死後
目が覚めると自宅のトイレに座っていた。
「やっべ、気絶しちゃったよ。初めてだこんなの……」
トイレで気を失ったことに驚きつつも、頭の片隅と便器に残るブツを流そうと振り返る。
するとそこには、
何もなかった。
「あれ?どうなってるんだ?」
記憶をさかのぼり、意識が途切れる前の行動を思い出す。
―――確かに自分はうんこを出したはず―――
そんなことを考えて立ちすくんでいると便意が襲ってくる。
(あんだけの死闘を繰り広げたのにまだ出てなかったのか?)
そんなことを考えながらズボンを下ろし、またも便座に座りなおす。思考をしているためか、自然と目線が下へ行き、足先を眺めた。そして、
「うわああああああああぁぁ!!!!」
自分の足首から下がないことに気が付いた。
排便していてクリアになった思考のためか、用を足し終えるころには、和人は自分の置かれている状況がなんとなく理解できた。
・自分が死んでいて幽霊になっていること
・死因は「排便中にいきみ過ぎて頭に血が上った」こと
・死後の世界は生前の世界と一緒で、もしかしたら自分は成仏をしていないのかもしれないこと
・死後も便は出る。何なら生前より快便だということ
「だいたいこんなところか」
トイレを流し終えた和人は呟くと、扉を開けようとドアノブに手をかけた、が、空を切る。
「おっっと!」
そうか、幽霊だから壁はすり抜けるのか。
自分の想像上の『幽霊』で間違いないのだと実感した和人はしばしの思考の後、にやりと笑い、自分の新たな体を確かめ始めた。