19.元英雄、子どもの成長に喜ぶ
「ふわぁー、よく寝た」
ベッドの上で体を伸ばすと、指先に何かふっくらとした感触が手に当たる。
我が家にこんなに柔らかい枕があっただろうか……。
「んっ……」
その声には俺は体を勢いよく起こして、枕元見るとマシュマロが寝ていた。
ベッドだと狭くなると言ったのに――。
「あー、布団を準備していなかったのか」
布団でいいか確認したところまでは覚えているが、俺はいつの間にか寝ていたのだろう。
そのまま床に寝るには痛いからな。
ベッドの上に大人二人と子ども三人も寝ているから、寝心地は悪く疲れが取れていない。
マシュマロなんて追い込まれて、枕みたいな扱いになっているからな。
「それにしても家が小さいよな……」
子どもたちが増えたことで、家の狭さを身に感じていたが、マシュマロがいることでもっと狭く感じる。
ただでさえ、あいつはガタイが良いからな。
「やっぱり家を建て直すしかないか」
家を広くしないと、このまま同じ空間にずっと一緒にいるのは精神的にきつい。
精神的に弱らせて、精気を吸収しようという魂胆だろうか。
子どもが大きくなるとともに、家の広さも考えないといけない。
マシュマロが素早く家の壁を直していたため、一度相談してもいいかもしれない。
とりあえず、俺はいつもの日課として、畑の野菜に水やりをすることにした。
外に出ると昨日とは目に映る光景が全く異なっていた。
「やっぱりあいつのおかげだな」
魔法で作った支柱にツルを巻いているため、畑の見通しが良くなっている。
それに昨日まで腐っていたはずなのに、少しだけ成長している気がする。
今まで実ができても大きくなることはなかったのに、さらに膨らみかけていた。
「ほほほ、ヴォルフよ。よく寝れたか?」
畑作業をしていると、ハタジイが声をかけてきた。
朝の日課である散歩をしているのだろう。
今となっては朝にハタジイと会えないと心配になる。
「マシュマロがいたから寝れなかった」
「そうかそうか。夫婦仲が良いのは子どもにとってもいいからのう」
ハタジイにはやはりマシュマロが女性に見えるのだろうか。
今も寝ているから、魅了魔法をかけていないはずだけどな……。
「それで家を大きくしようと思うけど大丈夫?」
「家族が住む家は大きい方が良いからのう。勝手に建て直してもらっても構わんよ」
ここの土地のほとんどはハタジイが管理している。
俺は無料で住まわせてもらっているだけだ。
ハタジイからの許可がもらえれば、あとはどうやって家を建てるかだよな……。
剣や魔法が使えても、家を建てる知識なんて一切ない。
町から人を呼んでも、距離があるからきっと時間はかかるだろう。
どこかで建物だけが売っていたら、一番楽なんだけど、魔法がある世界でもそれはない。
「パパッ!」
「とーちゃん!」
マオともずくが起きたのか、目を擦りながら外に走ってきた。
起きた時に俺が隣にいなくて、寂しかったのだろう。
俺に抱きついて、ベッタリと離れない。
「相変わらず、二人は甘えん坊だね」
遅れてひじきもやってきたが、チラチラと俺の顔を見ている。
きっと自分も仲間に入りたいのだろう。
俺は手招きすると、嬉しそうに走ってきた。
「まだまだ子どもたちも甘えん坊だな」
そんな子どもたちをハタジイは笑いながら見ていた。
まるで孫を見ているような気分なんだろう。
「ボス、朝ご飯は?」
「「ごはん!?」」
ひじきの言葉にマオともずくがハッとする。
そういえば、すぐに畑に来たから朝食の準備はしていなかった。
野菜と肉もほとんど昨日のバーベキューで食べているから、また買い出しに行かないといけない。
「せっかくだから町に行って食べるか」
「しゃんせーい!」
「「はーい!」」
家の件もどうするか町に行ってから、考えることにした。
「じゃあ、わしも帰るかのう」
ハタジイも散歩の合間に寄っただけのため、家に帰って行くらしい。
「ハタジイ、またね!」
「また一緒にあそぼ!」
「危ないから気をつけてね!」
まだ一度もハタジイの家に行ったことはないが、みんなで行っても楽しいだろう。
後を追いかけていけば、自然と家の場所は分かりそうだしね。
「それにしても、マシュマロはいつまで寝ているんだ?」
家に戻ってベッドを見ると、まだ心地良さそうに寝ていた。
マシュマロは食事を食べたことないと言っていたから、置いて行っても問題ないだろう。
起きた時のために、置き手紙をして家を出ることにした。
「いらっしゃい! 新鮮な肉はいらないか!」
「野菜もたくさん売ってるわよー!」
朝の町はたくさんの呼び込みで活気が溢れていた。
基本的には町の人たちは朝から活動することが多い。
商店街や店の店主もだが、ギルドに所属している冒険者や生産者も朝から活発的だ。
どこで食事を食べるか探していると、久しぶりに武器屋の看板が目に入った。
冒険者をしていた時はよく通っていたが、今となっては動物を狩るときにしか使ってないからな。
「あとで武器屋にいくか?」
俺は護身用に子どもたちに自衛する手段を教えようと思っていた。
マオは精神が不安定になると、魔物を呼び寄せるからな。
ゴブリンに襲われていた時のような状況になっても、自分で対処ができれば命の危険は少なくなる。
それに魔法も使えた方が便利だし、精神コントロールの勉強にもなる。
「マオはいらにゃいよ?」
「オラも爪がある!」
「オレは牙もあるからな!」
もずくは爪を俺に見せてきた。
ひじきは口を大きく開けたが、確かに牙は生えているものの、ほとんどの歯が乳歯だ。
それにしても、ひじきともずくは人間の姿でも牙や爪をオルトロスの姿で一部分を変化させることができるようになったらしい。
「パパ! マオのきんにく!」
マオは力こぶを見せつけてくるが、どこに筋肉があるのだろうか。
俺としてはマシュマロのように、マオがマッチョボディになられても困る。
本人の希望なら仕方ないが……。
何気ないところで、子どもの成長が垣間見れた気がした。
「ケガしたら俺が嫌だからな……」
護身用に身につけるはずが、素手だとケガをするかもしれない。
ひじきやもずくは爪と牙だから、自然と爪が剥がれたり、欠けたりしたら生活に支障が出てくる。
「んー、パパがいうなら?」
「とーちゃんは心配性だね」
「ほら、早くいくよ!」
子どもたちは俺を嬉しそうに引っ張っていく。
だが、武器屋の場所は知っているのだろうか。
それに朝食を食べるために町に来たはずなんだけどな……。
まぁ、後で食べればいいか。
今はせっかく子どもたちに興味が出てきているなら、そっちを優先した方がいい。
「お前たち武器屋はこっちだぞ!」
俺の言葉に子どもたちはハッとしたのか、向きを変えて武器屋に歩いていく。
三人とも少し前を歩きたいのは、俺を武器屋に連れて行きたいのだろう。
その姿についつい俺はクスッと笑っていた。
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