26.兄、オレはみんなを守る
「兄ちゃんは何を買うの?」
「んー、ボスが欲しいものは何だろう」
オレたちはもらったばかりのお金を大事に持って、何を買うか探していた。
マオがボスにプレゼントをあげるって提案したからだ。
この間、剣を買ってもらったから、そのお返しになるだろうし、いつも美味しいご飯を作ってくれているからね。
「マオはどうするんだ?」
「おにきゃ!」
すぐにマオは答えたが、本当にお肉を買っても良いのだろうか。
お肉ならいつでもボスが買えるからね。
それに料理して、オレたちに食べさせそうな気がする。
「みんなで一つにするのはどうだ?」
「六枚もあるもんね!」
オレの提案にみんな頷いていた。
問題はなにを買うかだな……。
「帽子! ボスがかっこよくなる!」
「おにく! やっぱりおにく!」
「剣! ……は無理か」
みんなで歩きながらチラチラと色んな物を見たが、中々持っているお金で買えるものがない。
「ひじきー!」
「兄ちゃーん!」
オレはマオともずくに呼ばれて、急いで近寄っていく。
二人はガラス越しに何かを見ていた。
「これはにゃに?」
「兄ちゃん知ってる?」
二人が見ていたのはキラキラとした物だった。
明らかに一緒にお金を出しても買えない気がする。
それだけ今のオレたちに見たら高価に見えた。
――カラン!
「あら、お客さんかしら?」
「違う――」
「「はーい!」」
オレが断ろうとしたら、マオともずくは返事をしてしまった。
お客さんじゃないって言わないと、お店の中に入ったら買わないといけなくなる。
よくボスは買わないなら、触らないって言っているからな。
「よかったら中も見てちょうだい」
まるで操られたかのように、マオともずくは店の中に入って行く。
「買わないなら触っちゃダメだぞ! 壊したらボスに怒られるからな!」
すぐにオレは声をかける。
ボスがいない間は、オレがしっかりとしないといけないからね。
「うわああああ!」
「すごーい!」
だが、二人はそれを忘れたのか店内で走り回っていた。
店主は優しく笑っているけど、いざとなったらオーガのように怒るのを知っている。
肉串を売っているおっちゃんがそうだったからな。
「お前ら静かにしろ! ボスに言ってご飯抜きにしてもらうぞ!」
オレの言葉に反応したのか、マオともずくはその場でピシッと立ち止まった。
「ふふふ、しっかり者のお兄ちゃんだね」
「当然のことです」
兄はしっかり者でいるのが当然だからな。
どこかに行かないようにマオともずくの手を握り、店の中を歩く。
「どれも高そうだな……」
キラキラした物が何かはわからないが、きっと高い物だろう。
大きいものから小さいものまである。
「何を探してるのかしら?」
「パパのぷれじぇんと!」
「とーちゃんにあげるやつ!」
マオともずくの言葉を聞いて、店主はニコリと笑った。
「お金はどれくらいもってるのかしら?」
店主はオレたちにお金をいくら持っているのか聞いてきた。
きっとお金がないのを理由に追い出したいのだろう。
「りょくまい!」
「六枚!」
それなのにマオともずくは疑うこともなく答えてしまった。
「銅貨かしら?」
「これ!」
マオは店主にもらったばかりのお金を見せつけた。
それを見て店主は何か考えているようだ。
「ほら、お前ら帰るぞ!」
オレはマオともずくを店の外まで引っ張ろうとしたら、店主に止められた。
「銀貨五枚でちょうど良いのがあるわよ」
店主は店の奥に行くと、何かを持ってきた。
「ここは高いものしか売ってないからね……。これなら買えるわよ」
小さな箱の中には、オレの手のひらサイズの青く光るキラキラと光る石のようなものがあった。
店主はそれを手に持つと、オレの服につける。
「これはブローチって言うの。大事な人にプレゼントする時は相手のことを尊敬している、大切に思っているって意味があるの」
「マオ、パパしゅき!」
「オラも!」
その言葉にオレも胸を動かされる。
オレもボスのことが大切だし、一番尊敬している。
親もいないし、人間じゃないオレともずくを救ってくれた。
それに「ひじき」というかっこいい名前もつけてくれた。
「ひじきどうしゅる?」
「兄ちゃん?」
マオともずくはオレの顔をジーッと見ていた。
もうそろそろ帰らないとボスが心配するかもしれない。
「銀貨五枚で買えるから、残りの一枚はお花とかはどうかな?」
もしブローチが気に入らなくても、お花があれば喜ぶかもしれない。
店主の甘い囁きについ首を縦に振ってしまった。
「買います!」
オレたちがポケットからお金を取り出すと、店主はすぐにブローチを箱に入れて、何かをつけてくれた。
「リボンも巻いておいたわよ。パパが喜んでくれるといいわね」
「「うん!」」
二人は走り回るから、オレがブローチを受け取った。
店主に花が売っているところを聞いて、オレたちは店を出た。
花屋は店を出たすぐ近くにあり、銀貨一枚で小さな花束を作ってもらった。
それをマオに持ってもらい、オレたちはボスが待つ冒険者ギルドに向かって歩く。
「おい、お前ら!」
何か声が聞こえたが、オレの知らない声だ。
ボスが喜んでいる顔を思い浮かべながら、オレたちは歩く。
「お前らに言ってるんだよ!」
突然、腕が引っ張られる感覚があり、隣を見るともずくが倒れていた。
「もずく大丈夫か?」
「いたた……」
オレは転んでいたもずくを起こす。
チラッと目を向けると、この間武器屋に来ていた少年がいた。
「なにしゅるのよ!」
マオは少年に寄っていく。
「マオ、ダメだ! ボスに怒られる!」
その言葉にマオはハッとしたのか、立ち止まった。
「平民のくせに花なんて持つなよ! 花は俺みたいな貴族のためのものなんだ!」
男の子はそう叫ぶと、マオの手にあった花束を乱暴に払い落とした。
花は宙を舞い、花びらがひらひらと散っていく。
「もう、おこったよ!」
「はぁん、何言ってるんだ? 俺を無視したからいけないんだよ! この泥棒!」
その言葉に立ち上がったばかりのもずくも怒りを露わにした。
「泥棒じゃない!」
もずくは盗むことなんてしていないし、なぜオレたちにそこまで関わってくるのだろうか。
「バラバラになったけど仕方――」
オレは散らばった花を拾おうとしゃがみ込んだ。
その瞬間、目の前を銀色の影がスッと横切る。
思わず危険を感じて、慌てて大きく後ろへ飛び退いた。
「お前らが俺の買うつもりの武器を盗んだから、泥棒って言ってなにが悪いんだ?」
「ぷれじぇんとだもん!」
「そうだ!」
マオともずくは必死に言い返す。
だけど、向こうは聞く耳を持たない。
それに――。
「おい、ボスの花を踏むな!」
やつはボスにあげるための花を何度も踏んだ。
俺はやつの足を持ち上げると、すぐに花を回収する。
「平民のくせに!」
「いっ!」
オレの手を強く踏んできた。
でも、花は少しだけ守ることができた。
「もう、こいちゅきりゃい!」
「マオ、待て!」
今にも掴みかかりそうなマオを必死に止める。
きっとこいつがボスに気をつけるようにって言われた貴族ってやつだろう。
なるべく関わらないようにって何度も言っていた。
「おい、お前らこいつら押さえろ!」
少年の言葉に反応して、鎧を着た男たちがオレとマオに近づいてくる。
周りの大人は目をそらして通り過ぎていく。
誰も助けてくれない。
オレが過去に肉泥棒をしていたからか……。
周囲で大人も見ているのに、誰も助けようとしない。
それにどこか嫌な予感がする。
「もずく、ボスを呼んでこい!」
「でも……」
「兄ちゃんの言うことを聞け!」
この中で一番足が早くてすばしっこいのはもずくだ。
もずくは急いで冒険者ギルドに駆け出して行く。
「なっ……なんだ!? こいつ速いぞ!」
鎧を着た大人ももずくを捕まえられないのか、隙間から逃げ出せた。
ゆっくりと近づいてくる鎧の大人たちから逃げるように、オレはマオの隣に行く。
「なにもするなよ」
「でも……お花が……」
マオは目に涙を溜めながら、剣に手をかけていた。
オレはそっと手を握り、剣を鞘から抜かないようにする。
「ボスが言ってただろ。剣は家族を守るために使うんだ。人を傷つけちゃダメだ」
マオは小さく頷くと、オレは鎧の大人に捕まった。
「平民が正義の騎士気取りか? 虫唾が走るな」
突然、頬に衝撃が走った。
オレは少年に頬を叩かれていた。
動こうにも鎧の大人に捕まっており、身動きが取れない。
「ひじぃぎいいいいい!」
マオは大きな声で何度も声をあげる。
でも、オレが叩かれている時はマオが叩かれることはないだろう。
これで気が済めば問題ないからな。
オレは覚悟を決めて、歯を食い縛る。
「俺はお前みたいな何もないやつらが大っ嫌いだ」
何度も何度も頬に衝撃が走る。
叩かれすぎて痛みも感じにくくなってきた。
オレは少年に掴まれて投げ捨てられた。
それと同時に大事なものがポケットから転がっていく。
「……くだらない。こんな石ころで喜ぶなんて、やっぱり平民だ」
少年はブローチの入った箱を、ぞんざいに放り投げた。
コロンと転がった箱から、青い光がこぼれる。
これだけは、絶対に守らなきゃ。
オレは痛む手を伸ばし、必死にその小さな光をつかみ取った。
「そんなに死にたいのか?」
「イヤナーツ様やりすぎです!」
「どけっ!」
オレを掴んでいた騎士が間に入ろうとするが、少年に蹴られていた。
視界がぼやけ見えにくいが、なにか光るものが見えた。
あれは剣だろうか……。
なぜかゆっくりと近づいてきているような気がする。
でも、ボスへの大事なプレゼントは守れそうだ。
「パッパアアアアアアア!」
マオが大きな声で叫んだ。
ははは、そんな声を出すとまたボスに怒られるぞ……。
「ひじき!」
視界が暗くなっていく中で、大好きなあの声だけが鮮明に届く。
「ひじき、よく頑張ったな」
オレの知っている温かい感覚に包まれた。
ああ、ボスが来てくれたんだ。
「へへへ、ちゃんと守ったよ……」
オレは守り抜いたブローチをボスに見せつけた。
でも、せっかくのプレゼントなのに、ボスの顔は泣いているような、怒っているような……。
その両方を混ぜた顔で、オレを強くギューっと抱きしめた。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします(*´꒳`*)




