極度(X)
気まずくなってモジモジと俯きながら、ボソボソ喋る。
「測定してくれたモーガン神父はいい人よ……一度『無感知(NF)』って出たのに、日を改めて、計五回も試してくれたの。でもだめだった」
「そうか」
オーブリーは胸が苦しくなり、ドレスのスカートをキュッと握り締めた。
「それに……教会で受けた測定が間違っていたとしても、実は能力があったというなら、日常生活を送る中で、不意に『上位言語』が聞こえることがあったはず。だけど私には一度もそれがなかった」
「……一度もなかった?」
「ええ、そうなの」
「だとすると」ナイト辺境伯が難しい顔になった。「それは『無感知(NF)』か『極度(X)』――そのどちらかということになる」
「な……」
オーブリーは絶句した。
――あ、ありえない! 『無感知(NF)』か、『極度(X)』か、そのどちらかなんて!
「どうかした? 『鳩が豆鉄砲を食ったような顔』をして」
「『鳩が豆鉄砲を食ったような顔』ってどんな顔!」
「今すぐ鏡見れば?」
というか『鳩が豆鉄砲を食ったような顔』はどうでもいいのよ。
「そんなの聞いたことないわ。『最低』か『最高』、そのどちらか二択だなんて。『最低』は『最低』のはずでしょ」
「あのね」
ナイト辺境伯が微かに口角を上げる。面白がっているという感じでもない。退廃的な空気を漂わせていて、少し苛立っているようでもあった。
「指標をなんだと思っているんだ? まさか万能だとでも? あんなもん、魔力レベルを決めるという難しいことを、常人がシステマチックに処理するために考え出した、穴だらけのものなんだよ。『無感知(NF)』はすなわち『測定不能』ということだ。『常人の理解が及ばぬ領域』ってこと。――『常識を疑え』――僕はまずそれを言いたい」
「でも」
「でもじゃない」
オーブリーは納得がいかなった。……だって『無感知(NF)』は『無感知(NF)』でしょ。オーブリーは何も感じ取れないのだから、秘められた可能性があるわけがない。
正直に言えば、『極度(X)』かもしれないと期待してしまい、その後『やっぱり違った』とふたたび奈落に落とされるのが嫌なのかも。だからまず『そんなはずない』と否定から入ってしまう。
それに魔力レベル測定の方法を振り返ってみても、どこかに穴があったとは思えないのだ。
――貴族籍の子供は十歳の節目に教会に行き、魔力レベル測定を受ける。これは『上位言語堅信式』と呼ばれる特別な儀式である。名称が難しいので、口頭では『魔力レベル測定』と言う人が多い。
指標は五段階で、『一』が最低位、『五』が最高位となる。
* * *
『一』 無感知 (Not felt)
『二』 軽度 (Light)
『三』 中程度 (Moderate)
『四』 強い (Strong)
『五』 極度 (Extreme)。
* * *
割合としては、『二』と『三』が非常に多く、『四』はまれ、『一』と『五』に至っては該当する者はほぼ存在しないそうだ。
そのため家族から『五』が出れば大変な名誉であるし、反対に、『一』が出ればとんでもない恥辱なのである。
* * *
――『上位言語堅信式』を受ける者は、ロザリオを手に祭壇に上がり、跪く。神父はその者の頭に手を置き、祈りを捧げる。
本人はその体勢のまま黙想に入り、中空に漂う『上位言語』の聞き取りを行う。ここでどんな言葉を取得できるか――それがとても重要。
というのも、本人の魔力レベルにより、聞き取れる音の階層が異なるらしいのだ。
たとえば木の枝から、長さの違う紐がいくつか並んで下がっていて、それぞれの紐の先にメモが結びつけられているとする。
手をいっぱいに伸ばした場合、背丈の高低により、届く範囲が異なるだろう。手が届いたらメモを引き抜き、広げて目を通す――『魔力レベル測定』はこれに似た行為をしていると言える。
ただ、先のたとえの場合、『背の高い人』は、『低いところ』にあるメモはすべて取れてしまうことになる。
しかし『上位言語堅信式』では、自分のレベルに合った階層の言語しか聞き取ることができないらしい。
黙想中、空を漂う音の存在に気づき、『カエルレウス』という響きを認識したなら、その場で口に出してリピートする。
「カエルレウス」
――貰い、返す――この工程が正しく行われると、手に持っているロザリオの色が変化する。このロザリオには白大理石のビーズが使われており、それが白から何色に変わったかで、レベルを測定する仕組みだ。
* * *
『一』 無感知(NF) ……エラー・白のまま
『二』 軽度 (L) ……黄
『三』 中程度(M) ……赤
『四』 強い(S) ……青
『五』 極度(X) ……紫
* * *
といった具合に。
オーブリーの場合は十歳で受けた『上位言語堅信式』で、何の音も聞き取ることができなかった。当然口頭で繰り返せないため、ビーズになんの変化も起こせないまま儀式は終わった。




