20.元英雄、武器屋で買い物をする
「「「わぁー!」」」
武器屋に入ると、子どもたちは目を輝かせていた。
普段はあまり見ることのない武器にやはり興味津々のようだ。
「いらっしゃい! 今日は何の用だ?」
奥の方から武器屋の店主が出てくる。
どこかぶっきらぼうだが、武器や防具を扱う店ってどこも似たようなものだ。
「子どもたちに護身用として、武器を買おうと思ってな」
武器屋の店主は俺の頭から足の先までジーッと視線を下す。
きっと武器を購入できるやつに値するか見ているのだろう。
売った武器が犯罪行為に悪用されたり、事故を起こされたらたまったもんじゃないからな。
子どもがしっかり管理できるかは親次第ってことだ。
「これで問題ないか?」
俺が腰に付けている剣を渡そうとしたら、武器屋の店主は手を出して止めた。
「別に問題ない。俺の視線に気づいているなら、只者じゃないからな」
どうやら俺が剣を差し出そうとしただけで、ある程度の力を見切っていたようだ。
この辺は己の経験を信用しているのだろう。
俺は腰に戻すと、すぐに子どもたちと武器を選ぶことにした。
「パパ、マオはこりぇがいい!」
マオが選んだのは、棒に大きな鉄球が鎖で結びついた武器。
「モーニングスターか……」
鉄球に棘が付いているのもあり、マオは見た目で選んだのだろう。
さすが将来の魔王だ。
「嬢ちゃん、それは力があるやつが使うやつだ」
「マオ、ちからもちだもん!」
マオは腰に手を当てて、大きく胸を張る。
「ははは、将来は大物になるかもしれないな!」
その姿を見て、武器屋の店主は大きな声で笑っていた。
きっと今のマオでモーニングスターを持つことはできるはず。
ただ――。
「マオは身長が足りないからな」
「がぁーん!」
力があって振り回せたとしても、身長が低いから扱うのは難しいだろう。
それにマオが将来大物になるのは、間違いではない。
武器屋の店主はしっかり見る目があった。
「嬢ちゃんはわしが探してやる」
あまりにも突拍子もない武器を選びそうだと思い、武器屋の店主が直々に選んでくれることになった。
俺よりも武器に詳しいため、ここは任せた方が良いだろう。
将来の魔王の武器を選んだって、鼻が高いからな。
いや……むしろ本当に魔王になったら、処刑される可能性が出てくるから、それだけは阻止しないといけないな。
「ひじきともずくはどれにするんだ?」
「オレはこの細いやつがいい!」
ひじきが選んだのは、刃が細いレイピアだった。
軽いこともあり女性が使うことが多い武器だが、体の大きさと速さを利用したひじきにはぴったりな武器だと思う。
「さすが見る目があるな!」
「当たり前だ」
ひじきの頭を撫でると、照れながら喜んでいた。
相変わらず素直になりきれないようだ。
「とーちゃん!」
もずくは遠くから短めな剣を二本持ってきた。
「オラはこれが良いけど……二本はおかしいかな?」
もずくは双剣で戦うつもりだろうか?
疲れ知らずで、素早く動けるもずくには合っているが、双剣って中々使いにくいはず。
チラッと武器屋の店主の顔を見るが、首を横に振っていた。
彼も俺と同じ意見のようだ。
「まずは剣を一つの方が――」
「オラと兄ちゃんが咥えるにはちょうど良いと思ったんだけど……」
もずくはオルトロスになった時のことを考えていた。
二本の剣を口に咥えて戦うつもりなんだろうか。
あれだけ牙や爪があるって言ったのに、剣で戦うつもりらしい。
「それなら片方は短剣にしたらどうだ?」
両方とも同じ長さの剣になると扱いにくくなる。
それを武器屋の店主も思ったのか、短い剣を奥から取り出してきた。
「長さが違えばケガをするリスクも減る。それに双剣使いになれなくても、持っておいて損はないからな」
今後のことも考えて選んでくれたのだろう。
さすが見る目がある武器屋の店主だな。
「じゃあ、全部でいくらになる?」
マオも武器が決まったことで、お金を払うことにした。
結局、マオは俺と同じが良いってことになり、オーソドックスな普通剣を買うことにした。
ゲームの魔王は大剣を振り回していたが、少しずつ将来が変わっているようだ。
「一つ金貨一枚だ!」
「いくら何でも安すぎないか?」
金貨五枚で家族が一ヶ月生活できる程度だと言われている。
そこまで粗悪な武器じゃなければ、金貨五枚からが一般的な相場だ。
武器を大事にするのも、その値段の高さが関係している。
「将来はこの町を守ってくれる戦士になるかもしれないからな!」
きっと子どもが三人もいれば、お金がかかるため、割り引いてくれたのだろう。
初めての武器って子どもの記念にもなるだろうからな。
「ありがとうございます!」
「「「ありがとー!」」」
俺たちはお礼を伝えて店を出ることにした。
――カラン!
「いらっしゃ――」
「ここの武器を全てくれ!」
店に入ってきたのは、いかにも貴族然とした親子だった。
父親は羽根飾りのついた帽子を被り、脂ぎった顔に香油の匂いを漂わせている。
その横にいた子どもは、腕に小さな宝石をじゃらじゃらと巻きつけて、「オレは特別だ」と言いたげな顔をしていた。
きっとこの町の領主に当たる貴族なんだろう。
俺は子どもたちをそっと隠して、店内の縁に寄る。
「店内全てですか?」
「ああ、うちの息子が武器を習いたいって言うからな!」
どうやら子どものために、武器を買いにきたようだ。
貴族ってこういう強引なやつが多いからな。
「すぐに準備いたします」
武器屋の店主も面倒なことに関わりたくないのか、売られている武器をすぐにかき集めてきた。
俺たちが邪魔にならないように、外へ出ようとしたら、貴族の子どもが少しずつ俺たちに近づいてくる。
「おい、そこのお前たち! その武器も全部よこせ!」
その言葉に俺は驚いた。
いくら何でも購入したものまで奪うつもりだろうか。
貴族の子どもはマオの前に行くと、剣を手に持ち引っ張ろうとした。
「やっ!」
「何だと! 貴族の俺に逆らうのか!」
明らかにマオの方が力が強いため、びくともしないのだろう。
俺としてはすぐにその場から離れたかったが、そうもいかないようだ。
「マオ、新しいのを買ってあげるから渡し――」
「やっ! これは……マオがはじめてパパにもらったの!」
その言葉に胸を突かれた。
俺にとっては数ある買い物の一つにすぎなかったのに、マオにとってはかけがえのない宝物だったのだ。
ちゃんとマオの気持ちを考えていなかったのは俺の方だった。
「すまない。これはうちの娘に買ってあげたものなんだ」
少年の手を制そうとした瞬間、鋭い金属音と共に、一振りの剣が俺の手前に突き立てられた。
冷ややかな視線をこちらへ向けながら、貴族の男が低く言い放つ。
「どこの平民かは知らないが、我が息子に安易に触れることは許さん」
明らかに俺に対して言っていることなんだろう。
ただ、剣を抜いたってことはそれ相当の覚悟があるのだろうか。
「もう一度言う、我が息子――」
俺はすぐに詰め寄り、剣の柄を貴族の顎に打ち込む。
もちろん貴族の子どもにも、睡眠魔法で眠気を誘うのを忘れない。
親の倒れる姿なんてきっと見たくはないだろうからな。
「子どもの大事な武器が盗られるところだったので、少し暴れてしまってすみません!」
俺はすぐに武器屋の店主に頭を下げる。
「あぁ……面白いものを見せてもらった。あとは俺がどうにかしておく」
面倒ごとに巻き込まれる前にすぐに帰った方が良さそうだ。
「それにしても、見た目によらず腕が立つじゃないか」
俺からすれば、俺の動きを追えた武器屋の店主の方に驚きだ。
きっとこの男も、俺と似たような生き方をしてきたのだろう。
貴族と関わるのは良いことがないからな。
「ははは、昔ちょっとやんちゃしてただけですよ」
そう誤魔化して、俺は子どもたちを連れて店を出た。
「ねぇねぇ、パパ、しゅごくかっこよかった!」
「ドンって一発で倒したの、見えなかった!」
「オレも全然!」
子どもたちは口々に俺を褒めちぎる。
頼もしいと思われているのは嬉しい。
けれど、同時に背中がむず痒くなるような照れくささもあった。
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