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13.元英雄、食べ歩きをする

「ごはん! ごはん!」

「楽しみだなー!」


 マオともずくは元気に手を繋ぎながら、町に向かっていく。

 その後ろ姿を俺とひじきは見ていた。


「久しぶりの町に緊張してるのか?」


 俺の手をギュッと握っているひじきに、普段のお兄ちゃんらしさを感じない。

 ひじきともずくが我が家に来てから、一緒に町に来るのは初めてだ。

 マオの面倒をひじきにお願いすると、俺も一人で狩りに行けるし、町に買い物だって行ける。

 魔法を使えば、俺一人ならすぐに移動できるからな。


「そそそっ……そんなことないからな!」


 どこか強がってはいるものの、強く握って俺の手を放そうとはしない。

 ひじきにとって、町はあまり好きな場所ではないようだ。

 生きるために、これまで様々な悪事を働いてきたと聞いている。

 そのほとんどが窃盗で、マオが追いかけた黒い影の正体も、ひじきともずくだった。

 だが、魔王の手下になるはずのオルトロスが肉を盗み、怒られると思ってビクビクしている姿を想像すると、どこか可愛らしく思えてしまう。


「別にひじきを責めてるわけじゃないから気にするな」


 問題なのは孤児を保護する機関がないということだ。

 だから、路地裏には家もなく、食べる物がない子どもたちが溢れている。

 それに肉屋の店主は怒っても、追いかけたりはしなかった。

 中には肉串の店主のような、悪いやつもいるから気をつけないといけない。


「パパー、はやくー!」

「とーちゃーん!」


 マオともずくがかなり先の方へ歩いていた。

 この辺も魔物が出てくるため、あまり離れると危険だ。

 まぁ、魔王とオルトロスの片方だから、弱い魔物なら倒せる潜在能力はあるだろう。


「ひじき、行くぞ!」


 少し足取りの悪いひじきを抱えると、俺は一気に二人の元へ駆け寄る。


「ふぇっ!?」


 あまりの速さにひじきも驚いていたが、体に感じる風が心地良いのか、強張った体も少し解れていた。



「フィオルナにようこそ! お父さん、大変ですね……」

「ははは、子だくさんなので……」


 町に入るのは特に問題なかった。

 この前はマオだけだったのが、今回はひじきともずくもいるため、門番は目を丸くしていた。


「あまりお父さんに迷惑をかけちゃだめだぞ!」

「「「はーい!」」」


 元気な顔が頭上や腕の中から聞こえてくる。

 ひじきだけを抱きかかえていたら、マオともずくがぐずり出し、気づけばマオを肩車して、両腕にはひじきともずくが収まっていた。


 町の中に入ると、俺たちは商店街の方へ歩き出す。


「食べ歩きだから、一気に食べすぎるのはいけないからな!」

「「えー!」」


 マオともずくは不服そうな顔をしていた。

 食いしん坊だから、はじめに伝えないと肉串ばかり食べそうだからな。


 通りを進むと、まず鼻をくすぐったのは、香ばしく焼けた肉の匂いだった。

 屋台の鉄板では、肉串がじゅうじゅうと音を立て、滴った肉汁が溢れ出ている。

 豪快に塩と香辛料を振るたび、香りが風に乗って広がっていく。

 その匂いに釣られてマオともずくは走った。

 あの二人は目を離すと、すぐに迷子になりそうだ。


「おっ、この間の嬢ちゃん!」

「マオだよ!」


 マオは手を上げて挨拶をしていた。


「今日はいくつ食べるんだ?」


 ちゃんと俺の存在に気づいたのか、肉串の店主は何本食べるか聞いていた。


「今日は一本ずつだよな?」

「うん!」


 俺の言葉に肉串の店主は苦い顔をしている。

 この間は何も言わずに渡していたのだろう。


「五本でいいか?」

「いや……四本だけど?」

「そっ……そうか?」


 どこか肉串の店主は首を傾げていたが、計算もできないのだろうか。

 まぁ、一般人の教育水準はそこまでは高くないからね。

 一本ずつ受け取ると、俺たちは次の匂いに釣られて、足を運んでいく。


「焼き上げの香草パンはいかがですかー!」


 次に向かったのはパンを売っている屋台だ。

 丸いパンの表面にはローズマリーに似た小枝がこんがりと焼き付き、溶けたチーズがきらりと光る。

 近くを通る人々も思わず足を止め、香草パンを見ていた。


「おいしそー」

「これ食べたい!」


 マオともずくはキラキラした目で香草パンを見つめていた。

 見た目はチーズパンに似ているが、ハーブの香りがしっかりしているパンだ。


「これって子どもでも食べられるか?」

「ニンニクや玉ねぎを使ってないやつなら大丈夫ですよ!」


 どうやらニンニクを使った香草パンもあるらしい。

 熱々で焼きたての香草パンを一つずつもらうことにした。

 右手に香草パンを持ち、左手に肉串とこれが食べ歩きの醍醐味だな。


「ほら、熱々のうちに食べないと!」


 俺の言葉にマオともずくは戸惑っていた。


「どうしよ……」

「手が合わせれない」


 いつも手を合わせてから、ご飯を食べるのが自然とあたりまえになっていたからな。


「ボス、持って!」

「んっ……いいぞ!」


 ひじきは俺に肉串と香草パンを渡すと、その場で手を合わせた。


「いただきます!」


 きっとこれがひじきの考えた方法なんだろう。

 それを見たマオともずくも俺に肉串と香草パンを渡してきた。

 俺の手にはたくさんの食べ物が渡され、落とさないか心配だ。


「「いただきます!」」


 マオともずくもすぐに手を合わせると、三人ともに肉串と香草パンを食べていく。

 何も言わなくても表情からわかるほど、目を見開き、口角が上がってきている。


「うまうま!」

「「うめぇー!」」


 どうやら三人とも想像以上の味に満足しているようだ。

 俺もすぐに食べようかと思ったら、三人からジーッと見つめられていた。

 おかわりが欲しいのだろうか?


「パパッ!」

「とーちゃん!」

「ボス!」


 急に呼ばれて俺は手を止める。


「どうした?」

「「「いただきますは?」」」


 子どもってこういうところをしっかり見ているよな。

 俺の姿を見て、香草パンの店主もクスクスと笑っている。


「あー、そうだな……」


 俺は風属性魔法で肉串とパンを浮かせて、手を合わせる。


「いただ……どうしたんだ?」

「「すげー!」」


 どうやら魔法で浮いていることにびっくりしたようだ。

 ひじきやもずくの前で魔法を使うことってあまりなかったからね。

 それに何事もなくさらりと使うから、香草パンを売っている店主も唖然としていた。


「えっへん!」


 なぜか隣にいるマオが褒められたかのように胸を張っていた。

 これぐらいの魔法なら簡単に使えるから、今度教えるのもいいかもしれない。

 魔法が使えたら、生活するのも楽になるからな。

 

「そういえば、お連れ様の分はいいんですか?」

「お連れ様ですか……?」

「はい」


 俺たち四人で来ているが、誰かほかに見えるのだろうか。

 周囲を見渡しても、特に誰かいる気配もない。

 肉屋の店主といい、香草パンの店主も何か見えているのだろうか。


「あそこの木の後ろで奥様が見ていますよ?」

「奥様ですか?」


 俺が魔力を広げると、確かに木の後ろに気配があった。


「ありがとうございます。少し歩こうか」

「「「いいの?」」」

「食べ歩きは食べながら歩くもんだからな!」


 別に食べている最中は歩かないが、後ろに感じる気配がそれどころではない。

 ひょっとして、俺の正体がバレたのだろうか。

 過去にストーカーされるのはよくあったし、貴族の令嬢に付き纏われることも日常茶飯事だった。

 魔力の反応からして、俺を連れ戻そうとしている人物かもしれない。

 歩きながら次のお店を目指していると、やはり後ろから誰かが付いてきていた。


「三人ともちょっと待ってて!」


 子どもたちに声をかけ、すぐさま体の向きを変える。

 木の陰から飛び出した人影と距離を詰め――思わず正面衝突し、ズシンとした衝撃に息が詰まる。

 向こうも俺が近づくと思っていなかったのだろう。

 その感触に一瞬身をすくめたが、次の瞬間、視界の大部分を覆う大きく柔らかな塊が目に飛び込んできた。


 目の前には二つの山……雄っぱい(・・・・)があった。

お読み頂き、ありがとうございます。

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