29.元英雄、お子様プレートを作る
「あとは黒竜が倒してくれるが、残ったやつは冒険者で頼む」
「あっ……ああ」
近くにいたギルドマスターを含む冒険者たちに声をかけたが、誰一人動きを止め唖然としていた。
念の為に、黒竜に念話を飛ばして家の場所を教えたから戻ってくることはないだろう。
「よし、今日は何食べようか!」
「しゅてーき!」
「唐揚げ!」
黒龍が食べることを想定したら、かなりの量が必要になるが、あいつって意外に肉よりも野菜派だった記憶がある。
野菜もしっかり食べられる肉料理ってあっただろうか……。
「おい、お前!」
「なんだ?」
貴族の当主が再び俺に話しかけてきた。
スタンピードも終わったし、特にこの町に何かが起きることはないはずだが……。
「喜ぶんだな。我が家の騎士にしてやろう!」
今度は俺が唖然としてしまう。
「ははは、嬉しくて声も――」
「子育てで忙しいから、遠慮しておく」
これ以上関わっても面倒なことしか起きないだろう。
それに買い物がまだ終わってないしな。
俺は子どもたちを抱えて、さっさと立ち去った。
「そうかそうか……なんだと!? お前なんて不敬罪で訴えてやる!」
「領主様! 町を守っていただいたヴォルフガング様になんてこと――」
「うるさい!!」
なにかずっと言っていたが、ギルドマスターが止めてくれていたから問題ないだろう。
家に戻ると早速料理に取り掛かる。
「パパ、なにちゅくるの?」
「今日はお子様プレートにしようかと思う」
「お子様……プレート?」
せっかくなら頑張った子どもたちに好きなものを食べさせたい。
唐揚げとステーキも載せれば、マオともずくが食べたかったものも出せるし、なんと言っても――。
「オムライスって特別な感じがしないか?」
「おむらいしゅ?」
「オムライス?」
この世界にも米はあるが、あまり見かけることが少ない。
普段はじゃがいものようなイモ類を主食で食べることが多いが、亜空間にお米があることを思い出した。
って言っても過去に黒竜からもらったものなんだけどな。
俺は鍋に米を出して洗ってみる。
「たぶん腐ってはないよな……?」
亜空間で時間を止めているが、昔もらった米を食べるのに元日本人としては若干抵抗感はある。
特にツンとした匂いはないし、色味も半透明だから問題はないと思うが……。
そのまま鍋でお米を浸水させながら、唐揚げの下味もつけていく。
「スープはごろっと野菜スープでいいか?」
お子様プレートと言ったら、ポタージュスープが良いと思ったが野菜が少ない。
子どもたちに声をかけたが、反応がない。
黙々と絵を描いていて、聞こえていないのだろう。
「スープは……」
「パパ、あっち!」
「とーちゃん、見ちゃだめ!」
近づいたらもずくに押し出されてしまった。
子どもたちもなにか準備をしようとしているのだろう。
少し寂しく思いながらも、料理の続きをする。
野菜スープはコンソメのような調味料はないため、自分で作った鶏がらスープの出汁にしながら、玉ねぎとにんじんを炒めて甘味を出すしかない。
刻んだ野菜を炒めたらあとは、鶏がらスープと水を加えて、大きく切った野菜を煮込んだら完成だ。
「お米もそろそろ炊くか」
30分ほど浸水させたお米を強火で沸騰させる。
その隣では唐揚げを揚げる準備だ。
さすがに今日は二度揚げはせずに、一回で作る予定でいる。
「お子様プレートって意外と大変だな」
気軽にお子様プレートを作ろうと思ったが、食欲旺盛な子どもたちと大人がいたら、普通におかずを作っているのと変わらない。
「おっと、もう沸騰しているな!」
お米は鍋の中がグツグツと沸騰したら、弱火にして炊けるまで火にかけたら完成だ。
その間に唐揚げを揚げれば、ある程度作り終わるだろう。
――ガチャ
「「おかえりー!」」
扉の開けた先にはマシュマロがいた。
久しぶりに起きている時間に帰ってきた気がする。
「魔王様! おケガはありませんか?」
マシュマロは心配そうにマオの元へ駆け寄る。
だが、マオは首を傾げて、不思議そうな顔をしていた。
「マシュマロ、どうしたんだ?」
「いや、急に嫌な予感がして、魔王様に何かあったのかと思ってな。無事そうでよかった」
さすが魔王の側付き。
マオに何かあると、異変を感じるのだろう。
あの場にいたら、俺よりもマシュマロの方が暴走していたかもしれないな。
「マオ、げんき!」
マオが腰に手を当てて、胸を張るとマシュマロはホッとした顔をしていた。
「あっ、ついでに帰ってきたんなら料理を手伝ってくれ」
再び外に出て行こうとするマシュマロを俺は止めた。
大人がいた方が作業は楽だからな。
「なぁ、これはなんだ?」
「米のことか?」
「米っていうのか……」
粒が立ち、ふっくらと炊き上がった米をマシュマロは興味深そうに見ていた。
久しぶりの米をオムライスに使うのはもったいないが、仕方ないだろう。
米はオムライス用に少し硬めに炊いているが、ケチャップご飯にするとベタつくため、粗熱を取ってから使うつもりだ。
「田んぼは知らないのか?」
「それも何かの食材か?」
畑の知識はあっても、田んぼのことは知らないようだ。
そもそも俺もこの世界に来て、田んぼを見たことがない。
将来は田んぼもやってみたいが、まずは畑をマスターしてからだな。
「今日は豪勢だな」
「良いことがあったからな」
唐揚げも揚げ終わったため、ステーキを焼いたらおかずは完成だ。
魔法で脳の思考速度と動きを早めているから、どうにか作り終えた。
「最後はオムライスだな」
「オムライス?」
マシュマロも首を傾げているが、やはり子どもたちと違って可愛げないな。
むしろ雄っぱいが揺れて気が散る。
オムライスは手作りトマトケチャップにバターを少し入れて、ご飯を炒めていく。
「形を整えて皿に盛り付けてくれ」
マシュマロにご飯を載せてもらっている間に、俺は薄焼き卵を焼いていく。
オムレツにしようかと思ったが、俺にそんな技術はないし、この世界のフライパンは焦げやすいからな。
フライパンに保護魔法でもかけたら、テフロン加工のフライパンみたいになるのだろうか。
薄焼き卵をご飯の上に載せて、盛りつければ完成だ。
「ひじきは起きそ――」
「もう、起きてるよ!」
子どもたちに目を向けると、すでにひじきは目を覚ました。
俺はひじきに近づき、ギュッと抱きしめる。
「痛いところはないか? 大丈夫か?」
「ボス、痛いよ……」
「まだどこかケガしてるのか?」
どこを見てもひじきがケガをしている様子はない。
見えないところに小さな擦り傷でもあるのだろうか。
「んーん、ボスがギュッとして痛かっただけ」
「ああ、すまない……」
俺が謝ると、ひじきは俺にギュッと抱きついてきた。
「へへへ、おかえし!」
ひじきが俺にギュッと抱きつくと、今度はマオともずくまで加わってきた。
「パパ、マオも!」
「オラもー!」
押し潰されそうになりながらも、笑いが止まらない。
ニコリと笑うひじきの顔を見ると、全身の力が抜けた気がした。
大丈夫だとわかっていても、どこか心の中でひじきのことが心配だったのだろう。
――グゥギャアアアアアア!
マオの空腹音が家の中に響く。
「パパ、おにゃかしゅいた!」
「ああ、ご飯を……マシュマロどうしたんだ?」
すぐにお子様プレートを取りに行こうとしたら、その場で腕を広げているマシュマロがいた。
「いや……なにもない」
目が合うと少し戸惑ったような表情をしていた。
腕を広げてなにがしたかったのだろうか。
俺はできたばかりのお子様プレートをみんなの前に置いていく。
子どもたちは目を輝かせながら見ていた。
いや、子どもだけではない。
マシュマロの目もキラキラしていた。
そういえば、誰か忘れていたような――。
――ドン!
勢いよく玄関の扉が開く。
「わしにも飯を食わせろ!」
そこには黒竜が人の姿になって立っていた。
ああ、こいつが来るのを忘れていたな。
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