世界が終わるその時は
夜、出口が帰宅すると、リビングに灯りが点いていた。点けっ放しで出掛けてしまったんだろうかと思いながら部屋に入ると、ソファの背越しに金色の頭が目に入った。
「渡久地、来てたのか」
一体何日振りに姿を見たんだろう、と頭の中で数えながらキッチンに向かい、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。ぷしゅ、とプルタブを開けながらソファに戻り、渡久地の隣に腰を下ろした。
「何やってんの」
渡久地の手には、トランプの束があった。それを慣れた手付きで切りながら、
「占い」
と薄く笑いながら答え、続いて何枚かをテーブルの上に並べた。そして残りの束を扇状に広げ、出口に向かって差し出した。
「一枚引けよ」
出口はビールを一口ごくん、と飲んで、缶をテーブルに置くと、よし、と意味不明の気合いを入れて、慎重な手付きで一枚を指先に摘んだ。
「それ、見ないでテーブルに置いて」
言われた通りにして、再び缶ビールを手に取り、また一口飲んだ。
渡久地は先に並べたカードを一枚ずつ捲り、最後に出口の引いたカードを裏返した。
その瞬間、渡久地の顔から表情が消えた。
押し黙ったまま、カードをじっと見つめる渡久地に、
「で、これで何がわかるんだ?」
ビールを飲みながら尋ねると、渡久地は紙のように白い顔を出口に向け、
「…出口、お前、」
明日死ぬよ、と、かすれた声で告げた。
ぎくん、と心臓を大きな手で掴まれた気がした。ビールを口に運んでいた手が止まる。冷たい汗が脇に滲んだ。嘘吐け、と言葉を発したいのに、喉に塊ができたように声がそこで阻まれる。笑おうとした顔が歪むのが、自分でもわかった。
渡久地の顔には、相変わらず表情が無い。
だが暫くの沈黙の後、
「…冗談だよ」
くすくすと渡久地は笑い始め、
「お前はほんとに騙され易いな」
少し困ったような顔をした。
出口はいつの間にか止めていた呼吸を一気に再開し、ほうっと大きな溜息を吐くと、
「お前のブラフは洒落になんねーんだよ…」
ビールをまたテーブルに置き、渡久地の身体に腕を回した。
少し震える腕で、強く抱き締めてくる出口に、
「…悪かったよ」
謝りながら渡久地はその背中を摩った。
渡久地の耳の後ろで、出口が呟く。
「もし明日、俺が死ぬんなら、」
大きく溜めるように息を吸い込み、
「最期に見るのはお前の顔がいい」
渡久地の身体が折れそうな程に、またぎゅっと、腕に力を込めた。
「…それ、何の告白」
渡久地は出口の震える背中を、負けない位に抱き返して、鼻先にある首筋に小さく、熱く、噛み付いた。




