範囲内だよ。」

言いながら立ち上がり、ボリボリと頭を掻いた後、私の肩にポン、と煙管を持っていない方の片手を置いてきた。

「まあ、頑張りなさい。」

ムカつく程、いい笑顔だった。

「…………て、違ーうっ!!!!!」

叫びながら置かれた手を振り払う。

…本日二度目である。

「私がそう言ったのは、女タラシに対しての軽蔑の意であって、別に嫉妬とかそういう類のものでは決してないですっ!勘違いも甚だしい!大体、じゃあ何で花一華が関係あるんですかっ!褒め言葉ではないならなんなんですか!わっつ!?」

我ながら、後に考えると取り乱し過ぎだと思う。

そんな手の付けられない状態の私に対し、結城は依然変わらぬ笑顔のまま。

「まあまあ、確かにツンデレは可愛いけど少し落ち着こうか?幸い、君には時間も余裕もある。なにしろ僕は此処から出られないからねえ。焦らずとも大丈夫さ。」

宥めるように両手で制しながらそんな事を抜かした。

「……………はぃい!?ちょ、人の話聞いてますっ?だから私は――」

「花言葉だよ。」

言いかけた私の言葉を遮るように結城が言った。

「…花言葉?」

「ああ、花一華…つまりアネモネの花言葉は嫉妬という意味もある。強いて言うならそんなところだろう。…もっとも、僕はそんな抽象的な意味で花一華と言った訳ではないんだが…まあ、君も見れば分かると思うよ。」

見れば分かるって……この人はこればっかりだ。

なんとなく、この結城という存在が分かってきた気がする。

この男は何に対しても面倒くさがる奴なのだ。

きっと、この人が大変な情報を所有していたとしても、その情報は詳しく何かに記され、後に語り継がれる事もないだろう。

なぜなら、それ程の面倒くさがりだから。

だからこそ、『夢問屋』なんて訳の分からない職業が訳のわからないまま世の中に存在しているんだろう。

――見れば分かる。

そう、一言であっさり片付けられたままに…。

「もう、分かりましたよ。どっちみち今夜分かるんですよね?」

「………。」

どうせこれ以上聞いても面倒くさがられるだけだろうと諦め、明らかに肩を落としながら答えると、いきなりデコピンをかまされた。

「あたっ!?」

痛みよりも驚きで額を押さえながら顔を上げると、いつになく真剣な顔をした結城の表情があった。

「今夜…ちょっと不安になってきたな。君は確かに他の何者にも劣らない気質はあるんだが…それ故に危なっかしい存在でもあるんだ。だからこそ君は――安易過ぎる。」

弾いた指は額を指したまま。

困惑を隠しきれない私は目を泳がせる。

「え、いや…あの…。」

「あと、分かりやす過ぎ…。」

言いながら、今度はコツンと小突かれた。

小突いた当人である結城は、先程までの真剣な表情を崩し、苦笑いを浮かべている。

「まあ、そこが君の良いところでもあり悪いところでもあるんだろうね。実際、君がここまで安易でなかったなら、僕は君に助けられる事もなく、此処で飢え死にしていただろうからね。だから僕は本来なら君のその安易さに感謝はできても否定はできないんだけどね…。でもまあ、忠告と言うかこれは僕からのお願いとして聞いて貰おうか。」

そう言ってから煙管を一度ふかして、一旦間を置いてから先程の真剣な面持ちで言う。

「安易で構わない。分かりやすいのも仕方がないが、君は君のままでいる事を忘れないでくれ。」

…正直、言っている意味がよく分からなかった。

だって、今まで生きてきた中で私が私でいるのなんて当たり前で、そうあることが当たり前だと思っていたから。

私が私でない瞬間なんて、それは舞台の上に立った時くらいでしかない。

私が志した夢。

ミュージカルを手掛ける事。

そして、手掛けたミュージカルを演じる事。

その時初めて、私が私でなくなるんだと思う。

だから、正直、目の前の男が言っている「お願い」の意味は、その時の私には分からなかった。

けれどその真剣な目つきに説得されたかのように、私は頷く事しかできなかった。

「うん。君はそれでいいんだ。」

そんな私の様子を見た結城は、一度満足そうに頷くと、わしゃわしゃと私の頭を撫でてきた。

そして、話はここまでだと言うように一度伸びをし、さて、と話題を変えにかかった。

「君もそろそろ家に帰って休んでおくといい。今夜、早々に悪夢払いが終わるとも限らないからね。」

そう言った結城に対し、私は小さく悪態を吐きながら撫でられてボサボサになった髪を整えながら尋ねる。

「その今夜って何時くらいに来ればいいんですか?」

その質問に対して、ふむ、と一度考えるように顎を撫でた結城はほんの少しの間、何か思案をするように視線を泳がせてから

「まあ、十二時までに来てくれれば確実だろうね。」

とても曖昧な回答をくれた。

「ああ、勿論僕への差し入れを忘れないでね。」

そう言う結城を見て苦笑いを漏らしながら、わかりました、と言って思い出した。

「あ。」

「ん?どうしたんだい?」

思わず声を上げてしまった私に、結城が怪訝そうに尋ねる。

「えー…いや、こっちの話です!」

「…そう?ならいいんだけどね。」

なんとも曖昧な返事をした私に、面倒くさくなったのか、また結城は煙管をふかした。

「じゃあ、また今晩来ますね。」

「ああ、よろしく頼むよ。」

言いながらまた段ボールを並べて寝台製作に取りかかっている結城を背に、私は帰途へ向かった。



◆ ◆ ◆



――夜。

九時にはいびきをかいて寝始めていた祖母ちゃんを起こさないよう、静かに家を出た。

時間は二十三時。

約束の零時には早かったが、頼まれていた食糧の他、私にはどうしても用意しておきたい物があったのだ。

近くの二十四時間営業のスーパーで食糧とその物資を買い、結城のいる神社へと向かう。

それにしても早すぎたのか、二十三時半には其処に着いてしまった私に、随分遅かったねえ、なんて皮肉めいた事を言いながら結城は店の下からひょっこりと顔を出した。

何をしているのかと思えば、またもや何か探してあさっているらしかった。

しかしそれも嫌気がさしてきたらしく、私が神社の境内から店の前まで来る間にはもう諦めて、

「まあいいか。これは後にして夕食にでもするとしよう。」

そんな事を言った。

本当、面倒くさがり過ぎる。

でもまあ出し渋っても仕方ないので約束の食料(鮭むすび二個)を手渡した。

軽く礼を言って受け取ったはいいが、それ以上に大きな袋を私が提げていたのを見つけた結城は、首を傾げた。

「その中は…一体なんなんだい?」

渡した袋の中からおにぎりを一つ取り出しながら尋ねてくる結城に私は答える。

「ほら、夢さん言ってたじゃないですか。風呂はご無沙汰だって――だから私、買ってきたんです。」

言いながら、袋の中を見せる。

中にはシャンプーやら歯ブラシやら、新しい浴衣が入っている。

「ほう。これはまた気がきくねえ。しかしこれだと僕の財布に大ダメージなんだが…。彩ちゃん、そこんとこ分かってる?」

「だから、その呼び方やめて下さい。いっそ呼び捨ての方が清々しいです。…それに大丈夫ですよ。こっちの料金はとりあえず私が負担しときますから。勝手に買ったものですしね。…だからそこのところは仕事払いって事で、よろしくお願いします。」

そう言った私の最後の方の言葉の意味がいまいち理解できなかったのか、結城は眉をひそめた。

「それはつまり、今回の報酬を君にあげればいいって事かい?」

言いながら、結城はおにぎりのビニールを取りにかかっていた。

「いえ、それはその…いいもの見せて下さいね、って事です!」

「…ふうん。」

やっぱり物好きだね、と言いながら結城は手元のおにぎりの海苔を豪快に破いた。

豪快と言うか、真っ二つなのだが。

「あーあ。」

悪態をつくでもなく、面倒くさそうに海苔をビニールから引き抜いて口に入れる。

本当に面倒くさがりだな。

てか意外にも不器用すぎないか…?

そう私が思っていると、仕舞いには中のご飯までも崩れ始めていた。

「………。」

悪戦苦闘しながら食べている姿を眺めながら、もう一つあった方のおにぎりを綺麗に出しておいてあげた。

「夢さんて、意外と不器用だったんですね。」

私も器用な方ではないですけど、と言っておにぎりを手渡すと、

「…大きなお世話だよ。」

なんとも悔しそうに結城はそう言った。

そんな様子がどこか子供っぽくて、可笑しくて笑ってしまう。

対して結城は少し恨めしそうに、笑っている私を見ながら手渡したおにぎりを頬張りふて腐れている。

「そんな調子で今晩大丈夫なんですか?」

まだ笑いが収まっていないままに言った私に、結城は不敵な笑みで答える。

「そこの心配は無用だよ。そうでなきゃ、専門家なんてやってられないからね。」

と、かっこつけて言った頬には、私がこっちに来て早々見たお祖母ちゃんのようにご飯粒がついていたのだけど。

そうですか、と笑いを堪えながら答えて、それを指摘するべきか悩んでいる内に結城はおにぎりを食べ終わり立ちあがった。

「さて。そろそろ準備するかな。君はじゃあ…この辺りに座っているといい。」

言いながら、一辺が1メートルくらいある敷物を広げる。

「え、私座ってるだけですか?」

「言ったろう?あくまでも立ち会うのが君の仕事で、それ以上は求めてはいないさ。」

言って、何か忘れていた事に気がついたのか、結城は頭を抱えてうなだれた。

「あー…そうだ、忘れてた。」

何かと思って尋ねると、茶目っ気たっぷりに私を見、

「探し物と整理整頓だけはどうも苦手でね。」

ぬけぬけとそんな事を言ってみせた。




◆ ◆ ◆



そんなこんなでその『探し物』を二人掛かりで探していて、気付けば零時を回っていた。

けれど面倒くさがりの結城が整理もろくにしていない店の下は、私から見れば訳の分からないものだらけで、とても探し物――昨晩見せて貰った数珠の入った小箱を見つけられそうになかった。

「これ、見つからなかったらなんかまずいんですか…?」

正直、見つかる気がしなくなってきていた私がそんな弱音を吐いた時だった。

睨みつけるように結城が振り返ったその先に、夢遊病のようにフラフラとこちらへ向かって来る紫織さんがいた。

「やあ。来たねえ。」

小箱を探してしゃがんでいた位置から立ち上がりながらそう言った結城を目で捕えるなり、紫織さんはその場に倒れた。

そして、紫織さんが纏っていた紫の焔が大きくなりみるみる内に人の形を模して、最後の焔が消えた瞬間には、紫の着物を着た大人の女の人が目を閉じ、倒れた紫織さんの隣で厳粛に立っていた。

「何を言うか若造よ。そなたがわらわを此処へ導いたのであろう?」

そう言いながらゆっくりと目を開いた。

……最初は見間違いだと思った。

けれど違う、彼女の閉ざされていたその瞳は――紫色をしていた。

人外のものだと感知するには十分すぎる存在だった。

それを固まったまま見ていた私を一瞥すると、私の周りに足で何がを描き、

「其処から絶対に出ないでくれよ。」

そう言い残し、結城は足を進め、その『何か』と対面した。

「…ふん、陰陽師風情が…生意気な真似をしおって…。わらわを封じでもする気かえ?はっ。そなたの技量でそれができるなどと思うでないぞ、若造よ。」

「いやあ…僕は陰陽師なんて立派なもんじゃないんでねえ…。でも君を封じるくらいなら訳ないさ。なにしろこっちは専門だからね。」

冷たく言い放った彼女に対し、結城はまた煙管なんか吸いながら笑顔を貼り付けて答える。

それが気に入らなかったのか、彼女は大いに声を荒げて返す。

「何を言うか若造!陰陽師でもない者がわらわを封じる気でいると!?」

「まあまあ、そうカッカしないでも。確かに陰陽師ではないけれど僕は夢問屋でね…。君のような存在しか相手にできないからこそ…君のような存在の事は陰陽師より遥かに多くを知っているよ。」

結城のその言葉で、彼女の顔が引きつった。

そして、先程の声よりずっと小さく、低い声で、

「そうか…そなたが噂に聞く夢問屋であったか…。ならばもう何も言うまい。」

言ったと思ったと同時に、彼女は結城の懐まで飛び込んでいた。

「手を打つ前に――消えるがよい。」

そうして長い爪を結城の喉に立てようとし、その参段は虚しくも空を切った。

「いやあ、やっぱり怖いねえ、女ってのは。」

そう彼女の背後から言っている結城は、彼女の攻撃を煙管一本で難なく受け、避けていた。

「――っ!」

張り詰めた空気が辺りを覆った。

その雰囲気に似つかわしくない暢気な声が辺りに響く。

「自分で言うのも難だけど、花一華とは綺麗に例えられたものだよ、実際。嫉妬なんて恐ろしくて適わないからねえ。まあ、僕はただ単に見た目的に1番合ってる気がしただけなんだけど。……で、君はつまり僕の目的を把握してる訳だよねえ?て事はこの状況で大体察しはつくはずなんだけれど…どうだい?ここで取引をするのは。悪い話じゃないとは思うんだけどねえ。」

言いながら、彼女――花一華に歩み寄る。

ただそれだけの動作なのに、まるで銃を向けられているかの如く、花一華は動くことを許されていないようだった。

「と、取引とは…?」

動かず、振り返る事すらままならない体制のまま花一華は肩越しに尋ねた。

それに対して結城は煙を吐き出したがら答える。

「いやね、僕の方もまあ妥協点ではあるが、今回は夢の『けつ』だけくれればお役御免って事で。君自信まで封じる事は見逃しておいてあげるよ。」

「………。」

結城の脅しともとれる言葉に花一華は沈黙し、肩越しに憎々しげな表情を向けた。

対する結城はそれに気付いているのかいないのか、依然として暢気に煙官をふかしている。

……と、花一華がこれまで眼中にも入れていなかった私の方に視線を向け、殺気をも感じさせる形相でこちらを睨んだ。

「………へ、?」

「娘子よ、そなたはこの提案、どう受け取る?」

声音だけは優しく、その言葉は私に投げかけられた。

「あ…えっと……」

その返答に困っていると、感情を殺すように目を閉じ、花一華は続ける。

「つまりだ、この者はわらわに、『殺めぬ代わりに消えよ』と申しておるのだ。これはあまりにも理不尽ではないかえ?故にわらわは最後にあがく事を好としようと思うのだ――」

言うが早いか、動くが早いか。

その瞬間には彼女が私の眼前で微笑んでいる顔が迫っていた。

尋常ではない早さでそこまで距離を縮められては、私も驚く隙すらない。

しかし次の瞬間、目の前で起こった事に目を見張る。

……花一華が現れた時と同じように、紫の焔をあげて炎上し始めたのだ。

「……く、生意気な若造よ。結界とは念のいった事よのお…。」

燃え上がる焔を身に纏い、崩れて四つん這いになった状態で花一華は結城を睨んだ。

それを眺めながら結城は、ゆっくりと歩を進めながら言う。

「実際、君がそう目論んだ時点で、生意気も何も僕の判断が正しかっただけじゃないかい?」

そうしてギリギリまで近付き、目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。

「じゃあ交渉決裂って事で。」

にぃっと笑った結城に額を人差し指で突かれ、花一華は顔を青くして後ずさった。

そうして何も言えないままに、燃える焔の中、花一華は小さくなってゆく…。

いや、この場合は『若返る』といった方がいいのだろうか。

焔が大きくなるにつれ、どんどん幼くなってゆくその姿を見て、私は終わったのだと安心しきってしまっていた。

だからこそ、先程の結城の言葉は的確で、私はもっとちゃんと考えておくべきだったんだと思う。

でも、気付いた時では遅すぎた。

結城の言う通り、私は――安易すぎた。

ほっと一息ついて、その信じられないような光景から目を逸らす事なく後ずさる。

そして私は、結城の描いた「結界」から出てしまった事に気付かなかったのだ。


次の瞬間、私の体は神社の境内の外へと弾かれていた。


「――っ!」

背中を打ち付けられた痛みと共に我にかえる。

痛みで閉じていた目を開けると、私を押さえつけるように掴み、冷淡に結城を睨んでいる花一華の姿を見上げる形になった。

「彩…っ!」

私の名を叫びながら境内の外へ飛び出そうとした夢は、何か見えない壁のようなものに弾かれ、その場に片膝をつき、花一華を睨んだ。

「形勢逆転だ、若造よ。」

妖艶に微笑む彼女を見ながら私は意識を失った……。



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