絶叫悲鳴!
「……オーブリー」
「聞いて。たとえ婚約破棄したとしても、私はもう安全じゃない――だって、聖女フェイスの宣託は表に出てしまった。彼女の熱心な信者は『フォックス子爵令嬢は一年後に死ぬべき』と考えているはず。たとえ婚約しなかったとしても、信者に殺される可能性はあるでしょう?」
オーブリーは彼に訴えながら、『なぜ私はこんなに必死になっているのだろう?』と不思議に思っていた。
それは、母のため?
ナイト辺境伯から「君のお母さん、うちに連れて来なよ」と言ってもらえたこと、本当に嬉しかった。それが婚約破棄でだめになるのが嫌なのだろうか?
そうかもしれない……でも。
オーブリーが今感じている衝動は、実はもっとシンプルなものなのかも。
――彼が一年後に死んでしまうのが嫌だ。
だって、彼はオーブリーに「逃げなよ」と言ってくれたのだ。自分が損をすると分かっているのに、こちらの身を案じてくれた。
そんな不器用で優しい人と、ここでお別れしていいの?
婚約破棄してしまったら、なぜ彼に死の宣託が下されたのか、その真相を知る機会もなくなり、縁が完全に切れてしまう。
そして自分は元の生活に逆戻りだ――まったく気が合わない、父、キャメロン、ブース婦人のいる、あの屋敷に帰る。
――嫌だ。そんなのはもう耐えられない。
自分を虐げる人と、これ以上は一分一秒たりとも一緒に過ごしたくなかった。
これは私の人生よ――これからは誰と一緒にいるのか、どこにいて何をするのか、私が自分で決める。
たとえ一年後に死んでしまうのだとしても、そのたった一年を楽しく過ごせたら、後悔しながら生き長らえるより、ずっと幸せなんじゃない?
それにふたりで頑張れば、死なないですむ方法が見つかるかもしれない。
力を合わせて一緒に解決したい。
そんなふうに強く心に誓ったのに……。
「――オーブリー、聞くんだ」
ナイト辺境伯が静かにそう切り出した時、オーブリーは内容を聞く前に『良くない話だ』と察した。
真面目で誠実な態度を取られると、彼の顔があまりに端正なことに気づいてしまい、悲しくなってくる。
やめて……馬鹿なあなたのままでいてよ。
彼の瞳が優しくて、エメラルドとアメジストの輝きが、真っ直ぐオーブリーだけに向けられているから、胸がうずいた。
……確かに、そう……オーブリーにも分かっている。――なんだかんだと理屈をつけてみても、彼と結婚しないのが一番安全だ。
でも。
彼から決定的な言葉を告げられたくない。
オーブリーは泣きたい気持ちをこらえて、何かを言おうとした。頭の中はグチャグチャで、考えはまとまっていない。
するとその時――視界の端にふたたびブルーバードが映り込んだ。
オーブリーが誰かと話している時は、いつもならここまで近寄って来ないのに。ブルーバードは大空を旋回しているのだが、段々と高度が下がってきている気がする。
――ふと、ナイト辺境伯が何かに気を取られたように、右のほうに顔を向けた。まるで横手から誰かに声をかけられ、反応したような動きだった。
オーブリーはナイト辺境伯の横顔を見上げる。
彼の形の良い唇が動き――……
【――ブルーバード――】
「え?」
オーブリーは呆気に取られ、ナイト辺境伯をマジマジと見つめた。
彼はまだ顔を横に向けている。
今、なんて言った? 聞いたことがない言語だった――……でも、なんていうか、すごく懐かしいような。
心臓が早鐘を打ち始める――オーブリーも彼と同じほうに顔を向けてみた。
その結果、目を限界まで見開くことになる。
「――んぎゃああああああ‼」




