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27.元英雄、俺の名は……

「おいおい、そんなに落ち込まなくてもいいだろ? 俺なんて、一緒の部屋に居たくないって言われるんだぜ?」

「それは汗臭いからですよ!」

「なんだと!?」


 子どもたちから付いてくるのを拒否され、俺は寂しく冒険者ギルドで待っていた。

 なぜか他の冒険者たちから声をかけられるが、そんな会話も一切耳に入っていない。


「はぁー、子どもの反抗期かぁ……」


 いつか「パパ臭い」とか「顔も見たくない」って言われるのだろうか。

 そう思うだけで、胸が張り裂けそうになる。


――バン!


「とおおおおおおちゃああああん!」


 声が聞こえたと思ったら、涙で顔がぐちゃぐちゃになったもずくがやってきた。

 俺はすぐに駆け寄って抱きしめる。


「おい、どうしたんだ? 転んだのか?」

「マオが……兄ちゃんが……プレゼントが……」


 二人に何かあったのだろうか。

 俺はすぐに魔力を広げて、どこにいるのか探す。


「きじょくに殺されるー!」


 その言葉を聞いて俺は胸が張り裂けそうになった。

 いや、俺だけではないだろう。

 貴族って言葉が出た瞬間、冒険者たちは苦い顔をしていたからな。


「ここにマオとひじきがいるんだな」


 サーチすると町の中央に人だかりができていた。

 「貴族」と「殺される」って言葉から、ここにいるのは間違いない。


「おい、いくら何でも相手は貴族――」


 冒険者は俺を止めようとしたが、それを振り払った。

 貴族だろうが何だろうが、俺の子どもたちに手を出したやつは許さない。



 冒険者ギルドからすぐに移動すると、人だかりが目に入った。


「パッパアアアアアアア!」


 マオの泣き叫ぶ声が聞こえてきた。

 俺の胸に嫌な予感が走った。

 マオの不安定な感情に魔物が引き寄せられたのかもしれない。

 でも、今はマオの元へ行く方が大事だろう。

 俺は人集りを飛び越え、上から状況を確認する。

 叫んでいたマオは騎士に捕まっていた。

 だが、それよりも気になった気になった光景が目に入る。


「ひじき!」


 ひじきは何かを守るように丸まって倒れていた。

 すぐに抱きかかえ、顔を見るとなぜか赤く染まっていた。

 きっと貴族に頬を叩かれたのだろう。

 口から垂れている血を見たら、必死に食いしばっていたのがわかる。


「ひじき、よく頑張ったな」


 俺はひじきを優しく抱きしめた。

 震えてる手が俺の前に花開くように開けられる。


「へへへ、ちゃんと守ったよ……」


 そこには青く光る石……いや、ブローチがあった。

 きっともずくが言っていたプレゼントだろう。

 ここに来る途中で、もずくに何をしていたのか確認したら、俺に渡すプレゼントを買いに行っていたと聞いた。

 必死にプレゼントを守っていたのだろう。

 子どもたちの優しい気持ちに温かくなると同時に、こんなに子どもを傷つけたやつに怒りを感じる。


「ゆっくり休みなさい」


 すぐに回復魔法をかけて、ひじきの痛みを取り除く。

 強く強く抱きしめると、ひじきは安心したのかそのまま眠りについた。


「おい、平民――」


――バアアアアアアン!


 鬱陶しい蚊の飛ぶような声が聞こえたため、俺は手で叩いた。

 勢いよく飛んでいくがそんなのは関係ない。


「マジックバインド、ヒール」


 俺は貴族……いや、蚊を魔法で引きずり戻して、回復魔法をかける。


「お前、俺になにを――」

「うるさい」


――バアアアアアアン!


 蚊はすぐに叩いて殺せって習わなかったか?

 いや、殺したら意味がないか。


「イヤナーツ様! 貴様なに……」


 周囲の騎士が剣を抜き、ジリジリと近づく。

 ただ、俺が何もしないわけない。


「一歩動いたら、お前ら爆発するぞ?」


 目に見えわかるほどの爆弾が、騎士一人一人を囲むように回っている。

 邪魔をしないように魔法を起動させていた。


 再びマジックバインドで連れ戻して、回復魔法をかける。

 なんか、こんなやつに回復魔法をかけるのがもったいなく感じる。


「じゃあ、なにがあったか話してもらおうか?」

「やめてく――」


――バアアアアアアン!


 本当に頭に虫が湧いているのか?

 言葉が通じなさすぎて俺はびっくりだ。


「お前は何を言っても叩き続けただろう?」

「ヒイイィィィ!?」


 俺は貴族の少年の頬に手をペシペシと当てる。

 ちゃんと力加減はしているから、飛んでいくことはない。

 それに少しは冷静になってきたからな。


「さぁ、話してもらおうか? 嘘ついたら何回でもあの世を見せてやるぞ」


 俺がニコリと笑うと、足元からポタポタと何かが垂れる音が聞こえてきた。


「……ん?」


 いや、まさか……。

 顔を見れば、少年は青ざめて震えながらおしっこを漏らしていた。


「汚いな……この際全て消すぐらい――」


 喉元に手を伸ばしかけた瞬間、小さな声が震えて届いた。


「パパ!」


 突然、肩に重みを感じたと思ったら、マオが俺に抱きついていた。


「どうしたんだ?」

「メッ!」


 マオは俺の頭をペシペシと叩く。

 なぜ、俺が叩かれないといけないのだろうか。


「俺の子どもたちにケガをさせたら、貴族も子どもも関係ないだろ? ちゃんと謝らせないと」

「オラも怒ってない!」

「マオも!」


 近くにいたもずくも俺を止めにきた。

 怒りに染まりかけた心を、必死にしがみついた小さな手が引き戻す。

 俺を人に戻したのは、子どもたちだった。


「パパッ……あきゅまだよ?」

「悪魔だと!?」


 マオに「悪魔」と言われてハッとした。

 確かに冷静になったら、やっていることは悪魔と同じだった。

 むしろ俺の方がマオより魔王と呼ばれてもおかしくない。

 周囲を見ると怯えたような顔をしている人たちばかりだからな。


――パチン!


 俺は魔法を解除して、壊れた建物を一瞬で戻す。

 記憶から物質を元に戻す再生魔法って中々めんどくさいんだよな……。

 こういう時にマシュマロがいたら便利なんだけど、あいつは今どこにいるのかもわからない。


「そういえば、さっきまで泣いてなかったか?」

「なかないもん!」

「オラも元気!」


 マオは胸を張っているが、確実に俺の名前を呼んでいたとき泣いていた気がする。

 もずくも普段の様子に戻ったようだ。


「そっかー、無事でよかった」


 二人の頭を優しく撫でる。

 俺は念のために魔力を町の外まで広げた。

 マオが精神的に不安になったから、きっとあれが起きてもおかしくない。


「はぁー、やっぱりスタンピードが起きるよな……」


 遠くの方からゾロゾロと魔物がこの町に集まってきている。

 その中には明らかに来てはいけないものまで混ざっていた。


「おい、お前たち何してるんだ!」


 遅れて冒険者たちと受付嬢がやってきた。


「おっ、ちょうど良いところにきたな」


 俺は冒険者の肩を叩き、ニコリと笑う。


「はぁ? どういうことだ?」

「もうそろそろこの町に向かってスタンピードが発生するぞ」


 俺の言葉に周囲は静かになる。

 さすがに急に言われても対応できないか。


「それよりもこの人って――」

「ああ、嫌味みたいな名前の貴族だったな」


 冒険者の視線は今も倒れている貴族の少年に向けられる。

 騎士たちもいまだに戸惑って動けないでいた。


「それはこの領地のご子息様では……お前、何をしているんだ!」


 冒険者が俺に掴みかかってきた。だが問題を起こしたのは、どう見ても貴族の坊主の方だ。

 それに今この街に迫っている危機を忘れているのだろうか。


「今はスタンピードの対応が先だろう」


 声を低く告げると同時に、俺は圧を解き放つ。

 冒険者の顔色が一瞬で変わり、次の瞬間、胸を押さえてその場に膝をついた。


「ぐっ……がはっ……!」


 俺が一歩踏み出すと、さらに重圧がのしかかる。

 冒険者は悶え苦しみながら地面に倒れ込んだ。


「「「ギ、ギルドマスター……!?」」」


 周囲の冒険者たちと受付嬢の声が、恐怖と驚愕で震えていた。


「えっ……今ギルドマスターって言ったか?」

「そうです。彼が冒険者兼ギルドマスターをしています」


 この町のギルドマスターなら話が早いだろう。

 俺は久しぶりに亜空間からカードを取り出す。

 このカードを取り出すのも10年振りだ。


「俺はヴォルフガングだ。これが証拠になるだろう」


 黒く光るカードを手に取ると、ギルドマスターは驚いて、何度も俺の顔とカードを見比べる。

 普通はそういう反応になるだろうな。


「あなたが唯一のSSSランク冒険者で、素手でドラゴンを殴ったヴォルフガング様ですか!?」

「ああ……」


 普通はSランク冒険者になると「二つ名」が与えられる。

 俺にも「ドラゴンスレイヤー」っていう、いかにも冒険者らしいかっこいいやつだ。

 ただ、どういうわけか俺の場合、「素手でドラゴンを殴った」って事実のほうが広まってしまった。

 ギルドマスターは立ち上がると、真っ先に頭を下げてきた。


「ヴォルフガング様、今すぐにスタンピードの準備をします!」


 俺がSSSランクとわかればこの有様だ。

 こんな感じの生活が嫌になって、辺境地に移り住んだのに、こんなところでバレることになるとはな。


「ああ、ちなみにスタンピードの中にドラゴンがいるからな! よろしく!」


 俺はギルドマスターの肩を叩くと、顔が引き攣っていた。

 それにギルドマスターだけではなく、近くにいた騎士や町の人も同様だ。


「じゃあ、マオ、もずか帰ろうか!」


 俺は寝ているひじきを抱えて、マオともずくと帰ることにした。

 はぁー、貴族を相手するのはめんどくさい。

 それに今日は子どもたちが俺のために初めてプレゼントをくれた日だ。

 もちろん夕飯は豪華にしないとな。

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