9.元英雄、娘の友達探しをする
「マオは友達が欲しくないか?」
「ともだち?」
俺はマオに友達がいないことを心配していた。
力も人より強いし、精神が安定しないと魔物を呼び寄せる。
多少の精神ストレスは仕方ないが、今のところ俺とハタジイぐらいしか相手をする人がいない。
それにまたあの淫魔が逆召喚して現れたら時に、おかしなやつと認識できるだけの知識が必要となる。
そう思うと、もっと人との接点が必要になると思ったのだ。
それに俺がずっとマオの様子を見ていることはできないからな。
「んー、いりゃない!」
でも、俺の考えとは異なり、マオは一人で良いようだ。
どちらかと言えば、俺と居たいというのが正しいのかもしれない。
この間からずっとべったりだし、寝るのも同じベッドで離れる様子がない。
「とりあえず、町にでも行こうか」
「うん!」
狩りで集まった肉を売るために町に行くことにした。
ついでにマオの友達作りのきっかけができれば良いと思っている。
「パパ、にくや!」
町に着くと、一目散にマオは肉屋に走って行く。
好きなお店はどこにあるのか覚えたのだろう。
「よっ、マオちゃん元気だったか!」
「げんき!」
マオは手を腰に当てて、胸を張っている。
このポーズがあの淫魔の影響だと知った今はどこか複雑な思いだが、やめろとも言いにくい。
それにマオはあいつと違って可愛いからな。
「今日はシカの肉を持ってきた」
「おお、さすがヴォルフだ! シカは中々手に入らないからな」
普通の人なら、シカを見かけたら逃げろと言われている。
イメージとしては、森でクマと出会った感じに近い。
「新鮮なシカ肉だから、高値で買い取るぞ」
シカの肉はイノシシみたいにクセがなく、赤みの風味がしっかりしている。
牛肉よりもあっさりしており、淡白なのに旨味が強いのが特徴的だ。
そのため、肉屋の店主もシカに関しては、高値で買い取ってくれる。
「じゃあ、今日も一通り――」
俺が肉を選んでいると、真っ黒な何かが勢いよく近づいてきた。
すぐに店主の手から肉が奪われ、走って逃げて行く。
「くそ! またあいつらか!」
どうやら反応からして、肉屋の店主が肉を奪われたのは、初めてではないようだ。
「ともだち!」
「おい、マオ待て!」
俺の声が届かないのか、マオは真っ黒なやつを急いで追いかけて行った。
まさかあの真っ黒な犬みたいなのと友達になりたいのだろうか。
「すまない。またあとで取りに行く!」
「ああ!」
肉屋の店主に声をかけて、すぐにマオを追いかける。
森で迷子になるのとは全然違うからな。
魔力だけではなく、視覚で居場所がわかっていればそのうち追いつくだろう。
「路地裏に逃げたのか?」
マオは角を曲がって路地裏まで追いかけて行く。
あまり環境的には良い場所ではないため、すぐに捕まえた方が良いだろう。
俺は魔法を発動して、距離を一気に詰める。
「マオっ……おっとっと!」
路地裏に入ってすぐにマオは立ち止まって周囲をキョロキョロとしていた。
「マオ、勝手に動くと迷子になるぞ!」
「いない……?」
「ん? さっきのやつらか?」
「うん! とつじぇんきえた!」
どうやらマオはさっきの真っ黒な何かを見逃したらしい。
動きが早くて、俺も魔法を使っていなければ見えなかった。
それを追いかけたマオはかなり動体視力が良いのだろう。
「友達にはならなかったな」
「……うん」
少し残念そうにしているマオの頭を撫でると、元気が出たのかニコニコとしていた。
「お肉を買って帰るぞ」
「パパッ! まいご!」
そう言って、マオは手を前に出して待っていた。
俺が迷子にならないように手を繋げてってことだろう。
やはり俺が迷子になるという認識は変わらないようだ。
俺はマオと手を繋いで肉屋に戻ることにした。
「兄ちゃん、お腹空いた」
「我慢しろ。お前が落としたのが悪い」
路地裏の入り口では、見覚えのある子どもたちがいた。
この間、マオを探していた時に見かけた兄弟だ。
今日もお腹を空かせているのか、その場で小さく丸まっている。
この間お金を置いておいたが、お金を落としたのなら仕方ない。
何度も施しをするほど、俺も優しくはないからな。
俺たちは目の前を通り過ぎようとしたら、突然右手を引っ張られる。
「うっ……」
後ろを見ると、子どもたちの前でマオは立ち止まっていた。
「パパッ! ともだち!」
マオは少年たちを指さしていた。
彼らと友達になりたいのだろうか。
ただ、少年たちは俺たちをみて驚いた表情をしていた。
突然、声をかけられるとは思わなかったのだろう。
「友達になりたいのか?」
「うん!」
「はぁー」
マオが友達になりたいと言うなら、親として仕方ない。
できればもう少し身元がしっかりした友達を作って欲しかった。
ただ、一度気にかけたら、二度や三度も変わらないからな。
「お前たち――」
「「なななっ……なんだ!?」」
「お腹が減ってるのか?」
俺の言葉にあたふたしながらも、兄弟はお互いに目を合わせていた。
「別に腹なんて――」
――グウウウゥゥゥ!
一瞬、マオの空腹音かと思ったが、マオはお腹にドラゴンを飼っているような音だから違う。
少年たちのどちらかだと思うが、ジーッと見ていると、弟の方が小さく頷いた。
「お腹空いたよ……」
「おいっ!」
兄の方はどこか人を頼らないように一匹狼みたいだが、弟の方は正直者なんだろう。
きっと弟の方を手懐けた方が、うまくいきそうな気がする。
「お母さんかお父さんは?」
「お前なんか――」
「いない……。ボクたち二人だけ」
二人しかいない家族で頑張って生活していたのだろう。
マオとそこまで変わらない見た目をしているのに、その姿にどこか放っておけない気がした。
子を持つ父になると、こんな気持ちになるのだろうか。
「わかった。とりあえず、俺の家に来て飯でも食べるか」
「誰がお前の――」
「いいの!?」
弟の方は目をキラキラさせて立ち上がり、俺の方に寄ってきた。
あとは兄の方だけが問題だ。
急に大人に頼れって言われても難しいだろう。
「これから美味しい肉をたくさん買いに行くんだけどなー」
「「にく!」」
マオと一緒になって、弟の方は嬉しそうに俺の顔を眺めている。
なんかマオの友達というよりは、弟って感じだな。
「早く来ないと君の分は弟くんのものに――」
「それはダメだ! オレの分は渡さない」
やっと心が折れたのだろう。
兄の方も立ち上がって付いてきた。
肉屋に向かっている最中も少し距離が空いているが、俺たちが速く歩くと負け時と追いかけてくる。
どこかツンデレした……柴犬みたいだ。
「おっ、ヴォルフ戻って……子どもが増えたのか?」
「ははは、マオが友達になりたいって……」
俺が頭を掻きながら笑うと、肉屋の店主は少年たちをジーッと見つめた後、俺の肩をポンっと叩いた。
「お人よしも良いが、ちゃんと見極めろよ」
「ありがとう」
きっと肉屋の店主なりの優しさであり、注意なんだろう。
路地裏に住んでいる――。
それは、何かしら事情があるということだ。
家族を失った孤児か、居場所を失った浮浪者。
最悪、犯罪に手を染めて、隠れて生きている人だっている。
いずれにせよ、好きであんな場所にいるはずがない。
「とりあえず……そんなに離れてどうしたんだ?」
チラッと振り返ると、少年たちはビクビクしながら二人で固まっていた。
俺と話していた時は普通だったが、肉屋の店主の前では怯えている。
「おっさん、怖がられているぞ?」
「おいおい、俺の顔がそんなに怖いってことか!?」
確かにクマみたいな見た目だから仕方ない。
少し兄弟が可哀想に思い、俺は急いで肉を買い、途中で野菜もたくさん買っておいた。
「よし、お前ら帰るぞ!」
「「はーい!」」
マオと一緒にトコトコと歩いている姿が、本当に友達……いや、家族のような感じがした。
それでも兄の方は、まだまだ警戒心があるようだ。
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