34.元英雄、自宅に帰ってきた
少しずつ視界が明るくなり、目を開けると馴染みの光景が広がる。
ただ、そこにはいなくても良い存在が混ざっていた。
「ここが師匠の住んでいるところですか?」
「今すぐに引越しの準備をしなきゃいけないわね」
ハルトとアーシャが付いてきてしまった。
きっと今頃、急に国王と王妃がいなくなって、大騒ぎになっているだろう。
門番をしていた騎士では、どこか頼りなかったからな。
ちゃんと説明できていない気がする。
「おい、お前ら王城に帰――」
「「帰りません!」」
こういう時に限って意見が揃っている。
小さい頃から婚約者になり、夫婦になるぐらいだから相性は良いのだろう。
「はぁー、明日には帰すからな」
「「はーい……」」
不貞腐れた顔を見ると、ついクスッと笑ってしまう。
昔から変わったところもあれば、変わらない姿もあった。
「ヴォルトも勝手に連れてきてごめんな」
「いえ、転移魔法があるって知れたのでよかったです!」
ヴォルトは初めて転移魔法を経験できて喜んでいた。
そういえば、俺が王都にいる時は魔法師団でも、転移魔法を使える者はいなかった。
そう思うとマシュマロは規格外なんだろう。
「ヴォルフ様はこんな田舎で何をされてたんですか?」
「アーシャ、師匠は魔法の研究をしていたに決まってるだろ!」
「それもそうね。あのSSSランク冒険者で、ドラゴンを素手でビンタするぐらいだものね」
期待の眼差しがハルトとアーシャから向けられるが、俺がやっていたのは目の前にある畑作業とは言えない。
せっかく10年目にしてできたトマトを見せびらかそうとしたが、俺は手を戻した。
「とりあえず、町に連れて行くからそこで泊まるかグリード男爵家に行くかどっちがいい?」
国王が突然訪問したら、あいつら驚いてしまうが、我が家に大人二人と子どもを泊まらせる余裕はないからな。
「何言ってるですか? もちろん師匠の家にお泊まりするに決まっているじゃないですか!」
「きっとドラゴンの剥製とかがあるのでしょうね」
さすが国王と王妃だ。
会話の節々に常識が異なることを感じる。
「いや、俺の住んでるところはあそこだ」
俺は近くに見える我が家を指さす。
三人とも周囲をキョロキョロ見渡すが、首を傾げている。
「いやー、何もないですよ? 家畜小屋に住む英雄はいないだろうし……」
「もし、あんなところに住んでたら、全国民が発狂しますわ」
「僕のおもちゃよりも小さい……」
こいつら言いたい放題だな。
これでも大人二人と子ども三人が住んでいるんだけどな……。
容赦ない言葉に子どもたちよりも、残酷さを感じる。
「きっと師匠のことだから、空間魔法を付与して広くなってるわよ」
「それもそうね」
俺が何も言わないから、何かあると思っているのだろう。
それにしても空間魔法の付与とは、俺も考えたことがなかった。
馬車には施すことはあっても、家を中だけ大きくするとは……さすが常識外れの考えなだけはある。
俺はハルトの肩をポンっと叩く。
「うっし、正解のようだな」
まるでクイズに正解したような喜び方をしていた。
何も正解ではないんだけどな。
俺は我が家の扉を開ける。
「ただいま!」
だが、中には誰もいない。
昼食の準備がそのまま置かれているが、マシュマロと子どもたちは遊びに行ったのだろうか。
「ほんとにここに住んでいるんですか……?」
中に入るとアーシャはその場で困惑していた。
公爵家のお嬢様なら、そう思っても仕方ない。
一方、ハルトは特に気にすることなく家の中に入っていた。
「すぅーはぁー、すぅーはぁー」
「おい、ハルト!」
置いたままの布団の中に包まって匂いを嗅いでいた。
だが、その布団は俺のじゃなくて、マシュマロのやつなんだけどな……。
それはそれで面白いから、そのまま放置することにした。
俺は魔力を広げて、子どもたちがどこにいるか探す。
「森の奥にいるのか……?」
町に行ったのかと思ったが、森の奥で反応を見つけた。
あんな遠くに遊びに行っているのだろうか。
「ちょっと行く予定があるけど、町には行けるか?」
「俺はここから離れませんよ?」
「私も町には行かないですからね?」
本当に頑固な弟子に、ついついため息が出てしまう。
子どもたちを迎えに行こうと思ったが、このまま放置しておくわけにもいかない。
「アーシャ、それは置いていこうか?」
「ヴォルフ様は何を言ってるのかしら?」
今度は俺の服を持ち帰ろうと、ドレスの中に隠していたからな。
帰ってきたら、家の中の物がなくなっていそうだ。
「魔力が足りないけど、仕方ないか……」
俺は三人を呼び、手を触れる。
ハルトとアーシャは息を荒くしていたが、存在自体を認識しないことにした。
ここには俺とヴォルトしかいない。
「どこに行くんですか?」
「今から子どもたちを迎えに行くよ」
きっとヴォルトと子どもたちとは、年齢がそこまで変わらないから、良い関係にはなるだろう。
「子ども!? 俺、師匠の子どもを生んだ覚えはないですよ!」
「ヴォルフ様の子ども……せめて養子にできないかしら?」
幻聴が聞こえてくるが、そんなのは無視だ。
俺は子どもを作る気もないし、子どもたちを養子に出すつもりもない。
そもそも男が子どもを生むという考えは、どこからきたんだ?
俺は転移魔法を発動させると、森の奥に向かって転移する。
森の奥を抜けると、大きな草原があるぐらいで、何もなかったはずだけど――。
「なんだ……これ……」
草原の中央に、ありえないほど大きな城がそびえ建っていた。
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