10.元英雄、料理を教える
「なぁ、いつ着くんだ?」
「もう少しだから我慢して付いてこい」
家に向かって歩いている最中、いつのまにか兄の方が俺の隣を歩いていた。
マオはというと――。
「まてー!」
「やだよー!」
弟の方と追いかけっこしながら帰っていた。
そんな元気なマオの姿を俺は眺めている。
「そういえば、嫌いな食べ物はあるのか?」
「生きていくにはなんでも食べる」
その言葉にどこか胸が締め付けられる。
今まで好き嫌い気にする暇もなく、生きることに必死だったのだろう。
それに名前を聞いたが、呼ばれたこともないと言っていた。
かなり幼い時から路地裏にいたのかもしれない。
今頃になって肉屋の店主に言われた言葉が身に染みる。
ひょっとしたら、しばらくは保護しなければいけないのかもしれない。
急に一児の父親になったのに、三児の父親になったら大変だな。
ただ、静かに暮らしていた俺にとってはよかったのかもしれない。
「パパー! はやくー!」
家の前まで走ったマオは大きく手を振っていた。
相変わらず走るのが速いから、鍛えたら素早さに長けた活躍をするかもしれない。
いや、魔王が素早かったら勇者も困るか……。
「走るぞ」
「えっ……?」
俺は兄の手を掴み走る。
驚いた表情をしていたが、少しだけ口元が緩んでいるような気がした。
「とりあえず、風呂は……さすが一緒はダメだよな」
俺の家には風呂が設置されている。
魔法で汚れを落とすか、水に濡らした布で拭くのが一般的だが、疲れを癒すために作られた。
さすがに年齢が近い男女を一緒の風呂に入れるわけにはいかず、魔法で簡単に汚れだけを落とすことにした。
「わぁー、気持ちいい」
俺が魔法をかけると、二人とも心地良さそうにしていた。
「ねえねえ、この間もこれやってくれた?」
「あー、通りがかりに気になったからな」
どうやら俺が治療して、汚れを落としたことがバレてしまったようだ。
それだけ記憶に残っているのだろう。
簡単に汚れを落とした俺たちは家の中に入っていく。
「狭いな……」
兄がボソッと呟いた。
それは俺も家の中に入った時に思った。
マオの二人でも、少し窮屈さを感じたが、そこに子ども二人が追加されたからな。
ただ、それでも路地裏で生活するよりはいいだろう。
弟の方はマオに案内されて、すでに嬉しそうに座っている。
「今日はみんなにも手伝ってもらうからな」
せっかくだからみんなで何かを作った方がより美味しく感じるだろう。
それにマオの分だけでも作る量が多いのに、お腹を空かした子ども二人が追加されたからな。
「なにしゅるの?」
「みんなには肉をまきまきしてもらう」
「「「まきまき?」」」
三人とも首を傾げていた。
俺が作ろうとしているのは肉巻き野菜だ。
肉と野菜がたくさん食べられるし、作っている時も楽しいだろう。
本当は炒めるだけでいいかもしれないが、せっかくだから楽しんだ方がマオも嬉しいはずだ。
俺はすぐに料理に取り掛かった。
まずは肉を巻く野菜の準備として、スティック状に切っていく。
この世界の野菜はほとんど前世と変わらないため、アスパラガスやにんじん、パプリカとかも存在している。
ただ、名前がアッスンパラパラとかニンニンとか、どこかユニークな名前だが見た目と味はほぼ同じだ。
切った野菜は軽く下茹でして、その間に豚肉と牛肉を薄切りに切っていく。
――グゥギャアアアアアア!
――グウウウゥゥゥ!
肉を切っている時は、空腹音のオンパレードだった。
まるで魔物に囲まれているような感覚だった。
実際に三人に囲まれていたのは事実だ。
そのまま生で食べそうな雰囲気が出ていたので、しっかりと注意しておいた。
食中毒や寄生虫によって、最悪死ぬかもしれない。
特に子どもは大人よりも免疫力が弱いため、重症化しやすい。
兄弟は生肉で食べてはいけないことを知らなかったのか驚いていた。
本当に今まで無事だったことが奇跡だ。
「よし、あとはみんなで巻いてくれ!」
野菜が茹で上がったら、ここからは子供たちの出番だ。
好きな野菜と肉で肉巻きを作ってもらう。
もちろん野菜の入れる数ややり方は見本で見せている。
あまりにもたくさん野菜を入れると、分厚くなって肉で巻きにくくなるし、焼く時に中身がはみ出てしまう。
「マオは……これと……これ!」
「ボクはこれだけ!」
「オレは全部!」
野菜を巻くだけなのに、みんな個性が出て面白い。
マオはアスパラガスとニンジンで、弟はニンジンだけ。
兄は全ての野菜を入れていたりと、思ったよりも兄の方が弟よりも食いしん坊だった。
ある程度の数を巻いた野菜は俺のところに持ってきてもらい、すぐに焼いていく。
味は少量の水に醤油と砂糖を入れたすき焼き味だ。
「お前ら、ちゃんと全部作るんだぞ!」
「「「……はーい!」」」
香ばしい匂いに、自然と作業する子供たちの手も止まってしまう。
でも、先に巻かないと食べられないからね。
途中で簡単な野菜スープも作って、今日のご飯が完成した。
あまりにも香ばしい匂いに誘われて待ちきれなかったのか、三人とも途中から動きが早かった。
「おにゃかへった!」
「「はやくはやく!」」
テーブルにズラリと並べられた肉巻き野菜はてんこ盛りになっていた。
今にもよだれが垂れそうな顔を見ていると、まるで待てをされている犬みたいだ。
俺たちは早速手を合わせる。
「「いただきます!」」
俺とマオを見て、兄弟は呆然としていた。
「食べる前の挨拶だな」
「「いただきます!」」
よほど食べたかったのか、迷うこともなく素直に受け入れて手を合わせていた。
俺はお皿の上にいくつか肉巻き野菜を載せる。
兄弟はお皿を手に取ると、そのまま顔を近づけた。
鼻をクンクンさせて、匂いを嗅いでいるようだ。
本当に犬が食べる前に確認しているような姿と被る。
安心したのかフォークを使わずに口に入れた。
「「うまうま!」」
まるで動物のような食べ方に俺も呆然とする。
「パパ……」
フォークを使ったこともないのだろうか。
今まで誰も教育してくれる人がいなかったのだろう。
マオも驚いて俺の顔をチラチラと見ている。
さすがにマネさせるわけにはいかない。
「お前らもう少し落ち着いて――」
――ポンッ!
突然、爆発音とともに少年たちからモクモクと煙が上がる。
俺とマオはその場から離れて様子を伺う。
まさか肉巻き野菜が爆発したのだろうか。
マオが食べた時は特に問題なかったはずだが……。
『うみゃうみゃ、兄ちゃんうみゃいよ!』
『こんなにうまいものは始めてだ!』
何度も鳴きながら食べる姿を見ていると、今までの行動がしっくりとくる。
「お前ら……犬だったのか……?」
そこには皿に顔を突っ込んでいる大きな犬がいた。
『オラはオルトロスだよ?』
『オルトロスだ!』
どうやらオルトロスと呼ばれる存在らしい。
ただ、オルトロスって体が一つで顔が二つだったような……。
今はただの子犬二匹の状態だ。
それにしてもオルトロスって――。
「魔王の手下だったよな……」
保護した少年二人を見つめていると、俺はまた面倒ごとに巻き込まれたんだと実感した。
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