公開断罪セレモニーの設計 ——「観客を集める舞台」
王命は、唐突でありながらも滑らかだった。
まるで既に何度も頭の中で脚本が練られていたかのように。
王子は儀典局の面々を前に、理路整然と——しかしどこか陶酔した声音で語り始めた。
「断罪は告知ではない。演出だ。
大衆は真実を待たない。大衆は“劇”を欲する。」
魔法学園中央ホールが選ばれた。
国内で最も若い頭脳が集い、気品と未来の象徴とされる空間。
そこに災厄を、劇的に、可視化してやらねばならない——と彼は考えた。
準備は迅速に進む。
天井には反射魔法を用いた巨大な光幕が展開され、
そこへユーフェミアの功績と罪状を比較する映像が流れる。
数字、統計、彼女の慈善事業、恩赦された街の治安改善。
そしてその隣には、根拠不明の“潜在的危険因子”という曖昧なラベル。
壇上中央には王家の紋章が沈黙し、
その前に特注の演台が構えられた。
王子のための舞台。
英雄の誕生を演出するための祭壇。
王子
「悪は映像ではなく、空気で感じさせねばならない。」
その言葉に、儀典担当官の肩が震える。
意味があるようで、意味を持たない。
しかし王族の言葉は象徴となり、象徴は命令へと変質する。
誰も反乱を起こしていない。
ユーフェミアの名はむしろ、人々の感謝の対象である。
罪などどこにもない。
それでもこの舞台は進行する。
なぜなら王命は絶対であり、新たな悪は“定義”されるものだから。
儀典担当は恐る恐る尋ねた。
「陛下……告発者や証拠提示の順序は、いかが致しましょう?」
王子は軽く笑った。
舞台袖の俳優に挨拶する役者のように。
「証拠は後でよい。観客は“確信”からではなく、違和感から動く。
まず恐れを。次に沈黙を。最後に喝采を。」
その口調には、統治の冷徹さはなかった。
そこにあったのは観客を求める語り部の渇きだけだった。
儀典担当は理解した。
王子の望むものは秩序ではない。
裁判でもない。
まして国家の安寧でもない。
王子はただ、自らを英雄に仕立てる物語の舞台を欲している。
それはプロパガンダの稚拙な模倣にすぎないのだが——
本人はそれに気づいていない。
いや、気づくという概念すら持っていないのだ。
そしてセレモニー当日。
中央ホールの扉が開いた瞬間、王子は確信した。
彼は英雄になる。
悪を討つ者になる。
観客が待つ限り。
悪が存在しないのなら——創ればよい。




