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30.元英雄、幸せな日々

「パパ、だれ?」

「新しいお友達?」

「めんどくさそうな人だね……」


 子どもたちは各々違うことを考えているようだ。

 濃い紫の髪に深緑の瞳。

 動けばぴょこぴょこと跳ねる毛に八重歯が特徴的なやつ――。


「黒竜のこと忘れていたな」

「わしを忘れるとはどういうことだ!」


 ドスドスと地面を叩き鳴らす。

 それだけで天井からポロポロと木屑が落ちてくる。


「おい、家を壊す気か」

「うぅ……」


 俺がキリッと睨むと、黒竜は視線を逸らした。

 黒竜って言ったら強いドラゴンをイメージするが、実際の黒竜は子どもぽい。

 いや、ただのバカと言ったほうが良いだろう。

 虫取り網と虫籠が似合う見た目をしているしな。


「とーちゃん、お腹減ったー!」

「パパー!」


 誰か分かったら子どもたちは興味がないのだろう。

 やはり我が子は大物になりそうだな。


「なぁ、わしの分は……」

「ちゃんと作って――」

「早く早く!」


 気づいた時には子どもたちに混ざって黒竜は座っていた。


「本当にげんきんなやつだな」


 どこから出したのかわからないフォークを持って、キラキラした目で俺を見つめていた。

 初めてご飯を食べた時にあげたフォークだろう。

 ひじきよりは大きいし、俺よりもかなり年上なのに、この中だと一番年下に見える。

 俺は急いで卵を焼いて、おかわり用の余ったやつでお子様プレートをもう一つ作る。


「ほら、早く食べるぞ! あっ――」


 俺が座ると、黒竜はすぐに手を合わせていた。


「いただきます!」

「ちょっと待て!」


 我先に手を合わせて食べようとしていた黒竜を止める。

 急に止めると子どもたちもムッとした顔をしていた。


「ああ、ごめんごめん。オムライスって言ったらこれだろ?」


 俺はスプーンで手作りケチャップを掬い、オムライス名前を書いていく。

 本当は絵を描きたかったが、絵の才能は畑の才能並みにないからな。


「パパ、これにゃに?」

「オラもわからない……」

「オレは……文字ってやつだろ?」


 まさか文字も汚すぎて読めないのかと思ったが、そもそも文字を教えたことがなかった。


「ふん、ここは長寿のわしが教えてやろう。それは名前だぞ!」


 黒竜はドヤ顔で子どもたちに教えていた。

 ただ、名前だと分かっても読めていないのだろう。


「くくく、トカゲって書いてあるの気づいてないぞ」


 小さな声でマシュマロは笑っていた。

 黒竜は気づいていないのだろう。

 自分のオムライスに「トカゲ」って書いてあることを。

 そもそも黒竜の名前を俺は知らないからな。


「でもなぜ俺はマシュマロちゃん(・・・)なんだ?」

「お前はマシュマロちゃんだからな」


 俺よりもガタイが大きい男にちゃん付けはどうかと思うが、俺の中ではマシュマロちゃんはちゃん付けだからな。


「さぁ、今度こそ食べようか!」

「「「うん」」」


――パチン!


 嬉しそうに子どもたちは手を合わせる。

 いや、黒竜とマシュマロも目を輝かせていた。

 そこまでお子様プレートが魅力的なんだろう。


「いただきましゅ!」

「「「いただきます!」」」


 元気な声が家の中に響く。

 スプーンを握った黒竜は、待ちきれない様子でオムライスに突っ込んだ。


「んぐっ……うまぁああい!」


 頬をいっぱいに膨らませ、目を閉じて全身で味わっている。

 子どもたちもスプーンを握る手が止まらない。


「うまうまだね!」

「オムライス美味しいね!」

「うまっ……」


 子どもたちも口のまわりにケチャップをつけながら、笑い合っている。

 ひじきはいつもよりも食べるスピードが早いため、好みに合っているのだろう。


「……あたたかい」


 マシュマロのぽつりと零した声は、いつもの元気な様子ではなかった。

 それから一気にほおばり、目を潤ませていた。

 いつも一人で冷たいご飯を食べていたから、改めて温かいご飯良さを知ったのだろう。

 その後は誰も喋らなくなり、聞こえてくるのは「うまい」という言葉だけ。


 そんな俺もゆっくりとオムライスを一口食べる。

 不思議と心が落ち着いてくる優しい味がした。

 いや、みんなで食べているから優しい味に感じるのかもしれない。

 テーブルを囲む音、笑い声、温かな匂い――。

 それだけで、この家がちゃんと「家」になってきたのだろう。

 ただ、こんなに人が集まったら狭いけどな。


「あっ、パパこれ!」


 突然、思い出したのかマオは立ち上がり、何かを持ってきた。


「おはにゃのかわり」


 寂しそうな顔をしているマオを優しく撫でる。

 マオの手にはきっとさっき書いたであろう絵を持っていた。


「もずく、ひじきもおいで!」


 顔を伏せていたもずくとひじきも呼ぶ。


「これがマオだよ!」

「こっちは?」

「こっちがオラでひじきととーちゃん!」


 絵では真ん中に俺が立っており、その隣にマオともずく、ひじきと四人で手を繋いでいた。

 仲良くニコニコしている姿が印象的だ。


「俺がいないだと……」


 絵を覗いてみたマシュマロは自分がいないことに嘆いていた。

 子どもたちと一緒にいる時間が少ないから仕方ない。


「ボス、これも……少しボロボロになったけど……」


 ひじきはポケットから青色のブローチを取り出した。

 箱は潰れてブローチも欠けているが、必死にひじきが守った証拠だ。


「ありがとな」


 子どもたちの優しい気持ちに涙が止まらない。

 俺はブローチを服にそっと付ける。

 その瞬間、子どもたちはパッと笑顔になった。


「パパ、かっこいい!」

「とーちゃん、似合うね!」

「ボスはいつでもかっこいいぞ!」


 胸の奥がじんと熱くなる。

 俺はきっと、この笑顔を守るために今を生きているんだろう。


 その隣で黒竜が小声で言う。


「……なぁ、デザートは?」

「おいおい、空気を読めよ! って、それ俺のオムライスじゃないか!」


 黒竜は俺のオムライスに手を伸ばして食べていた。


「おかわりあるんだから――」

「「「おかわり!」」」


 子どもたちの元気な声が家の中に広がっていく。

 今日も我が家は賑やかで幸せに満ちていた。

お読み頂き、ありがとうございます。

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