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54、S級冒険者ハリソン③

今日も読みに来ていただきありがとうございます。

昨日投稿できずすいません。

誤字脱字が多すぎる作者は皆様の報告ですごく助けられています。

楽しんでいただけると嬉しいです。

「やあ、アニエス。今は話せるかい?」


うーん、休憩時間に来るとは…。


これじゃあ忙しいと断ることもできない。


ユーリ、モーリスなんで一緒に来てないの?


「うーん、夜営業の仕込みがあるんだけど…」


やんわり断ってみたが、それなら夜営業中にまた来ると言ったので慌てて止めた。


食堂に迷惑がかかることは避けたい。


「そんなに時間がかからないなら今聞くよ」


「ああ、そんなに時間はかからない。ここで話すか?それともどこか外で?」


「この人たちがいてもいいならここで」


みんなの目がここで話せと言っている。


「じゃあこっちに来て。マスター、奥のテーブル借りますね」


と私は一番奥のテーブル席にハリソンを案内して、向かいに座った。


ライラが私とハリソンに水を出してくれる。


「で、話って何?」


私が切り出すとハリソンは食堂をキョロキョロ見渡した。


「まさかアニエスがこんな食堂の給仕係をやってるとは思わなかった。迎えに来るのが遅くなってすまない」


やっぱり何を言ってるかわからない。


「私は迎えに来て欲しいなんてこれっぽっちも思ってないけど」


私の言葉にハリソンは首を横に振った。


「お前の気持ちはわかってる。俺が鈍感だったせいでお前に悲しい思いをさせたんだな。アニエスが俺に怒るのも無理はない」


私は一体ハリソンのどこが好きだったのか…きっと他の男性というものを知らずに育ってしまったからに違いない。


「でももう大丈夫だ。俺はモナとの結婚を前提とした付き合いは解消したんだ。彼女はすでに別の冒険者と付き合っているから嫌がらせを受けることもない。アニエスが俺と結婚して冒険者を続けることに何も問題はない。だから俺と一緒にガレリアに帰ろう」


だから話が噛み合ってないんだって。


「私はガレリアに帰るつもりはないの。あなたと結婚するつもりもない。このソレイユのランベルの街で食堂の給仕係として生きていきたいの」


ハリソンはテーブルを両手で叩いた。


「馬鹿な!俺はアニエスがS級冒険者になる為に幼い頃からどれだけ努力していたか知っているんだ。S級冒険者になってあれだけ喜んでいたじゃないか」


「あの頃はそれしか知らなかったの。小さな頃から父さんに、S級冒険者になれと育てられてきたから。でも今になって思うわ。S級冒険者は父さんの夢であって私の夢じゃなかった。私は普通の女の子として幸せになりたいの」


ハリソンはまた首を横に振った。


「何を血迷った事を。冒険者が皆S級を目指している中で、本当にS級になれるものがどれだけいるかわかっているだろう。それを捨てるなんて許されない」


「それはそうかもしれないけど、私は私の為に生きていきたいの」


「それだけの才能を活かさないなんて考えられない」


このままじゃ平行線だ。


「おい、お前!ハリソン!黙って聞いてりゃアニーに好き勝手言いやがって。アニーの人生はアニーのもんだ。お前にとやかく言う権利はねえ」


ディルックが立ち上がってこちらのテーブルにやってきた。


「ディルック…」


「誰だ?お前は?」


ハリソンがディルックを鋭い目で睨みつけた。


「俺はB級冒険者のディルックだ。そしてアニーの恋人だ!」


「…本当か?アニエス」


ハリソンが今度は静かに私を見る。


ハリソンは滅多に怒らない。


それは自分の強さを知っているからだ。


しかし、今は明らかにディルックに対して怒っている。


静まりかえった食堂内でハリソンが言った。


「お前、アニエスがS級冒険者という事を知っているのか?」


「ああ、知っている。それがどうした」


「B級冒険者のお前がアニエスに釣り合うと思っているのか?」


私でもほとんど聞いたことのないハリソンの低い声に思わず体が震えそうになる。


しかしディルックは平気そうだ。


「釣り合うかと聞かれたら、釣り合わないんだろうな…。でも惚れちまったもんはしょうがない。釣り合わないなら釣り合うように努力するだけだ」


ディルック…。


私もディルックのこういうところを好きになったのだ。





読んでいただきましてありがとうございました。

引き続き次もお読みいただけると嬉しいです。

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