28.元英雄、ドラゴン退治をする……?
「ヴォルフガング様、そんなこと言わないでくださいよー」
いざ我が家に帰ろうとしたら、ギルドマスターに服の裾を掴まれる。
子どもたちに掴まれても気にしなかったが、大人……いや、おっさんに掴まれたら嫌な気しかしない。
「離せよ。SSSランク冒険者には独自のルールがあるだろ?」
「はて……?」
ギルドマスターは首を傾げていた。
子どもたちがすると可愛いのに、おっさんにやられてもな……。
「はぁー」
俺は大きなため息をつく。
SSSランク冒険者って言われているのは、単に強さで登り詰めただけじゃない。
「ギルドも、貴族法も俺は縛られない。誰の支配も受けないためだ」
誰も俺に指図できないようにするため、前国王が唯一作ったのがSSSランクだ。
だから、俺はひっそり辺境地で静かに暮らせていた。
国で何かあるたびに呼ばれていたら、静かになるどころか社畜になるからな。
「そんなー」
ギルドマスターが項垂れていると、マオともずくが俺の顔をジーッと見つめてくる。
「パパ、かわいしょうだよ? マオ、パパのたたきゃうところみたい!」
「とーちゃんが嫌ならオラがやろうか?」
さすがに子どもに期待されたら、親は引き下がれないだろう。
それに俺がやらないならもずくが戦うとか言い出した。
子どもの運動会で親が競技に参加させられるのはこんな気持ちなんだろうか。
「そこまで言うなら――」
その時、何者かの足音が近づいてきた。
「おい、これはどういうことなんだ!」
人集りを押すように派手な格好をした男の姿が目に入った。
それに気づいた騎士たちはすぐに並んで頭を下げる。
「こんなところでわしの出待ち……イヤナーツ!? 我が子に何をした!」
貴族の少年の父親が威張りながら近づいてきた。
武器屋で顎に剣をぶつけて気絶させた男だ。
周囲を睨みながら、誰がやったのか確認していた。
「別に気絶してるだけだろ……」
俺が魔法で治療しているから、傷は何もないし、服が汚れているだけだ。
本人はげっそりした顔で寝ているけどな。
「お前は……あの時いたやつだな!」
貴族は俺に近寄って襟元を掴む。
「お前のような平民が我が子に手を出すとは不敬罪だ! 今すぐに殺してやる!」
ドブのような匂いがする口元から出てくる言葉に再び俺は苛立ちを覚えた。
せっかく子どもたちに救われたのに、親子揃ってこいつらはバカなんだろうか。
「領主様おやめください。この方は――」
「黙れ! 黙れ!」
あまりにも幼稚な振る舞いに、俺は冷めた目を向けるしかなかった。
こんなところにいたら、時間の無駄だし、子どもたちに悪影響だろう。
せっかくギルドマスターに協力する気になったが、こんなやつの領地なんて俺には関係ない。
「帰るからな」
俺は貴族の男の手を振り払う。
「ヴォルフガング様!」
ギルドマスターは必死に俺を止めようとするが、邪魔されて動けないようだ。
貴族と関わると、本当に碌なことが起きないからな。
『グワアアアアアアア!』
魔物たちが近づいてきたのだろう。
ドラゴンの咆哮がここまで聞こえてくる。
「俺たちはどうすればいいんだ?」
「ここで死ぬのか……」
周囲は動揺し、逃げ出すものや叫びだすものもいれば、混乱して迫り来る恐怖に怯えていた。
そんな中でもあいつは違った。
「おっ……お前らなにやってるんだ! 俺を守るのが先だろ!」
本当に無能な貴族なんだろう。
普通は領民を守るのが領主の役目だし、現状の状態を理解する行動すらしていない。
「ヴォルフガング様、お願いします! どうかこの町のために人肌脱いでいただけないでしょうか?」
ギルドマスターは俺の前に座り込み、額が砕けそうなほど強く地面に頭を押しつけた。
あまりにも何度も押しつけるから、鈍い音が周囲に広がる。
子どもたちもいる前で、そんなことをされたら断れないだろう。
本当は領主であるあいつが頼むことだが、今回は仕方ない。
「わかった。ドラゴンだけどうにかする」
「ありがとうございます!」
俺はマジックチェインを発動させる。
上空へ伸びた鎖は、一直線にドラゴンへ向かっていく。
「ヴォルフガング様……なにをされるんですか?」
「来るのが遅いから呼ぶことにした」
「呼ぶ……? 呼ぶんですか……!?」
中々ドラゴンが来ないため、俺が行くよりも連れてくることにした。
それに目の前で追い払った方が、スタンピードが来ていると伝えやすいだろう。
少しずつ上空に影が広がり、周囲の光を覆い隠していく。
「わぁー、おおきいね!」
「ドラゴンって飛んでるんだ!」
子どもたちはドラゴンを見て、驚きながらも喜んでいた。
「きゃあああああ!」
「俺はまだ死にたくねえええええ!」
だが、町の人は大パニックになっていた。
我が子の落ち着きようを見習った方がいいぞ?
「あわわわ……」
そして相変わらずあいつなんて、びっくりして股を濡らしてるからな。
本当にドラゴンが来るとは思っていなかったのだろう。
「じゃあ、行ってくる! ちゃんと耳を塞ぐんだぞ!」
「「はーい!」」
マオともずくは大きな声で返事をして、耳を塞ぐ。
それを見ていた周囲の人も、急いで耳を塞いでいた。
俺は風属性魔法で体を上空へ持ち上げる。
『グルルルルル……』
久しぶりに間近でドラゴンを見たが、やはり大きな翼の生えたトカゲにしか見えない。
俺を見て唸っているが、体に巻きつかれた鎖が解けないのだろう。
マジックチェインって元々こいつのようやドラゴンを縛るために開発した魔法だからな。
「おい、トカゲ! いい加減目を覚ませよ!」
俺は手を身体強化して、強くドラゴンの頬を叩く。
――バァチイイイイイイイン!
鼓膜が破れそうな衝撃が走ると、ドラゴンの瞳が瞬間的に大きく見開いた。
『おっ……お前は!?』
「よっ、黒竜!」
俺に叩かれたドラゴンは目をパチパチとさせていた。
突然、こんなところにいたらびっくりするだろう。
「お前、また操られていたぞ」
こいつが操られたのは、今日が初めてじゃない。
魔力や知能が高いドラゴンがなぜ、マオの感情に呼ばれていたのか気になっていた。
ドラゴンの中でもバカな黒竜だからこそ、操られていたのだろう。
――パチン!
俺はマジックチェインを解除する。
『ヴォルフか! いやー、それはすまんかった』
黒竜は申し訳なさそうに頭を掻いていた。
「これで何度目だよ……」
毎回暴走するのを止めるこっちの身を考えて欲しい。
「じゃあ、他の魔物も撃退しながら帰ってくれ」
俺は魔力を広げて、魔物の位置を確認する。
もう少しで町に魔物が到着するだろう。
『おい、久しぶりに会ったのにそれだけか? また飯を食わしてくれないのか?』
「働かないもの食うべからず!」
『わっ……わかった! グオオオオオオ!』
黒竜が咆哮を放つと魔物たちは離れていく。
それでも知能が低い魔物は力の差に気づかないのだろう。
「少し残ってるから、飯は抜きだな」
『なっ……!? 今すぐに倒してくる! 待ってろよ!』
そう言って黒竜は町の外に飛んでいく。
黒竜って恐れられているけど、ただの食い意地が張っているただのトカゲだからな。
俺はゆっくりと地面に降り立つ。
「パパ、しゅごーい!」
「とーちゃん、かっこいい!」
念話で黒竜とは会話をしているため、聞こえてない子どもたちにとったら、俺は英雄に見えるのだろう。
俺に抱きついてきた子どもに少し申し訳なさも感じつつ、親としては褒められると嬉しい限りだ。
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