蝶の影響
「今日のほっこりはカルガモの親子の大冒け……え? ここで緊急速報です。S県D市で発生した密室監禁殺人事件にて有罪判決を下され、受刑者となった間田志郎受刑者42歳が脱獄したようです。警察は市に警戒するように、と注意をしているそうです。」
「朝っぱらから嫌なニュースだなぁ〜ー〜。毎朝楽しみにしてるほっこりのコーナーが無くなっちゃったよ。朝から気分は最悪、でも仕事はやってくる。これこの世の不条理だよねぇ〜ー〜。」
まぁ仕事って言っても全部家で完結することなんだけどね。玄関の扉についてるCLOSEをOPENに変えた。運命店1号店、キャッチコピーは『あなたの運命、蝶の羽におまかせを。』だ。いずれチェーン店になるはずだから1号店。さぁ今日はどんなお客さんが来てくれるかな。
バン! バンバンバンバン! と、けたたましい音が玄関から響いてきた。仕事中だけどどうせ誰も来ないからぐっすり寝てたのに誰だよ全く。あっお客さんか。急げ急げ。
「おい! 早く開けてくれよ! OPENってあるのに開いてねえんだよ! どういうことだよ!」
「はーいはい落ち着いてくださいねーお客さん。近所迷惑でしょ。」
「お前が開けてないせいだろ!」
「はは、それはそのとーりだ。開けますからちょっと待っててくださいね。」
ガチャと開けたらびっくり、そこには今日の朝のテレビで見た顔がいた。
「あっお客さん……で会ってるますよね?」
「あぁ、そうだよ。なんか文句でも?」
「もん…くはないんですが、ちーとばかし怖いなぁって。」
「だろうな、しょうがないと思ってる。」
「意外と素直なんですね。じゃあ、早速本題入ります?」
間田は重力が突如10倍くらいになったんじゃないかと思うほど項垂れていた。いくら犯罪者でも人情はかけてやるべきだろう。
「あー、とりあえずお茶でも淹れましょうか。」
こくりと頷いた。お茶の種類は個人的に全人類好きだと思ってるミルクティーにしたらまさかの牛乳アレルギーだった。
すぐにレモンティーに変えて応接室に通した。ソファに座っている姿は本当に監禁殺人なんてしたのかと疑いたくなるほどちんまりとしていた。
「えっとぉ、考えなくても分かるんですが形式上聞きますね。あなたはどんな運命を変えたいんですか?」
「それはもちろんあの事件のことです。」
「えっらいキャラ変わりましたね、さっきまで何というかオラオラ系というか、イカつい感じだったのに今は営業マンみたいだ。」
「もともとの私はこういう感じってことですよ。あなたにビビられたんで今までの態度になっただけです。」
本当にこの人が監禁殺人なんておぞましいことやってたのか疑問になるほど丁寧な人だなぁ。嘘発見器とかあったらかけてみたいものだ。
「とにかく話させていただきますね。あの日の話を……」
あの日は晴れていた、急展開が多すぎて覚えてないことも多いが、これだけは妙に覚えていた。家から出る時の彼女の笑顔は今でもこの目にしっかりと焼きついている。
「行ってらっしゃい。今日もお仕事頑張ってきてね。」
「うん! 行ってくるよ。今日帰ったら話があるんだ。いいかな?」
「あー、うん。いいよ。」
今日は彼女にプロポーズするんだ。付き合って10年、同棲して2年。本当に長かったと思う。
彼女とは20歳差だが、本当に愛し合っている。この愛は本当だ。
るんるん気分を隠そうとしてたが、無理だ。さっきから平面を歩いてるのに視界が揺らいでいる。きっとスキップをしているに違いない。
そのままの気分で歩いていると、突然後ろから頭が硬いものに打ち付けられた。そのまま私は気を失ってしまった。
目が覚めると私含めて3人の人間が薄暗い部屋にいた。
「えっとー。あなたたち誰ですか?」
「それは俺の質問だ。それと、この部屋は何だよ。」
「知らないよ、僕だってエナドリ買いにコンビニ行ったら後ろから殴られたんだ。」
2人ともこの状況を理解できていないらしい。もちろん私もだ。
「あーテステス、マイクテストー。マイク入ってます? 入ってたら挙手してくださーい。」
ボイスチェンジャー越しの声がスピーカーから響いてきた。とりあえず全員で手を挙げた。全員はぁ? って感じだ。
「おっ聞こえてるんですね。よかったです〜。それじゃあ導入雑ですが殺し合いしてもらいまーす。わーぱちぱちぱちぱち」
3人の空気の中に戦慄が走った。それもトコトコと言った感じではなく、ダダーッと言った感じで全力疾走だった。
「あっ、でも殴り合った結果、男の腫れたブサイク顔なんて見てもだーれも幸せにならないと思うので一つルールを設けまーす。私の記憶が間違ってなければ今あなた方の手元には百均の包丁とアイマスクがあると思いまーす。とりあえずアイマスクをつけてもらって。あっ付けなかったらあなた達は世間的に死ぬと考えてください。」
流石にそれはまずい。私はこれでも公務員だ。付き合った当時、彼女は12歳。充分免職、もしくは刑事事件にまで発展してしまうかもしれない。他2人も滝汗をかいて呼吸を荒くしていた。何かしらバレてはいけないことがあるのだろう。3人とも素直にアイマスクをつけた。元々部屋が暗かったこともあって、視界はもう頼りにならないことが一瞬で分かった。この状態で立つことは困難だと判断した。きっと2人もそうだろう。
「じゃあ包丁を取ってくださーい。何秒か経ったら私がパン! と手を叩くのでそしたら包丁を人に刺してください。ですが私も鬼じゃない、別に刺さなくてもいいですよ。10回連続やって誰も刺さなかったらここから出ることを許します。私も人って意外と優しいんだなーって思うだけなので。それじゃあ早速一回目!」
全員沈黙と身体の停止を選んだ。1ミリだとしても動いたとしたらこの2人は2度と俺を信用しないだろう。
「ちぇっ、1回目はセーフですね。それじゃあ、また来ますんで。」
ちょっと時間が空いてようやくエナドリ買いに行った人が口を開けた。
「とりあえず自己紹介しない? 僕は浮屋海斗。テキトーに海斗って呼んでくれ。」
「私は間田志郎です、よくシローと呼ばれています。」
「俺は和田だ。てかお前ら初対面のやつによくフルネーム晒せるな。怖くねぇのか危機感が終わってんのかどっちなんだか。」
和田という男の発言は確実に正しい、だがこのような状況では常識は正しくないのだ。
私は和田がいた場所をしっかり覚えていたから2歩くらい遠ざかった。
「とりあえず私たちの共通点を探しませんか? 私は公務員です。一応彼女います。」
「自慢? まぁ僕もいるけど。」
「俺もいるけど自慢はきめぇぞ。」
明らかに自己紹介ミスったな。だが、彼女がいるという共通点は見つけられた。だがこれが分かったところでなんなんだ。
「はい! それじゃあ2回目!」
突然パン! と音が鳴った。今回も誰も動かなかった……はずだった。テク、テクと音がする。誰かが歩いている。和田だろうか。いや、もしかしたら海斗かもしれない。あのスピーカーの奥の人間が話してた感じ的に2人を殺したらここから出られると考えていいだろう。そして10回連続の方法だとスピーカーの人間が出た後に社会的に殺す秘密を発信してしまうかもしれない。それならこの2人を殺してこの建物のどこかにいるはずのスピーカー人間を殺すというが最善策だろう。
「おぉすごいですね。2回耐えれるなんて。それじゃあまた後で。あ! 言い忘れてた。手を叩いた後以外は動いてはいけませんよ。それじゃあまた後で!」
沈黙がこの部屋を包んだ。当然だ、この中に殺人という考えを胸に秘めてる人がいるのだ。怖い以外の感情があるはずがない。
だが一つ不可解なことがある。それは犠牲者が出ていないことだ。誰かが歩いた時点で一人は犠牲者が出ないとおかしい。きっと殺し損ねたのだ、殺そうとする前にスピーカー人間が終了を告げてしまったから、殺そうにも殺せなかったと考えるのが自然だろう。そう考えると犯人が分かってくる。私は和田から少し離れた。だから和田は私との距離が分からなくなったのだろう。きっと海斗もそうしてるはずだ。
「おい、とぼけんなよ! お前だろ和田!」
「俺じゃねぇよ! テメェら2人のどっちかだろ!」
海斗も同じ結論に至ったみたいだ。和田を糾弾していた。これで海斗と私の意見は一致した。和田を殺す。殺される前に殺さなければ。心臓バックバクで次の手叩きを待っているとその時は前触れもなく訪れた。
パン!
私は一心不乱に包丁を振り回した。和田に当たれ。当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ! 最初は声がしていたのだが次第に声がしなくなった。その時、私は自分のしたことの間違いに気づいた。何も振り回す必要はなかった。ただ和田に向かって包丁を向けて行くだけで良かったのだ。恐る恐るアイマスクを外すと、そこには3つの死体があった。
「ちょっと待ってください。今あなたは3つ死体があったと言いました? 現場にはあなたと和田さん、そして海斗さんしかいなかったはずですが。」
最初らへんの惚気話を聞いていた時は思わず間田を殴ってしまいそうだったがオチが強烈だった。いやまだオチてはいないのか。
「まぁまぁ、話は最後まで聞くものですよ。横槍を入れるものではないです。」
死体は切り刻まれていた、当然だ。私が振り回したのだからな。和田と海斗が死んでいたのは分かる。だが、もう一人の顔を見た瞬間、私は青ざめた。変な笑いや、あぁという声しか出なかった。そこには、私の彼女が死体として横たわっていた。
「その後、私は自首して今に至ります。」
間田から聞かされた話は言ってしまえば理解不能なことが多すぎる。まず、何故彼は突然後ろから殴られたのか。そして何故あの現場に彼の彼女がいたのか。
「はい、わかりました。そこで聞きたいのですが、あなたはこの運命のどの部分を変えたいのですか?」
「それはもちろんこの事件そのものを無かったことにしてほしいのです。」
「すいませんが、それはできません。間田さん、あなたはバタフライエフェクトというのをご存知ですか? 簡単に言えば小さな影響が時間経過と共に予測不能なほど大きくなってしまうことなんです。私は確かに運命を変えられます。ですが時間が経てば経つほどその力は弱まってしまいます。ですから、今僕があなたに出来ることと言えば彼女さんを生かす運命にする。ということだけです。」
間田は終盤は目をキラキラさせて聞いていた。本当なら僕は止めるべきなんだろう。この運命は彼にとって辛すぎる。
「この運命でお願いします。私は、私はただ! 彼女と平穏に暮らしたかっただけなんだ!」
「はい。分かりました。では、こちらの契約書にサインをお願いします。お代は……結構です。」
今、彼にお金を支払われてしまったら、僕は彼への罪悪感で潰れてしまうだろう。
彼は何の迷いもなく契約書にサインしてしまった。
「それじゃあ、お願いします。私はあなたのことを決して忘れません。」
「いえ、こんな変な人間のことなんて忘れた方がいいですよ。では、運命を変えます。」
僕が指パッチンをすると、間田は消えた。
テレビをつけた。ニュースキャスター達が最近発生した事件について話している。
「えー、S県D市で発生した監禁殺人事件の裁判で、灰田桜被告に対し、D市地方裁判所は、懲役20年の判決を言い渡しました。
灰田桜被告は、『やってみたかったんです、殺人。』と容疑を認めていたそうです。」
「いやー、怖いこともあるものですね。どうやらこの灰田桜被告は被害者の3名と交際関係にあったそうです。これは私の推論でしかないのですが、灰田桜被告は被害者を殺すために交際関係を持っていたのではないかと思っています。」
変えた運命は2回目で灰田が部屋に入るか入らないかという運命を変えました




