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私を生贄にしようとするサイコパスたちを、隠れた魔法の才能で見返します  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!
3.結婚しよう

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まさかのイケオジ


 見るんじゃなかった‼


 悲鳴を上げ、すぐそばにあったもの――つまりナイト辺境伯の体にギュウッと抱き着く。


 ――体を寄せてきたオーブリーがあまりに体を強張らせていて、安定を失い危ない気がしたので、ナイト辺境伯はオーブリーの腰を抱え込むようにして支えた。


「オーブリー?」


 訝しげに尋ねれば、オーブリーは彼に縋ったままで、カラマツの向こう側を指差す。その指はプルプルと震えていた。


「気持ち悪いのがいるぅうううう」


「え?」


「カラマツの向こう側――お願い、あなたにもアレが見えていると言ってぇ」


 襟首を掴まれ揺すられる。


 ナイト辺境伯は絶句した――……『馬鹿な、ありえない』。


 オーブリーはオーブリーで『こんなのありえない』と考えていた。


「さ、殺意はなさそう……? でも分かんない……とにかくひたすらキモイよぉ」


「オーブリー」


「む、紫に灰色のブツブツ……うわ、なのに髪がサラサラ……げぇ」


 オーブリーは恐怖に目を見開き、ナイト辺境伯のほうにさらにもっと身を寄せる。現状すでにピッタリ抱き着いている状態なので、ふたりのあいだには紙一枚でさえ差し挟める隙間がないのにもかかわらず。


「おーい、落ち着け」


「これが落ち着いていられますか!」全身をプルプル震わせるオーブリー。「あなた、あれ、見えている? どうなの?! カラマツの向こう側にいる――ムカデと深海魚が合体したみたいな体で、背中が紫、お腹が毒々しい緑――大きな口に、尖った乱杭歯、目がないのに、なぜか頭部? に黒のサラサラロングヘアー!」


 ひぃいいいいい! 見えたものを説明していたら、気持ち悪さ倍増。オーブリーはムカデが大嫌いなのだ。しかもあれ、体長二メートル以上あるわよね? 体がくねっているから、頭は一メートルくらいの高さにあるけれど。


 何あれ、生理的に無理‼


 ……一方、ナイト辺境伯はといえば。


「――インベル! お前は今、十年前の姿をしているのか?」


【はい、あるじ】


 カラマツの向こうから、『声だけ』が響く。


「あれ気持ち悪いから、やめろと言っただろう」


【しかしあるじ】


 生粋のジェントルマン――といった感じの、渋く艶のある声音。


【どうせ今のあるじは、私の姿が見えません】


「そのムカデモドキはお前の本当の体じゃないよな? 変えても問題ないと思うが」


【しかしこれが気に入っているのです】


「やめろ。オーブリーが怯えている」


【おやおや……天下のナイト辺境伯ともあろう御方が、たかが小娘ごときのご機嫌取りなど】


 軽く鼻で笑うような密やかな声を漏らしたあとで、カラマツの向こう側で空気が揺らいだ。


【――あるじ、人型に変化しました】


 ナイト辺境伯は懐にすっぽり収まっているオーブリーを見おろした。


「どう?」


 オーブリーは相変わらずカラマツの向こうを凝視していたのだが、しばらくしてからボソリと呟きを漏らした。


「……紫と緑の服、ダサッ……」


 血の気の引いた顔で、まず口にすることがそれなのか。


 ナイト辺境伯は可笑しいようでもあり、今起きていることが信じられない気分でもあったので、色々ない交ぜになった結果、『無』の表情でさらに尋ねた。


「とはいえ、キモイよりよくない?」


「あれ、なんなの? ……ムカデモドキから、イケてる感じのオジサンに変わった」


 癖のない黒のサラサラロングヘアーを下ろしているのだけれど、服がトリッキーすぎて、視覚的にうるさい。顔はダンディなのに、残念すぎる。


共感覚きょうかんかく体のインベルだ」



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