11.元英雄、名付けをする
「とりあえず、お前たちもう少し落ち着いたらどうだ?」
二人とも……いや、二匹ともと言うべきだろうか。
俺の顔をジーッと見つめていた。
毛色が真っ黒で見えにくいが、口元にべったりとすき焼き風ソースがついている。
突然姿が戻ったのも、変身した状態を維持できないほどの衝撃だったのだろう。
『オレたちが怖くないのか?』
『オルトロスだぞ!』
少し堂々とした姿をしているが、俺にしたらポメラニアンにしか見えない。
大きさも小型犬ぐらいだしな。
「……べつに? それよりもマオに全部食べられるぞ?」
マオは初めから二人の正体を知っていたのだろうか。
気にすることなく肉巻き野菜を今も頬張っていた。
きっと友達って言ったのも、本能レベルだったのかもしれない。
ただ、魔王からしたら、オルトロスって友達ってよりは手下だからな。
『『はっ!?』』
すぐに気づいたのか、再び急いで食べ始めた。
それを見てマオもさらに勢いよく食べていく。
ここは早食い選手権の会場かと思ってしまうほどだ。
俺もなくなる前に一緒になって食べ始める。
「んっ? どうしたんだ?」
隣が静かになったと思ったら、二人は手でお皿を押して、俺をジーッと見つめていた。
俺に肉巻き野菜を置けと催促しているのだろうか。
肉巻き野菜のおかげで、思ったよりも主従関係がはっきりしているのかもしれない。
俺は再びお皿に肉巻き野菜を置き、二人の頭を優しく撫でる。
「次はゆっくり食べろよ」
『『うん!』』
大きく揺れる尻尾が嬉しさを物語っている。
あまりにも可愛らしい犬に見え過ぎて、本当にオルトロスなのかと疑問に思ってしまう。
ゲームの中でも、魔王城の中ボスの位置に属する。
マオの元へ現れたってことは、確実にゲームの世界に近づいているってことだろうか。
「まぁ、今は気にしなくていいか」
先のことを考えても仕方ない。
なんたって――見た目はポメラニアンだからな。
それに今はこの二人に礼儀やマナーを教える方が先だろう。
さすがに急に人から犬になったら、誰だって驚くだろうし、人の姿で犬食いをしていたら、それだけで引かれる。
「そういえば、なんて呼ぶべきなんだ……」
さっき聞いた時は名前はないと言っていた。
兄と弟って呼んでいたがさすがに呼びにくい。
それに犬の姿だと、尚更見分けがつきにくい気がした。
「パパがちゅけたら?」
「俺がか……?」
魔王の手下だから、マオに名前をつけてもらおうかと思ったが、俺がつけるように提案されてしまった。
二人も特に異論はないのか、俺の方を見て尻尾を振っている。
「んー……じゃあ、タロウとジロウはどうだ?」
『『グルルルルル……』』
ああ、明らかにそれはないという顔をしている。
犬と言ったら、俺の中ではタロウとジロウだった。
幼い時に飼っていた犬もタロウとジロウだったからな。
「パパ……それはないよ?」
俺はチラッとマオの顔を見たら、呆れた顔をしていた。
それにさっきまで大きく振っていた尻尾は地面にペタンとついている。
だから、名前をつけるのが嫌だった。
魔王だからって名前がマオになったぐらいだ。
「オルとトロスは……?」
『『グルルル……』』
反応からしてさっきよりは良いが、マオと同様のパターンはダメなようだ。
それなら犬に名前を付けるようにしたらいいのか?
よくトイプードルに見た目が茶色だから、ココアやモカって名前が流行っていた。
オルトロスは黒のポメラニアン似だから……。
「ひじきともずくはどうだ?」
黒の毛並みが艶かだし、まるで海底に沈む海藻に似ている。
もうこれ以上の名前は考えられないからな。
『オレがひじきか……』
『オラがもずくだって!』
くりくりとした瞳がこちらを見上げ、尻尾をふりふりしている。
ひじきはちょっと落ち着いた様子で、もずくはきょろきょろと好奇心旺盛に動き回っている。
思ったよりもひじきともずくという名前がしっくりきたのだろう。
「パパ、しゃすがだね!」
どうやらマオにも認められたようだ。
そうして、オルトロスの名前は兄が「ひじき」で弟が「もずく」に決まった。
――ポンッ!
再び音がして煙がモクモクと立ち込めると、ひじきともずくは、元の人間の姿に戻っていた。
やっと落ち着いたのだろう。
テーブルに山のように置いてあった肉巻き野菜も、すでになくなっていたからな。
「ひじき、もずくこれからもよろしくな」
「よろしく!」
俺とマオは、二人に向かって手を差し出した。
人間の姿になったから、普通に握手してくれるだろう――そう思ったのだが。
ひじきともずくは顔を見合わせ、小さく首を傾げる。
そして、同時に両手をそろえて前に突き出し、ペタンと俺たちの手のひらに乗せてきた。
……完全に「お手」だった。
「おい、それ握手じゃないからな」
「へへへ、きゃわいいね」
マオがケラケラ笑い、俺は思わず苦笑するしかなかった。
俺たちに新しい家族、オルトロスのひじきともずくが加わった。
にぎやかになるのは間違いない。
……まぁ、二人の性格からして静かになる未来はどう考えてもなさそうだけどな。
まるでこの家は小さな魔王城だ。
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