魔力レベルはいくつ?
「そもそも君、魔力レベルはいくつなんだ?」
ナイト辺境伯から尋ねられ、オーブリーはドキリとした。これは彼女にとって、とてもセンシティブな話題だった。
……というか彼、こちらの魔力レベルを知らないのね。そういった重要なことは花嫁の身上書にしっかり明記されているだろうし、てっきり把握しているものとばかり。
そうなると事実を打ち明けるのは中々勇気がいる。
オーブリーは一瞬気後れしたものの、正直に話した。
「測定の結果、私は『無感知(NF)』だったの」
「……ん? だけど」
彼の形の良い眉が顰められるのを、オーブリーは黙って見つめていた。
ナイト辺境伯の表情に滲んでいるのは、『軽蔑』ではなく、なぜか『疑い』――それも『強い疑い』だった。
彼はしばらくのあいだ訝しげにオーブリーの瞳を覗き込んでいた。まるで虹彩の奥にその答えが隠されているとでもいうように。
「いや……嘘だね。ありえない」
だいぶたってから、全否定。
オーブリーをオーガ呼ばわりする時の口調とはまるで違っていた。『彼は本心からそう言っている』とオーブリーは思った。
でも。
「嘘じゃないわ」
どうせなら盛る方向で嘘をつくでしょう。なんでわざわざ『無感知(NF)』だなんて、損しかしない嘘をつくのよ。
「君が『無感知(NF)』のはずない。なんか『こちら側』のような気がする」
……こちら側? どういうこと?
「でも私、上位言語の聞き取りができなかったの」
「あー……あ? なんでだよ」
なんというか、輩感がすごい。
これまで彼は、悪態をついている時もずっとふざけ半分だった。けれど今は素で「なんでだよ」と思っているのが伝わってきた。
……ていうかねぇ、そんなのこちらが訊きたいわよ。『無感知(NF)』と判定された時は心が張り裂けそうだった。
当時はこれがトドメになったのだ。
十歳、春の時点で、肉感的なブース婦人が屋敷に住み着き、母は臥せりがちになり、オーブリーの立場はどんどん危うくなっていった。けれどさすがに父も、実の娘を虐待するまでのことはしなかった。
けれど十歳、冬――オーブリーが『無感知(NF)』だと判明したことで、本当の地獄が始まる。オーブリーは崖から真っ逆さまに突き落とされた気分だった。
すぐに屋根裏部屋に追いやられ、愛人の子キャメロンが暴力を振るい始める。父もそれを黙認し、食卓からオーブリーを締め出した。
父も、キャメロンも、ブース婦人も、皆がオーブリーを見下した。
けれどオーブリーの心は折れなかった――だって『無感知(NF)』の何が悪いの? 心の底からそう思ったからだ。能力を測定してみたら、『無感知(NF)』に分類されたという、ただそれだけのことでしょう?
そんなもの、公序良俗に反することではない。
公序良俗に反するというのは、こういうことだ――真面目に生きている他者を罵り、脅かし、理不尽に攻撃する――つまり罰せられるべきは、父であり、キャメロンであり、ブース婦人であるはずだ。
古い心の傷を思い出し苦い顔になるオーブリーを眺め、ナイト辺境伯が皮肉げに片眉を上げた。
「つーか君が『無感知(NF)』にされたのって、測定した神父がクソだったんじゃないか?」
――ちょっと、嘘でしょう――なんというありえない誹謗中傷!
「コラ! 真面目に生きている他人様のことを、そんなふうに悪く言うんじゃありません!」
オーブリーは両手のひらで、バチーン! とナイト辺境伯の頬を挟んだ。
薄青の虹彩が怒りでキラキラ輝いている。モーガン神父のことが好きなオーブリーは、先の発言に対して本気で怒っていた。
ナイト辺境伯はびっくりした顔で、ほんの少しだけ目元を赤らめる。
「わぁお……今のは想定外にキュンときたぞ」
「おい、このド変態! 大至急人間界に戻って来い!」
混乱により、オーブリーの言葉が乱れた。――今の流れで、何がどうなったらキュンに至るのよ!
「僕はずっと人間界にいるんですけどー」
「はぁ? どこがよ、変態界に堕ちまくりでしょうが」
「堕ちまくり、って」へら、と笑うナイト辺境伯。「堕ちて、上がって、また堕ちて、を繰り返しているってこと? 『人間界と行ったり来たり、マメね』みたいに褒められると、照れちゃうなぁ」
「褒めてないから! くっ……! ちょっともう、あなたと話していると私、血管切れそう」
「血がドロドロなんだね、気をつけて」
「たぶん血はドロドロじゃないし、あなたが怒らせなければ私は快適なの!」
「でも怒っている君って、最高にイキイキして見えるけどな」
「失礼ね! それじゃ私がまるで野蛮人みたいじゃない!」
「え……? 野蛮人だという自覚がないんだ……?」
怖……みたいな感じで、ナイト辺境伯が黙り込んでしまった。
オーブリーはそれで少しだけバツが悪くなり、『確かに挟みビンタはやりすぎたわ』と彼の頬に当てていた両手をそっと下ろした。




