21.元英雄、稽古をする
朝食を食べ終え、食材をいくつか買った俺たちは家に戻ることにした。
「しゅぱ!」
「しゅしゅ!」
ひじきともずくは木を手に持って、素早く振り回している。
「おれがまおをまもりゅ!」
そんな二人にマオは木で斬りつけるような動きをしていた。
「「うぎゃああああ!」」
ひじきともずくは、手を大きく広げながら大げさに倒れる。
子どもたちは歩きながらごっこ遊びをしていた。
「マオを守る」って言った覚えはないが、よほど貴族を追い払ったことが、子どもたちに憧れを抱かせたのだろう。
マシュマロから逃げていた時の方が難しいことをしていたが、魔法よりも剣の方に子どもたちは興味を示していた。
「あまり遠くに行くなよー!」
「「「はーい!」」」
俺は魔力を広げて子どもたちが遠くに行かないように、様子を確認する。
ただ、木の後ろに知っている魔力を探知した。
「マシュマロ、隠れきれてないぞ?」
「みんな俺を置いていった……」
どうやら一人だけ置いていかれたことが嫌だったようだ。
体は大きいのに思ったよりも寂しがり屋の性格なのか、ブツブツとずっと呟いている。
木の後ろにもほぼ隠れていないからな。
「そういえば、マシュマロに相談したいことがあって――」
「ほんとか!?」
スパッと姿を現し、俺の目の前にやってきた。
俺でも目で追うのがやっとなのに、このスピードをどこかに使うこともなく、魅了魔法ばかり使っているもんな……。
「ああ、家を立て直そうかと考えているんだが、何か良い案はあるか?」
俺はマシュマロに家の建て直しを相談することにした。
畑の知識も俺よりはあるため、建築の知識も少しはあるのかもしれない。
「それなら俺に任せてくれ! 料理はできないが、その他は完璧だ!」
マシュマロの言葉に妙な説得力……というより圧がある。
拒否したら今にも雄っぱいで押しつぶされそうだからな。
だが、俺が思っていたよりもマシュマロは有能だった。
「じゃあ、良さそうな場所があれば――」
「立派な魔王城を作ってやるからな!」
そう言って、最後まで話を聞かずにどこかへ走って行った。
不吉な言葉が聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。
久しぶりに貴族に会った影響か、思ったよりも疲れたのだろう。
「パパ、はやくー!」
「とーちゃん、稽古するよ!」
マオともずくが大きな声で呼んでいる。
本当は武器の稽古は明日からするつもりだったが、すぐにやることになった。
「じゃあ、今から剣の稽古をする。まずはしっかり距離を取るように」
「「「はーい!」」」
あまりにも近いとお互いを斬りつける可能性がある。
手を大きく広げて、三倍程度の距離を空ければ問題ないだろう。
「じゃあ、まずは剣を握るところから始める」
ただ、三人とも武器が違うため、一人一人教えることになりそうだ。
「まずはマオだが……剣は重くないか?」
「きゃるいよ?」
マオは剣を片手で持っていた。
子ども用の剣を買ったのかと思ったが、少しだけ借りたら、しっかりと重い大人が使うような剣だった。
さすが大剣を使う魔王にとっては、普通の剣は軽いようだ。
「三人ともよく見ておくんだぞ」
俺は体を半身にして構え、剣を真っ直ぐ持つ。
「はっ!」
前足で地面を踏み、後ろ足で体を支える。
今にも矢が飛ぶ勢いで突き刺す。
「基本的にはひじきはレイピアだから突き刺しを優先、片手剣のマオだと――」
剣を軽く振り抜いてみせる。
空気を裂く音とともに、刃の軌跡がはっきりと残った。
「片手剣は突くだけじゃない。切り払う動きも大事になる。腕だけじゃなく、腰と肩を一緒に回して、体全体で斬るんだ」
俺は踏み込むと同時に剣を振り下ろす。
腕を振るよりも鋭く、重みを持った一撃になる。
「マオの剣は速さよりも、確実に相手を斬り倒すことを意識した方がいい。片手だからって軽く扱うと途中で刃が止まってしまう。足と腰を連動させれば、重い鎧でも断ち切れる……」
子どもたちのキラキラした瞳が俺を見つめていた。
あまりにも眩しい視線に恥ずかしくなる。
「パパ、かっこいー!」
「オレもボスみたいになる!」
マオとひじきはやる気いっぱいのようだ。
ただ、他の剣よりも短い短剣のもずくは少し寂しそうな表情をしていた。
「とーちゃん、オラはどうすればいいの?」
俺は双剣の使い方を考える。
「双剣って確か攻撃と防御で使い方を分けるんだったよな……」
俺は氷属性魔法で氷の短剣を二つ作る。
「基本的には――」
「「「わぁー!」」」
双剣の使い方を見せようかと思ったら、子どもたちは俺の手を興味津々に見ていた。
正確にいえば、魔法で作った剣だ。
「ほちい!」
「オレも!」
「オラも!」
氷属性だからこそできる造形魔法だが、剣としては扱いにくい。
子どもたちに渡してみると、刃にすぐ亀裂が走り、ぱきんと音を立てて砕けてしまった。
「「「あっ……」」」
「魔力で維持するから、手から離れると魔力が足りないと消えちゃうんだよね」
氷の剣は、瞬間的に斬りつけるか、せいぜい飛び道具として投げるくらいしか使えない。
俺は空中にいくつも剣を並べ、次々と投げ放つ。
白い軌跡を残して飛ぶ氷の剣は美しいが、同時に魔力の消耗も激しい。
「こういう使い方はできるんだけど、魔力の消費が多いから……」
「とーちゃん、オラもそれできるようになりたい!」
もずくは目を輝かせていた。
砕けた氷の粒子がきらきらと舞い上がり、その瞳に映り込んで一層輝いて見える。
「もずくはこういう戦い方の方が合ってるかもな」
双剣を選ぶあたり素早い動きに特化することになる。
魔法で作った剣とかを飛び道具として使って、忍者のように戦ったらバリエーションも豊かで敵も困るだろう。
「もずくだけじゅるい!」
「オレも魔法使う!」
子どもたちが魔法にも興味を持ってくれたから、魔法も一緒に学べば良いだろう。
「さぁ、みんなでやるぞー!」
「「「はーい!」」」
子どもたちの元気な声が夕空に吸い込まれていく。
俺はふと、子どもたちとこうして稽古する日々がずっと続けばいいと願っていた。
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