12.元英雄、ドタバタする
俺は今日も畑で土を耕していく。
今までは一人で管理をするのが大変だったため、畑を広げようとは思わなかった。
だが、家族が増えたこともあり、使ってない土地で野菜を育てることにした。
「ちょ……もずく! こっちに砂かけるな!」
「ひひひ!」
隣で穴を掘って遊んでいるオルトロスの弟、もずくが嬉しそうに笑っていた。
本人は俺の作業を手伝いをしているつもりなんだろう。
その隣でマオも遊んでいるが、動かず何かをずっと見ていた。
「マオ、何かあったのか?」
「パパ……」
手を後ろに回して、コソコソと隠しながら近寄ってきた。
何か嫌な予感がするぞ……。
「じゃーん!」
「なっ……うわっ……」
マオが持っていたのは手の平サイズの芋虫だった。
こういうのは女の子なら嫌がると思ったが、さすが魔王だけのことはある。
「パパ、おおきいよ!」
「ああ……そうだな」
嬉しそうに見せつけてくるが、あまりの大きさに若干引いている。
全長20センチメートルほどある芋虫なんて、普通に考えたら化け物だからな。
「邪魔にならないところに置いてきなさい」
「はーい……」
あのまま家で飼うって言わなくてよかった。
さすがに何の虫かもわからないからな。
「とーちゃん、目がかゆい……」
「おいおい、土を触った手で目を触るなよ!」
土掘りに飽きたのか、そのまま座り込み、目を掻こうとするもずくの手を止める。
マオと似たような存在が増えて、さらに俺はあたふたする日が増えた。
「ひじき、助けてくれ!」
さすがにマオともずくの面倒を一人ではみられないため、ひじきに助けを求めた。
「二人ともボスに逆らうとご飯がなくなるぞ!」
「「ふぇ!?」」
マオともずくは目をウルウルさせてこっちを見つめている。
さすが二人の兄をしているだけのことはある。
ただ、そんなことでご飯を抜きにすることはないが、動きを止めるほどご飯が大事なんだろうか。
「パパッ!」
「とーちゃん!」
マオともずくが詰め寄ってくる。
「マオ、いいこだよ!」
「オラもー!」
俺の足にベッタリとくっついて離れようとしない。
今まではマオ一人だったのに、もずくも引っ付いて、錘が倍になったな……。
最終的には、両足に二人をぶら下げたまま歩く羽目になった。
「うわあああ!」
「ひひひ!」
一歩踏み出すたびに、マオともずくの体がふわっと浮き、くすぐったそうに笑い声を上げる。
俺は前に進むのもやっとだが、二人は遊園地の乗り物みたいに楽しんでやがる。
「ボスー、こっちの野菜はダメそうだよ」
そんなことよりもひじきは育てている夏野菜を気にしていた。
ツルも伸びて、下の方から少しずつ腐りかけている。
今回は成功するかと思ったが、中々畑はそう簡単にはいかないようだ。
どうやったら上手く育てられるのか、俺には知識がないため、何度も失敗するしかない。
それよりも俺には気になっていることがあった。
「ひじき……いつまで俺のことをボスと呼ぶんだ?」
「ボスはボスだからね」
俺がオルトロスに名前を付けたら、知らぬ間に今度は俺の呼び名を決めることになっていた。
マオは「パパ」と呼んでいるし、そのままパパかと思ったが、もずくが「とーちゃん」と呼び、ひじきがまさかの「ボス」と呼び始めた。
バラバラで反応しにくいため、訂正しようと思ったが、拒否されてしまった。
パパもまだ呼び慣れてないのに、とーちゃんとボスって……どこか群れで生活している感があるのだろうか。
「ふぉふぉ、今日もみんな元気だのう」
「「ハタジイ!」」
声をかけてきたのは近所に住むハタジイだ。
マオともずくが離れて、少し体が軽くなった。
「ハタジイはそのままなんだよな……」
「だって、おじいさんだもん」
ヴォルフガングが呼びにくいのは、納得できるがボスだと俺が親分になった気分だ。
俺とひじきも何かあったのかと、ハタジイの元へ向かう。
「ヴォルフよ……」
「どうしたんだ?」
ハタジイはどこか深刻そうな顔をしていた。
何かあったのだろうか?
「お前さん……奥さんはいいのか?」
「だから、奥さんはいないって……」
ここ最近で認知症がひどくなったのか、俺に「奥さんはいいのか」って聞いてくることが増えた。
子どもばかり増えて、妻がいないことを気にしているのだろうか。
「マオたちはお母さん欲しいか?」
「んーん、おにくがほちぃ!」
「「お肉!」」
それに子どもたちもお母さんよりか、お肉の方を欲しがっている。
「俺は結婚するつもりはないからな」
「そうか……」
それだけ言ってハタジイは家に帰っていく。
その後ろ姿が少し寂しそうな感じがした。
ハタジイがそこまでして妻にこだわる理由が俺にはわからない。
ひょっとしたら、ハタジイの過去に何かがあるのかもしれない。
俺と出会った時には、すでに一人で住んでいたからな。
それにハタジイってほとんどが謎のおじいさんだしね。
「せっかくだから……ハタジイも誘って外でご飯でも食べるか?」
「「「おそと!?」」」
三人とも驚いた顔で俺の方を見てくる。
外でご飯を食べるなんて……いや、そもそも一度も外食したことも、バーベキューのようなこともない。
「とーちゃん、歩きながら食べたらダメって言ったよ!」
「それはもずくが落ち着かないからだろ?」
「兄ちゃんだってソワソワしてるじゃん!」
「ぐぬぬ……」
ひじきはもずくに本当のことを言われて口をつぐんだ。
痛いところを突かれて、兄として言い返せないからか俺の方をジーッと見つめてくる。
助けが欲しいのだろう。
「ひじきの言った通りだぞ。別に歩いて食べるのがいけないわけじゃない」
「ならとーちゃんは何で怒るの?」
もずくは首を傾げている。
本当に理由がわからないのだろう。
「フォークを持ちながら転んだらどうなる?」
「痛い……?」
「マオ、いたいのきりゃい」
「オレも嫌だな」
三人とも転んだ時のことを考えているのだろう。
そこまで想像できるなら話が早い。
「そのフォークが自分や誰かに刺さったらどうなる?」
「「「はっ!?」」」
同時に痛そうな顔をするため、きっとどうなるのか想像できたのだろう。
「目に刺さる!」
「うでがなくりゅ!」
「貫通して死んじゃうな……」
まさかの返しに俺はドン引きだ。
さすがにフォークが刺さっても、そこまで大変なことにはならないと思う。
それにその前に俺が魔法で体を浮かせるか、すぐに治療する。
どう想像したのかはわからないが、聞かない方が良いのだろう。
子どもの想像は豊かだからだな。
「だから、座ってゆっくり食べることが大事なんだ」
「「「はーい!」」」
ちゃんと危ないことが伝わってよかった。
「でも、歩きながら食べる楽しみ方もあるぞ!」
「「ほんと?」」
「嘘だな」
三人とも気になっているようだが、ひじきは半信半疑のようだ。
それなら――。
「よし! じゃあ、夜ご飯の材料を買いに行くついでに、食べ歩きでもするか!」
「「「わーい!」」」
疑っていても、食べることに関しては正直のようだ。
人の姿をしているのにひじきともずくからは、尻尾がフリフリしているように見えるし、マオも弾ける笑顔で喜んでいた。
だが、俺はハタジイがどうしてあんなことを言っていたのか、ちゃんと考えるべきだった。
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