42、商人ロッソ④
今日も読みに来ていただきありがとうございます。
誤字脱字が多すぎる作者は皆様の報告ですごく助けられています。
楽しんでいただけると嬉しいです。
「…さん、…アニーさん」
ぼーっとする意識のなか、女性が私を呼ぶ声がする。
「アニーさん」
ゆっくりと目を開けると薄暗く寒い。
私は硬い石の床に横になっていた。
「あ、起きたわ。アニーさん、大丈夫?」
「…ここは?」
だんだん意識がハッキリしてくる。
ゆっくりと起き上がると少し頭が痛んだ。
「痛っ」
「無理しないで、きっとあなたも薬で眠らされたのね」
そうだ。
ロッソさんにブローチを見せられて、そこで何かの薬品を嗅がされた。
周りを見渡すと、暗い地下室のような部屋に女性が2人。
私を入れて3人だ。
「大丈夫?怪我はない?」
赤毛のロングヘアの女性が私に聞いた。
「ええ、大丈夫」
私は自分に怪我がないか確かめたが、どこも異常はないようだ。
「あなた、ひだまりの猫で働いているアニーさんでしょ。私はルナ。ランベルのカフェでウェイトレスやってるの」
赤毛のロングヘアの美人が私に言った。
「あ!もしかして駆け落ちしたっていう人?」
ルナは初めて聞いたように驚いた。
「私が駆け落ち?誰と?」
「相手はわからないそうですけど、そういう噂になってるんですよ」
「…やられた。まさか駆け落ちしたことにされてるなんて。私、商人のロッソに騙されて攫われたの」
「え?」
驚いている私に、もう一人の少女がおどおどと話しかけてきた。
「わ、私はメリンダって言います。両親は郊外で果物を作ってます」
栗色の髪と瞳のおとなしそうな少女は私に自己紹介をした。
「アニーよ。ひだまりの猫って食堂で給仕係をしてるの。あなたもひょっとしてロッソさんに…」
「ええ。彼が果物を仕入れに来た時に声をかけられて仲良くなって…。今度両親に結婚を前提に付き合う事を許してもらいに行くって言ってたのに…。この街に残って農園を継ぐって…」
メリンダは思い出したのかしくしくと静かに泣き出した。
「もしかして、私も駆け落ちした事になってるんでしょうか…」
「ええ、噂ではそう聞いたわ」
メリンダはワッと泣き崩れた。
「大丈夫、大丈夫よ。きっと助けが来るわ…」
私は2人を励ました。
いざとなったら扉を壊して外に2人を逃そう。
そのためには情報収集だ。
「ところで私、薬を嗅がされて眠らされて来たんだけど、2人もそう?」
私が2人に訊ねると、2人とも首を縦に振った。
「そうよ、私はロッソに話があるって、カフェが終わってから人通りが少ない路地に呼び出されたの。そこで布のようなもので薬を嗅がされたみたい」
ルナは私とよく似た状況のようだ。
「私はロッソとのデート中に急に眠くなって…。どうやら薬を飲み物に薬を入れられたみたいです」
なるほど、皆薬で眠らされて連れてこられているならここがどこかわからないわけだ。
「ここに連れてこられてから誰かに会いました?」
メリンダが震える声で話した。
「私はおとといここに連れてこられたのですが、ガラの悪そうな男が食事を持って来ます。最初は怖くて食べられなかったのですが、ルナさんが来てからは少しずつ食べてます…。それとトイレに行きたいときは言えって言われてて、外にいる男達に声をかけると部屋の外にあるトイレに連れて行ってもらえます」
「トイレには窓とかないの?」
「ええ、窓はないです」
「ルナは昨日連れてこられたの?」
私はルナを見た。
「ええ、私が連れてこられたのは昨日の夜よ。今日の朝と夕方、男が食事を持って来たわ。2回とも違う男でどちらも知らない男だった。今夜、その後2人がアニーを運んできたのよ」
ふーむ。
「メリンダさん。昨日も食事は2回出たの?」
「ええ。2回出ました。朝と夕方どっちも別々の男で、ルナさんを連れて来たのもその2人です。今日来た2人とは別の男です」
今の情報では少なくとも4人。
ロッソを入れて5人か。
もっといる可能性が多いな。
「何か男と話しをした?」
私が聞くとルナさんが答えた。
「今日私がトイレに行った時少しだけ。私達をどうするつもり?って聞いたら、男がこう言ったの。この街でもう一人仕入れる予定だからもう少し待ってろ。そしたら飼い主のところに連れて行ってやるよって」
つまり誰かに指示されているってことで、私をさらったら目標人数になって依頼主の所に移動するということか。
「私達どうなっちゃうんでしょう?」
メリンダは不安になったのか、また泣き出した。
「ちょっと、泣かないでよ。泣いてもどうにもならないでしょ」
ルナさんがメリンダさんをなだめる。
相手が何人で、ここがどこか、どんな構造かわからないと、私一人ならまだしも2人を守って武器もなく戦うのはちょっと辛い。
待っていたら助けは来るのだろうか?
ライラは私が攫われた事に気がついてくれるかな。
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