ふたりで教会に行こう。僕らの結婚式に出るために
ひとしきり笑ったあとで、ナイト辺境伯が口を開いた。
「――ねぇ、オーブリー」
「何よ?」
「本来はね、共感覚体が『見える』なら、『聞こえる』こともセットである場合が多いんだよ。共感覚体は言語が視覚化した存在だから、受け取り手が『見て』そして『聞き取る』のは、実は本質的に同じことを、別ルートで処理しているにすぎない」
そんなことがあるのだろうか? 頭が混乱してくる。
「『見える』のに、彼らは同時に『音』でもあるの?」
「『見える』のと『聞こえる』のは、どちらが正解ということはない。――ただこれは両方を実際に体験した僕の見解だが、視覚から取り込んだほうが、行使する魔力は強い。それも比較にならないほどに」
「だけど私は視覚からは取り込めても、それを言語化できないわ」
おそらく言語化できていれば、魔法が使えたのだろう。
「そうだ。君の場合はものすごく特殊」
千年にひとりのレアケースで『見えて、聞こえる』人が出る。――ただしオーブリーの場合はもっとレアで、『見える限定』だから、一万年にひとりとかの変種ということ?
なんかそれって、『馬鹿と天才は紙一重』という言葉を思い出すわね。
現状オーブリーはなんの結果も出せていない。だから魔法という分野では、やはり落ちこぼれなのには変わりない。
ただ、オーブリー自身は落ちこぼれであることを、なんとも思っていなかった。それは十歳の時、『無感知(NF)』と判定された時からそうなのだ。
だってオーブリーは『人間、そんなことより、もっと大事なことがある』という考えを持っているのだから。
――とはいえ、魔法の才能がある人を軽視しているわけでもない。
能力が突き抜けているナイト辺境伯に対しては、やはり敬意は覚える。……その歪んだ性癖はともかくとして。
考えを巡らせているオーブリーの凛とした居住まいを眺め、ナイト辺境伯の瞳が物柔らかになった。
「――特殊なのは悪いことじゃないよ」
「え?」
「僕より君のほうが劣っているというわけじゃない。君が聞く能力を持っていないのは、何か意味があるのかもね」
「意味……」
「それでね、先ほどとは状況が変わった」
彼の声はどこか悪戯に響いた。
状況が変わった?
オーブリーの心臓がドキリと跳ねる。
それは……良いこと?
問うように、彼の端正な顔を見返す。
期待してしまいそうになる――でも、違ったら?
もう帰れと言われたら、私、とてもつらいわ。
だからお願い――……私が必要だと言って。
祈るように見つめる先で、彼が立ち上がった。
オーブリーもそれにならう。
ふたり、向き合って佇む。
ナイト辺境伯が改まった口調で告げた。
「君は現状、とても危険な状況にあるのが分かった。そうなると、僕が引き取って、みっちり鍛えたほうがよさそうだ」
「それじゃあ……」
「ふたりで教会に行こう。僕らの結婚式に出るために」
オーブリーの視界がじわりと滲む。
私は生涯、この時のことを忘れない。
「……もう私を突き放さない?」
「約束する」
昼下がり。
場所はカラマツの並木道沿いで、よく晴れた日だった。
彼がこちらに手を差し伸べてきた。
「死がふたりを分かつまで、ともにいよう」
オーブリーは彼の手にそっと自身の手を重ねた。
途端にグイと引き寄せられる。
オーブリーは悲鳴を上げる間もなく、彼の懐に抱き寄せられていた。
耳もとに、彼の囁きが落ちる。
「さらにもうひとつ誓おう――君に僕の命を捧げる」
オーブリーの薄青の瞳からポロリと涙が零れた。
「私より早く死んだら、絶対許さないから」
オーブリーは涙声になり、彼の首に腕を回してギュッと抱き着いた。
3.結婚しよう(終)




