15.元英雄、気持ちの変化
俺は人気がないところに子どもたちを連れて隠れる。
「マオ、あいつはどうにかならないのか?」
「んー、ぱーんち!」
マオはその場で叩くマネをするが、さすがにマオの力でも追い返せないだろう。
俺でも雄っぱいを押し返すくらいしか力は勝てなかったからな。
「隠れんぼみたいだね!」
「もずく、うるさいぞ!」
「兄ちゃんの声の方が大きいよ!」
「シィー!」
ひじきともずくは隠れんぼをしている感覚なんだろう。
ひっそりと隙間から顔を出して、周囲を確認しているが、二人とも楽しそうにニコニコしていた。
「魔力を広げたいけど、きっと逆にサーチされるからな……」
魔力を広げれば、こっちの存在がバレてしまう。
そもそも防御魔法と組み合わせれば町全体を守れるし、属性魔法を足せば広範囲攻撃もできるのに、それを女性に見せるためだけに使うとはな……。
呆れるを通り越して、もはや尊敬に近い無駄遣いだ。
俺とマオもひじきやもずくとともに、顔を出して周囲を確認する。
「追いついたぞおおおぉぉぉ!」
するとどこかからやつの声が聞こえてきた。 だが、周囲を確認するが姿が見えない。
「くそ、どこから来たんだ!」
ひじきともずくはずっと警戒していたのに、一体どこにいるんだ。
「もう一度縛って――」
「遠慮する!」
やはりあいつは子どもたちの近くにいてはいけないやつだ。
ただの雄っぱい野郎かと思ったが、変態だったからな。
それにしてもどこから――。
「とーちゃん、上!」
もずくの声に反応した俺は空を見上げる。
段々と近づく雄っぱい。
気づいた時には、流れ星のように俺の頭上に落ちてきた。
――ズドオオオォォォン!
衝撃とともに砂埃がふわりと舞い上がり、その柔らかな跳ね返りが顔面を包み込む。
じんわりと温かく、まるでパンケーキが肌にぴたりとくっつきながら弾むような感触だった。
反射的に押し返すと――。
「いやん♡」
「くそっ!」
やっぱり雄っぱいで間違いなかった。
「お前たち、大丈夫か!」
すぐに子どもたちの様子を確かめるが、特にケガはなさそうだ。
むしろ、じっと俺の方を見つめている。
「マオもしゅるー!」
「オラも!」
何を思ったのか、マオともずくが勢いよく俺に飛びついてきた。
やはり遊びの一環だと思っているらしい。
「オレ……雄っぱい、ない……」
服の中をのぞき込み、しょんぼりとうなだれるひじき。
「……おいで?」
その姿を見ていると、別に遊びでもないのに、つい手を引いてやりたくなった。
「うん!」
嬉しそうにひじきが飛び込んできた。
みんなのお兄ちゃんをしているのもあって、中々甘えられないのだろう。
マオともずくは人一番に甘えてくるからな。
「お前は紛れて雄っぱいを押し付けるな!」
子どもたちに紛れて、妙に柔らかく、それでいてぎゅっと凝縮された塊が顔面に押し付けられる。
「男はみんな雄っぱいが好きだからな!」
確かにこの感覚に病みつきになる人はいるかもしれない。
だが、雄っぱいを押し付けられて好む男は、一部の人たちだけだ。
せめて女性なら喜ぶ層は多いのかもしれないが、俺は男だからな!
見た目だけは良いから、女性を相手にすればいいものを――。
「とりあえず、お前は離れろ!」
足で淫魔を蹴ると、嬉しそうな顔をしていた。
俺の力じゃ適度なプレイに感じているような気がする。
「いい加減にしろ!」
もう一度強く蹴ると、グルグルと転がっていく。
やっと離れたと思ったら、手を大きく広げていた。
「さぁ、離れたぞ! 思う存分痛ぶるがいい!」
やっぱりどう考えても頭がおかしい。
淫魔ってこれが普通なんだろうか。
俺は望む通りに魔法を展開する。
「マジックバインド!」
今度は体をグルグル巻きにして、さっきよりも身動きが取れないようにする。
「おおお! 俺が求めていた――」
「それだけじゃねーよ! ……アイアンメイデン!」
闇が地面から這い出し、捕らえた淫魔の足元を少しずつ飲み込む。
これで逃げることはできないだろう。
直後、周囲の土が盛り上がり、黒鉄の棺が完成する。
棺の内側には、無数の砂鉄でできた棘が光を反射しながら、獲物を迎え入れるようにゆっくりと口を開けて近づく。
俺は闇属性と土属性の複合魔法――拷問魔法のアイアンメイデンを発動させた。
ちなみに拷問器具の「アイアンメイデン」をモチーフにしている。
「うおおおおあい! これはやりすぎだろ!」
どうやら俺が開発した拷問魔法には勝てないと思ったのだろう。
さっきよりもジタバタして逃げようとする。
だが、鎖が絡まって身動きも取れないし、闇に足を固定している。
さっきは四肢を地面に縛り付けただけだったからな。
一度失敗したことは、二度も失敗するようなことを俺はしない。
ただし、畑は別だけどな!
「お前に最後のチャンスをやる。今すぐに帰るか、死ぬかどっちだ」
「お前は悪魔か!」
悪魔に悪魔と言われる俺って、一体なんだろうか。
「パパはマオのだもん!」
「とーちゃんは渡さない!」
「ボスを奪おうとするお前が悪魔だ!」
ああ、今日も子どもたちが良い子に育っている。
怒涛の援護射撃に俺は元気に……いや、なぜ子どもたちが――。
「うわああああ! これは見たらダメなやつだからな!」
俺はすぐに子どもたちを抱き寄せて、視線を塞ぐ。
さすがに拷問魔法は子どもに悪影響だ。
このまま無数の棘が刺さったら、血が溢れ出てくるからな。
「にひひ!」
「とーちゃん、ぎゅー!」
「ボスは渡さないからな!」
子どもたちは俺に抱きつかれて嬉しいのか、抱き返してくれた。
ゆったりとした毎日も楽しかったが、子どもがいるだけで世界は変わる。
俺は最近そう思った。
「おい、俺もそこにいれてくれ!」
「ダメだ!」
せっかくの楽しい時間を邪魔されてしまった。
さぁ、アイアンメイデンを発動させて……。
「くっ……俺は諦めないぞ! 今日はこれぐらいにしてやる」
どうやらアイアンメイデンを恐れたのか、淫魔の足元に転移魔法陣が展開される。
「好みの雄っぱいになるために、パンプアップしているからな!」
「パンプアップするな! 二度と来るな!」
「「「そーだ! そーだ!」」」
光の輪がゆっくりとせり上がり、淫魔の足元から少しずつ体を飲み込んでいく。
最後に残ったのは、張りのある雄っぱい。
ぶるんと一度だけ揺れ、光に包まれて消えた。
「はぁー、中々の強敵だったな」
大きく息を吐き出す。
俺がここまで魔法を立て続けに使うなんて、本当に久しぶりだ。
冒険者を引退してからは、なるべく力を使わずに生きてきた。
使えばまた誰かに利用されるとわかっていたからだ。
それでも子どもを守るためなら、迷う理由なんてどこにもない。
それにドラゴンを討伐した時の方が、精神的にも楽だったのもある。
「パパッ!」
「とーちゃん!」
「ボス!」
名前を呼ばれ、視線を向けると、小さな手が優しく俺の頭に置かれる。
「「「よしよし!」」」
その温もりが、胸の奥にじんわりと染みてくる。
散々、人のために力を振るい、食い物にされてきた俺だが、子どものために使う力は、不思議と悪くない。
雲の切れ間から夕日が差し込み、子どもたちの笑顔を照らしていた。
俺はその光景を、しばらく目を細めて眺める。
これからも守るべきものは自分で選ぶ。
それは今も昔も変わらない。
ただ、心のどこかで引っかかっていた何かが取れたような清々しい気持ちだ。
「よし、夕飯の準備を買いに行くか!」
「「「うん!」」」
俺たちはみんなで手を繋いで、今日も夕飯の食材を買いに行く。
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