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7.元英雄、魔王の食欲に驚く ※別視点あり

「帰る前に買い物でもしていくか?」

「にく!?」

「いや、さっき食べたばかりだろ……」


 あれだけ肉串を食べたのに、まだ肉が食べたいのだろう。

 イノシシの肉も売らないといけないからちょうど良いか。

 俺は歩き始めるが、隣を見るとマオの姿がなかった。


「マオ!?」

「むぅー!」


 周囲を確認すると、立ち止まっているマオの姿があった。

 またどこかに行ってなくて、俺はホッとする。

 だが、マオは頬を膨らませて、不服そうな顔をしていた。


「パパッ! いっちょいったよ!」


 足をジタバタしながら、俺の方に近づいてくる。

 どうやら先に俺だけが歩いて怒っているようだ。

 足を着くたびに、地面が凹んでいる。

 俺は土属性魔法で補修して、マオが魔王であることがバレないようにする。

 小さな子どもが強く地面を蹴ったからって、普通はあんなに穴ができないからな。


「パパッ!」

「はい!」


 地面に視線が向いていたのがバレてしまった。

 俺は姿勢をすぐに正すと、マオは勢いよく手を出してきた。


「まいごになりゅよ!」


 マオの中では、俺が迷子になっていたって認識になっていそうだ。

 俺はマオの手を優しく握ると嬉しいのか、ムスッとした表情は一瞬にしてニコニコした笑顔に変わった。


「たのちみ!」


 マオは嬉しそうに繋いだ手を大きく振る。


「うおっとっと!」


 よほど嬉しいのだろう。

 あまりの勢いで俺の腕が脱臼しそうになっていた。

 普段から持続回復を使っておかないと、体がもたないな。

 子育てがこんなに大変だとは思いもしなかった。


 肉屋の前に着くと、俺は店主に話しかける。


「今日もイノシシの肉を売りに来た」

「おお、ヴォルフいらっ……子ども!?」


 肉屋の店主も隣にいるマオに気づき驚いていた。


「ついに結婚したのか!」


 俺は町外れの田舎に住む独り身のおっさんと覚えられている。

 だが、ここで否定したらマオは誰の子かと怪しまれてしまう。

 それにマオもずっと俺のことを見ているからな……。


「あー、遠くに住んでいた娘だ」

「そうか……。人それぞれあるからな」


 適当に言い訳を考えたつもりだが、それで納得してもらえたようだ。

 少し勘違いされているような気もするが、それは仕方ない。

 俺は空間魔法で作った別空間からイノシシの肉を取り出した。


「相変わらず質がいいな」


 すぐに冷やして、別空間で保存しているため、品質も安定している。

 畑がダメでも俺が食べていけるのは、この猟師……いや、保存の力があるからだ。

 別名、移動式冷蔵庫と名付けている。

 これも魔法を組み合わせれば簡単にできるが、こんな使い方をしている人は世の中に俺ぐらいだろう。


「好きな肉を持っててくれ。残りは現金で渡す」


 イノシシの肉は売り物の肉と現金に代わった。

 一般的に売られている肉は、中々森で手に入らないため、町に来た時に購入している。


「マオ、どれがいい?」


 牛や豚、鶏など元の世界に似た肉がずらりと並べられている。


「じぇんぶ!」

「「へっ!?」」


 マオに聞いたら、返ってきたのは全て欲しいとの答えだった。

 全てってお店のもの全てだろうか。

 肉屋の店主も驚いている。


「さすがに全部は無理だぞ……」

「パパッ……」


 どこか寂しそうな顔をするマオに罪悪感を覚える。

 俺もそこまで多くはお金を持ってきていない。

 それにマオの服を買うつもりでいたが、これじゃあそこまで買えないだろう。


「わかった。とりあえず、全種類もらおう」


 俺は追加でお金を払って、端から端まで少しずつ買うことにした。


「こんなにも食べられるか?」

「あー、保存しておくから問題ない」

「本当に便利な魔法だな」


 別空間に保存しておけば問題ないが、きっとマオなら食べきれそうな気がする。

 うちの魔王は食いしん坊だからな。


「またたくさん捌いて肉を持ってくる」

「子育ては大変だからな」


 しばらくは食費を稼ぐために、狩りに行く時間も増えるだろう。

 肉屋の店主に応援されながらも、肉屋を後にする。

 途中、服屋に寄って、最低限のものを用意したがマオは全く興味を持たなかった。

 服よりも肉の方がマオにとっては好みなんだろう。

 俺たちは再び手を繋いで、家に帰ることにした。


 ♢ ♢ ♢


――その頃魔界では……


「魔王様ー!」


 大広間に声が響く。

 どこにも見当たらない姿を探して、私は焦っていた。

 せっかく今の地位を手に入れたのに、これではまた元通りだ。


「まったく……目を離すとすぐいなくなる」


 私は胸元に手を当てて、深く息をつく。

 少しきつめのボタンが、ミシッと音を立てる。


「……あぁ……また張り裂けそう」


 魔王様の安否が不安で、今日も胸が苦しい。

 服のボタンがまたひとつ弾け飛んだ。

 魔王様……どこに消えたのか……。


「このままじゃ……ただの悪魔に戻っちゃう……」


 ぽつりと呟いて、私はしゃがみ込む。

 裁縫箱を取り出し、手早くボタンを縫い直す。

 世話係だからこんなことには慣れている。


「……ん?」


 ボタンを縫い付けながら、ふと胸の奥がチクリと疼いた。

 不意に、空気の流れが変わったような気がした。


「魔王様……!?」


 これは確かに、あの方の魔力だ。

 しかも――下界から。


「……まさか……下界に行ったの……?」


 下界で悪魔が召喚されることはよくある。

 大体下級悪魔のパターンが多いが、魔王様が召喚されることがあるのだろうか。

 魔王様が私を召喚してくれれば問題ないが、そんな力は今のあの方にはない。

 私は立ち上がると、空間魔法陣を展開する。


「魔王様お待ちくださいね!」


 針と糸を持ったまま、転移陣の前に立つ。

 誰にも見せない小さな笑みを浮かべて、私は魔法陣に飛び込んだ。

 ただの悪魔に戻るわけにはいかない。絶対に……。

お読み頂き、ありがとうございます。

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