うふ、可愛い♡
「オーブリー、一旦僕の膝から下りてくれる? 姿は見えないんだが、クソ鳥がずっと怒鳴っていて――」
話し始めたナイト辺境伯が言葉を途中で途切れさせ、たまらずといった様子で人差し指を両耳の穴に突っ込んだ。……彼の表情筋は、時間がたつごとにどんどん死んでいっている。
「どうしたの?」
「畜生、このクソ鳥――」
「アヴィスが何?」
アヴィスはホバリングをやめ、今は芝生の上に着地している。
オーブリーが眺めおろすと、青い小鳥がつぶらな瞳で小首を傾げて見上げてきた。頬っぺたのあたりが少しピンクになっていて、ものすごく愛らしい。
「……うふ、可愛い♡」
「どこがだ、目を覚ませ」
「あなた、嘘を言っていない? 私がアヴィスの声を聞き取ることができないからって、まるでこの子がひどい悪態をついているみたいに言って」
「あのな、オーブリー、このクソ鳥はあろうことに僕の――……ぐぁ、気が狂わんばかりにうるせー‼」
ナイト辺境伯が本当にしんどそうなので、オーブリーは四つん這いでハイハイするように彼の膝から下り、すぐ近くで正座した。そして、
「――おいで」
アヴィスを呼んで膝に乗せる。
「……あー、まじで助かった」ぐったりと肩を落とすナイト辺境伯。「オーブリー、抱っこしてほしければ、またあとでしてあげるよ」
「はぁ?」
途端にオーブリーの顔が真っ赤になる。キッ、と鋭い目で彼を見据え、
「べ、別に抱っこしてほしくないから! さっきまでのあれは、あなたが『猫さんみたいに甘えろ』って面倒なことを言うから、仕方なく――」
「またまたぁ」
「またまたぁ、って何!」
「だって君、なかなか僕の膝から下りたがらなかったよね。この、あ・ま・え・ん・ぼ・さん」
「違うもん! あなたが私の腰をしっかり押さえていたから、動けなかっただけだもん!」
ギュッと両拳をグーに握り、必死で言い訳するオーブリー。
「いーや、君は自分からギュウギュウ抱き着いてきた」
「そ、それは、ムカデモドキが怖かっただけで――」
「――つーか君、意外と着痩せするタイプだよね」
……え?
オーブリーはキョトンとし、一拍置いて意味を理解し、ボボボ……とさらに顔を赤くした。頬だけでなく、おでこも鼻も、耳も、首も、指先まで全部赤い。
オーブリーはキュッと目をつむり、身を乗り出して、半泣きでポカポカ彼の膝を叩く。
「馬鹿馬鹿、エッチ、なんでそんなこと言うのよぉ! もうやだー‼ もうお嫁に行けないー‼」
わーん、と取り乱すオーブリーを眺め、ナイト辺境伯は呆気に取られた。
「おっと……これはちょっとキュンとするなぁ……素でこんなにあざとい仕草を繰り出せるオーブリーさん、ヤバイ」
「何がヤバイのよ、失礼ねぇ!」
「褒めているんだよー」
「馬鹿ー‼」
という具合にイチャイチャしていたら、またブルーバードがブチキレ始めたので、ナイト辺境伯は「ぐあ!」と声を上げて耳を押さえた。
「お、オーブリー‼」
ナイト辺境伯がフラフラしながらSOSを求める。
「た、頼む……このクソ鳥に、僕は生贄の件を知らなかったと説明してくれ……!」
「え?」
「このクソ鳥はその件でキレて――……くっ、腹立つぅ……! そんなに言うなら服を脱いで実際に見せたろうか、このガキ」
「な、なんかよく分からないけれど、ちょっと待って」
ナイト辺境伯が頭を抱えて悶絶し始めたので(……アヴィス、何を言ったの……?)、オーブリーは膝に乗せた可愛い小鳥に話しかけた。
「あのね? アヴィス」
するとアヴィスがまたつぶらな瞳でこちらを見上げてきた。羽や毛は鮮やかなブルーなんだけれど、頬っぺたのところだけピンクなの。
「……うふ、可愛い♡」
「絶対可愛くねぇ! つーかこのくだり何度やるんだ! いいから早くそのクソ鳥に説明してくれないか!」
ナイト辺境伯がちょっと怖いので、オーブリーはアヴィスに説明を始めた。




