32.元英雄、魔法を教える
「はぁー、ここに戻ってくるとはな……」
王都に来たのはおよそ10年前。
外壁も魔物が簡単に入ってこれないように高くそびえ立つ。
中に入るのにも長蛇の列ができている。
それが王都の名物って感じだな。
「中は……そんなに変わるもんじゃないな」
10年もあれば、ある程度変わると思ったが、全く変わらないのが王都だ。
街並みは変わらず、今日も店に呼び込む声が聞こえてくる。
みんなで騒ぎあった宿屋や食事処も賑わっている。
「早く帰らないと子どもたちが心配するか」
俺は王都についたその足ですぐに王城に向かった。
貴族裁判は基本的に王城の一室で行うことが多い。
有罪か無罪かを決めるのは、貴族裁判に参加する貴族たちだからな。
だから、忙しい貴族が貴族裁判をすることは基本的にないのに、あのバカ領主はそれもわからずに貴族裁判をすることにしたのだろう。
きっと貴族裁判を知らせる伝書鳩より、俺の方が到着が早いから、王に説明するだけで夜には帰ることができる。
王からはいつでも対応すると昔から言われているからな。
「王城に何のようだ!」
今日も王城を守る騎士はしっかり働いている。
俺は一瞬で近づき、肩を優しく叩く。
「ご苦労様」
「なっ……なんだ!?」
10年も離れていたが、騎士団の質も落ちたようだ。
俺の動きが目で追えていなかったからな。
俺はギルドカードを渡すと、全身が震えていた。
「あの英雄様ですか……」
「いや、どの英雄かはわからないが……」
「ドラゴンを素手で殴った英雄――」
「ああ、それだ」
キラキラした目で見つめられても困る。
それに初めて会う騎士にも、二つ名よりも逸話の方が広まっていた。
「少し王に用事があるから、中に入るよ」
「私が今すぐにお伝え――」
「君は城を守る仕事があるだろう。精一杯働きなさい」
若手の騎士を鼓舞すると、俺は王城の中に入っていく。
やはり騎士はもう少し訓練が必要だな。
俺のカードを偽装した男が来たら、誰彼構わず王城に入れそうだ。
中に入ると慌しく働いている人たちがいた。
声をかけようとしたが、俺が邪魔をしそうだ。
直接王に会うとは言ったが、いきなり行って面倒ごとに巻き込まれるのもめんどくさい。
それに10年も離れていた間に王が変わっていたら、俺はただの不法侵入者になるからな。
少しだけ城の中を散策することにした。
「子どもたちと来たら楽しいだろうに……」
やはり考えるのは子どもたちのことばかり。
まだ子どもたちを連れて旅行したことがない。
転移魔法を使ったら、すぐに帰ってこれるから遠出するのも良いだろう。
そんなことを思っていると、少年が本を読みながら歩いていた。
彼に聞くぐらいなら、邪魔にはならないだろう。
「あのー……」
「魔法は呪文を唱えることで理が発動するけど、それができても……ん?」
少年は本に夢中なのか前も見ずにそのまま歩いてきた。
王城にいるということは、彼も爵位が高い貴族の子どもだ。
俺はケガをしないよう、少年を風属性魔法で体を浮かした。
「わっ!」
ふわりと急に体が浮いたから、少年も驚いて、紫色の瞳を大きく見開く。
「しっかり前を見て歩くんだぞ」
俺がゆっくりと床に下ろすと、少年は頭を下げた。
「僕の不注意で魔法を使わせて申し訳ありません」
マオと変わらない年齢なのに、言葉遣いは丁寧で、どこか大人びている。
どこかの貴族と比べるまでもない。
本来、貴族の教育はこれが普通だからな。
「子どもがそんなことを気にしなくてもいい」
俺は少年の頭を優しく撫でる。
いや、これって不敬罪にならないか……?
ここに来た理由も、不敬罪って言われていたからな。
「お父様もこんなに優しかったらよかったのに……」
ボソッと呟く少年の声に少し胸が締め付けられる。
貴族である以上教育は厳しいし、子どもを政治の道具として使っているからな。
甘えたいのに甘えられないのだろう。
「魔法の勉強をしているのかな?」
「はい! まだ、魔法の発現まではできなくて……」
俺は浮いている本を手に取り、中を確認する。
相変わらず貴族が読む本は分かりづらくて読みにくい。
「魔法はここに書いてあることが全てじゃないぞ」
「どういうことですか?」
俺は周囲に様々な属性魔法を展開させる。
「わぁー!」
少年は目を輝かせて魔法を見ていた。
うちの子どもたちは魔法よりも剣が好きだから、この反応を嬉しく感じる。
「まず魔法は属性に縛られることはない」
「一人一属性じゃないんですか? 稀に二属性や三属性の人もいるって聞くけど……」
本には適正魔法があり、その属性が使えるようになると書いてある。
ただ、これは努力でどうにかなるレベルだ。
実際に俺の適正魔法は生活魔法だからな。
そもそも属性すら適正はなかった。
「それならここにあるのは何属性かな?」
「火、水、土、風、雷、氷……」
一つ一つ数えているが、浮いている魔法の数に驚いていた。
俺も何種類出したのかわからないぐらいだ。
「魔力があれば適正属性は覆される。それにファイアーボール!」
俺が呪文を唱えると、氷の塊が出てきた。
氷属性魔法の初級魔法だ。
「うぇ!?」
「こうやって呪文が違っても魔法は発現できる。大事なのはたくさん想像して、楽しむことが一番だな!」
俺が魔法を使えるのは、ほとんどイメージと膨大な魔力で補填しているからだ。
様々なゲームやアニメ、漫画で手に入れた知識や想像力は思っている以上に魔法に使えた。
「僕も魔法を使えるかな?」
「きっと大丈夫だよ」
俺が教えた子たちの中にも、少年のように魔法を一生懸命勉強している子はいた。
今はわからないが、属性魔法をいくつか使えていたから、前世の記憶がなくても、努力である程度はどうにかなると思う。
俺の言葉を聞いて、嬉しそうな顔をしている少年の将来が楽しみだな。
「じゃあ、俺はあっちにいくから」
少年に別れのあいさつを済ませて、俺は再び歩き出した。
「ヴォルト様、その方を捕まえてください!」
後ろから声が聞こえてきた。
一瞬、俺が呼ばれているのかと思ったが、よく聞けば名前が違う。
ヴォルフと呼ばれることはあっても、ヴォルトと呼ばれることはない。
俺が振り向くと、奥の方に門番をしていた騎士が走ってきた。
「捕まえ……る?」
少年は俺にぎゅーっと抱きついてきた。
さっき会ったばかりなのに、人懐っこいようだ。
「ははは、捕まっちゃったね」
ぎゅーっと抱きついているのを見て、子どもたちに会いたくなってきた。
子どもたちとこんなに離れることがなかったから、俺の方が寂しく感じているのだろう。
俺は少年をそのまま抱きかかえる。
「それで俺はなんで捕まったんだ……?」
「僕にもわからないですよ?」
俺と少年をお互いに首を傾げる。
騎士に聞いた方が早いだろう。
俺は魔法で速度を上げて、一瞬で騎士の前に詰め寄る。
「何かあったのか?」
「うぉ!?」
騎士はびっくりしていた。
突然目の前に現れたら仕方ない。
抱きかかえている少年すら驚いていたからな。
「あなたを……確保します!」
「へっ……?」
気づいたら俺は魔法封じの手錠をかけられていた。
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