8.元英雄、変態野郎に出会う
翌日、俺とマオは森の中にいた。
家でお留守番させるか、ハタジイに任せようかと思ったが、駄々をこねて家を破壊しそうになっていた。
怒って感情が爆発したら、魔物は寄ってくるし、暴れたら家が壊されてしまう。
どちらにしても、一緒に連れていくしか選択肢はなく、一緒に森へ行くことにした。
魔力を広げればマオの居場所はわかるから、どうにかなるだろう。
「俺は狩りをしているから、マオはこの辺で遊んで待ってるんだぞ」
「はーい!」
少し心配ではあったが、森に着くとマオは蝶々を追いかけて遊んでいた。
こういう時に遊び相手がいると良いが、町まで行かないと友達はできないだろう。
俺は魔力を広げながら、マオが遠くに行かないように様子を見る。
「狩りに集中できないな……」
家事に追われている主婦はこんな気持ちなんだろう。
まさかこの年で……いや、異世界にきて体験するとは思わなかった。
「雄シカがいるな」
草を食べているシカを運良く見つけた。
異世界のシカって日本にいる個体よりも、体長が2メートル近くあり、角も大きい。
攻撃性が高いことから、角が生えたシカを見つけたら、なるべく狩るようにはしている。
俺は一瞬で近寄り、剣を突き刺す。
――カキンッ!
だが、シカは角で剣を受け止めた。
雄シカは俺が近寄るのを待っていたのだろう。
「残念だが、俺が得意なのは魔法だからな」
剣をなるべく使うようにはしているが、剣だけで成り上がった剣士のように技術があるわけではない。
力とスピード、魔法に頼った動きで上級の剣士のように戦っている。
すぐに魔法を展開させ地面から無数の棘が突き出し、シカの身体を容赦なく突き刺す。
泣き叫ぶ暇もなく、シカはその場で横たわる。
「とりあえず一体目だな」
俺はシカを肩に乗せて、次の獲物を探すことにした。
「これ……マオに見せたら驚くか?」
歩いていると、ふとマオがシカを見たらどんな反応をするのか気になった。
喜んでくれるか、驚いてくれるか……どちらもニコニコしている姿が想像できる。
俺は魔力を広げて、マオの居場所を探す。
「魔力反応が……2つ!?」
こんな森に人間が近寄ることはあまりない。
さっきまで反応がなかったから、隠密行動を得意とする者だろうか。
それとも、また魔物に襲われているのか?
嫌な予感がした俺は、すぐに体の向きを変えて、マオの元へ戻る。
茂みを抜け、マオの姿を視界が捉えた時――。
「マオ大丈――」
「ふふふ、魔王様お久しぶりです」
マオの目の前の地面から顔が飛び出ていた。
流石に友達がいた方が良かったと思ったが、そんなおかしなやつを友達にするのは、俺が許さないからな。
「パパッ!」
俺に気づいたのか、マオはすぐに俺に駆け寄ってくる。
「パパ……?」
首がぐるりと一周する。
あまりにも予期せぬ動きに俺は息を呑む。
「「ヒィ!?」」
だが、相手も同じような反応をしていた。
「魔王様、この野蛮人は誰ですか!」
「パパだよ?」
マオは俺の顔を嬉しそうに見つめてくる。
「パパだと!?」
さっきからマオのことを魔王様と呼んでいるため、何か関係する人物なんだろう。
それに艶やかにカールした黒髪の隙間から、ヒツジのようなぐるりとした角が生えている。
「お前、ひょっとして悪魔か?」
角が生えているってことは男の悪魔なのか?
この世界に悪魔は実在している。
特徴は頭に角が生えているか、尻尾が生えているかのどちらかだ。
実際には魔族と呼ばれる種族だが、どこに住んでいるのか不明で出会うことはほとんどない。
まさかそんな存在が目の前にいるとは――。
「ごほん! 私は淫魔……」
俺はその言葉を聞いた瞬間、悪魔に詰め寄る。
地面をよく見たら、空間魔法の魔法陣が展開されていた。
今なら頭を地面の中に埋めるように押し返せば間に合うはずだ。
「マオの教育に悪いやつはとっと帰れ」
「かえりぇ!」
勢いよく押し込んでいるが、淫魔も中々しぶといのか顔を歪ませながら抵抗している。
マオが発動させた召喚魔法かと思ったが、反応からして逆召喚した悪魔なんだろう。
いや……淫魔か。
「ぐぬぬ……パパは私だ!」
「なんだと!?」
「くくく、驚いたか!」
大きく発達した雄っぱいを自慢するように胸を張っている。
ひょっとして、マオがたまにする胸を張るポーズはこいつに影響されているのだろうか。
「それに私の雄っぱいで魔王様も育て上げたんだ」
こいつは淫魔で男なのに、母乳でも出るのか?
少しずつ召喚されると、大きな雄っぱい全てが露出される。
「どうだ、私の発達した大胸筋は!」
段々とボディービルダーを見ている気分になってくる。
淫魔だから服を着ていないのだろうか。
尚更、マオの教育に悪いだろう。
「変態は今すぐに帰れ!」
「かえれ!」
俺も魔法を展開して、頭から押し返す。
あまりの力の強さに、雄っぱいも少しずつ魔法陣の中に隠れていく。
「くっ……魔王様はこんな小さな雄っぱいより、私の雄っぱいの方が好きですよね?」
「んーん! おにきゅのほうがしゅき」
マオは満面の笑みで俺を見つめてくる。
さすがに雄っぱいより、肉の方が俺も好みだ。
こんな奴を誰が好むのだろうか。
「ほら、大胸筋だってピクピクと動かせ――」
「今すぐに帰れ!」
俺は空間魔法を打ち消すように、魔法陣を魔力で上書きして破壊していく。
さすが悪魔の力なのか、魔法陣も複雑で打ち消すのに時間がかかる。
「この人間の分際で、何を――」
「かーえーりゅーのー!」
――ドンッ!
マオは勢いよく淫魔の頭を叩く。
人の頭を叩いて出たことのない音が森の中に響く。
淫魔はそのまま白目を剥くと、抵抗する気力もなくなったのか、どんどん魔法陣に吸い込まれていく。
「マオ、いくぞ! せーの!」
俺はマオと一緒に最後の一押し――トドメの一撃をグッと叩き込んだ。
魔法陣はそのまま消えると、何事もなかったかのように地面は元に戻る。
「ふぅー、あいつは知り合いか?」
「しりゃない!」
どうやらマオの知らない悪魔が魔王と気づいて追いかけてきたのかもしれない。
何が起きるかわからない状態で、マオを一人にしておくのは危ないことがわかった。
「今日はもう帰ろうか」
俺はマオに向けて手を差し出す。
「ねね、パパ!」
「なんだ? またくりゅかな?」
「んー、また来たら俺が守ってやるからな」
「うん!」
マオは勢いよく俺の手を握る。
俺たちは家に帰ることにした。
離れないように手を握って帰るのも、少し慣れてきた気がする。
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