4.元英雄、スープを食べる
「パパッ! おきて!」
なぜか体が揺れているような気がする。
地震でも起きているのだろうか。
それにどこか体がふわっとして――。
俺は急いで目を開ける。
「おい、降ろせ!」
気づいた時には俺はマオに持ち上げられて浮いていた。
やはりマオは力からして魔王で間違いない気がする。
「うん!」
マオの大きな返事が響いた直後、全身がふっと落ちていく感覚に襲われた。
――ドンッ!
「いてて……」
俺はそのまま床に投げ捨てられた。
投げた本人は俺を見て嬉しそうに笑っている。
こいつは魔王じゃなくて悪魔なのかもしれない。
「おはよ!」
「ああ……」
あれから全く寝ることができなかった。
定期的にマオは夜泣きするし、その度に魔物の反応が近づいてくる。
俺も同じベッドに寝たことで、やっと落ち着いて泣くことはなくなった。
ただ――。
「力が強いんだよな……」
「えっへん!」
褒めたわけでもないのに、マオは嬉しそうに胸を張っていた。
寝ている最中、強く抱きしめられて肋骨が折れそうな気がした。
すぐに持続回復を付与してそのまま眠ったが、俺じゃなければ朝になっても目を覚まさなかっただろう。
――グゥギャアアアアアア!
聞いたことない魔物の鳴き声に俺は警戒心を強める。
だが、魔力を広げても魔物が近くにいる様子はない。
チラッとマオに目を向けると、恥ずかしそうにお腹を触っていた。
「お腹が減ったのか?」
「うん!」
明らかに聞いたことのない空腹音に唖然とする。
さすが魔王は空腹音も人とは違う。
俺は立ち上がり、朝食の準備を始めることにした。
「んー、ひとまずスープを準備するか」
昨日、俺も一緒に寝てしまったため、何も準備ができていない。
軽くイノシシの肉を下茹でし、両面を焼いてから再び水を入れ、ネギのような野菜を入れて火にかけていく。
イノシシって独特な臭みがあるからな。
「マオって野菜は食べられるのか……」
俺の想像する魔王は肉を豪快に食べている。
近くにある芋を手に取り、マオに見せる。
「これはどうだ?」
「やっ!」
マオはプイッと顔を背けた。
他にも葉野菜や根野菜を見せるが、どれも目を合わせようとしない。
これは――。
「野菜嫌いだな」
「うん!」
どうやら俺が思っていたイメージ通りのようだ。
それに野菜を入れて煮込もうと思ったが、手を掴まれて止められた。
マオが魔王ってことよりも、確実に野菜嫌いなのは間違いない。
「野菜を食べないと大きくなれないぞ?」
「もうおおきい!」
マオは胸を張っているが、どこの部分を大きいと言っているのだろうか。
身長は俺の下半身程度しかないし、胸なんて……幼女だからないのは当たり前か。
「あー、そうだな」
「えっへん!」
胸を張るこの姿も、魔王としての威厳を意識しているのかもしれない。
ただ、家の隣で畑をやっている俺としては野菜嫌いは認めない。
マオが威張っている間に、俺は魔法を展開して身体速度を上げる。
野菜をすぐに切って、鍋に放り投げた。
「はぁ!?」
「残念だったな」
これでも元英雄の俺はチート級だからな。
基本的な魔法から応用的な魔法はほとんど使える。
ただ、こんなところで身体制御と身体強化の複合魔法を使うと思わなかった。
「パパッ!」
「ははは、俺はパパじゃないから、そんなこと聞かないぞ」
マオはムスッとして俺の足を踏むが、ここでも身体強化と持続回復をしているから問題ない。
問題はないんだが……普通の人だったら骨折しているレベルだろう。
床がひび割れしているからな。
「いいもん!」
マオは諦めたのか、戻って体操座りをしながら顔を伏せていた。
少しやりすぎたかと思ったが、俺が視線を向けた時だけ顔を伏せて、それ以外はジーッとこっちを見ているから問題はない気がする。
あれだけチクチクする視線を向けられたら、誰でも気づくのに、当の本人は気づいてないと思っているようだ。
俺はできたスープをカップに入れて、マオの元へ持っていく。
「さぁ、食べようか。いただきます」
「いりゃない」
声をかけても、マオはそっぽ向いたままだ。
まだ拗ねているらしい。
マオがその気なら俺も負けるつもりはない。
「ああ、マオがそう言うなら、俺が全部食べようかな」
俺はスープを一口飲んで、豪快にイノシシの肉を食べる。
臭みがなくなったイノシシの肉はジューシーで、スープにも肉の脂と野菜から出た甘みが滲み出ている。
「やっぱりうまいなー。マオは食べないんだもんなー」
「いりゃない……」
マオをチラチラと見るが、まだ拗ねているのだろう。
ただ、俺がスープを飲むたびに視線は釘付けになっているのは知っている。
俺はスープを完食すると、マオの目の前に置いたカップに手を伸ばす。
「マオがいらないなら、俺が食べ――」
「いりゅ!」
マオは俺に取られないように急いでカップに手を伸ばした。
溢して火傷をしないか心配だったが、少し冷めたのもあって問題ないようだ。
今度は俺がジーッとマオの顔を見る。
「どおしよ……」
マオは戸惑いながらも根野菜を口に入れる。
初めはスープやイノシシの肉から食べるかと思ったが、一口目から野菜を食べていた。
「うっ……」
どこか困惑した顔をしていたため、やはり野菜は食べられないのだろうか。
「無理なら俺が――」
「うまうま!」
どうやら美味しくて驚いていたのだろう。
マオはスープを一気に口の中に入れる。
まだ俺に取られると思っているのだろうか。
ハムスターみたいにたくさん口の中に入れるが、スープだから口からチョロチョロと垂れてきている。
「おいおい、服で拭くなよ!」
そのまま服で拭きそうになる手を止め、俺は布で拭いていく。
本当に魔王のくせに手がかかるな。
――グゥギャ……ギャギャ?
またどこかから変な鳴き声が聞こえてきた。
マオのお腹には、やはり何かを飼っているような気がする。
「まだ足りないのか?」
「うん……」
マオはスープがなくなったカップを寂しそうに見つめていた。
さすがにスープをカップ二杯分しか作らないわけがない。
「じゃーん!」
俺は鍋にたっぷり入ったスープを見せつける。
寂しそうな顔をしていたマオの顔は一瞬にして輝き出した。
真っ赤な瞳も綺麗に光が反射している。
「おかわりするか?」
「する!」
マオは嬉しそうにカップを持ってきた。
俺はそのカップに溢れそうなほどスープを入れて渡す。
カップを持って再び座ると、手を合わせてこっちを見ていた。
「どうしたんだ?」
「いっしょだよ!」
「一緒?」
まさか俺にもう一杯スープを飲めと言っているのだろうか。
俺もカップに少しだけスープを入れると、隣に座る。
「いただきましゅ!」
さっきは手を合わせることもなかったマオが手を合わせていた。
俺が食べる前にやっていたのを見ていたのだろう。
「いただきます」
俺も再び手を合わせてスープを一口飲んだ。
一杯目よりも冷えているはずのスープは、どこかさっきよりも温かくなっているような気がした。
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