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私を生贄にしようとするサイコパスたちを、隠れた魔法の才能で見返します  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!
2.オーブリーとナイト辺境伯の出会い

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頬っぺたに触らないでよ


「強い、って……自称?」


 オーブリーが尋ねる。


 彼女のアーモンド形の瞳は、涼やかで神秘的だった。そう……こんな阿呆なことを口走っていても。


 ナイト辺境伯は億劫そうに小首を傾げる。彼の美しい金色の髪がサラリと揺れた。


「あのね、自分で言うのもなんだが、ここまで突き抜けると、自称もクソもないですよ。単なる事実だからね。――ほかの人に、僕の評判、訊いてみたら?」


 オーブリーは考えを巡らせた。……そういえばキャメロンが「ナイト辺境伯ってものすごく強いんですって! 山を抉るくらいの、とんでもない攻撃魔法も使えるらしいの! リユニオンでは皆が彼のことを話していた」と言っていたっけ。


 オーブリーはそれを一旦信じたけれど、『とはいえナイト辺境伯は、一年後に殺されるのよね』と思うと、『強いといっても、無敵ではない』という当然の結論に達した。


 先ほど彼に『弱い』と言ったのはさすがに冗談だが、それでも『もっと強くなる余地があるわよね?』は本心である。


 ……あら? でも、待って。


 キャメロンは異常に自己評価が高く、その反対に、他者を異常に低く見積もる癖があった。


 そんな彼女があれだけ褒めちぎっていたということは、リユニオンでのナイト辺境伯の評判が、それほどすごかったのかしら?


 オーブリーは瞬きし、微かに眉根を寄せた。


「え……じゃあなんで、あなたは死ぬの?」


「それは僕のほうが訊きたい。――不謹慎かもしれないが、一年後、そんなにヒリヒリする状況になるんだと思うと、好奇心が抑えられないくらいだ」


「ええと、あの、これまで魔物と戦ってきて、怪我をしたことは?」


「ない」


「子供の時とか」


「子供の時から強かったから、正直、弱い人の気持ちが分からない。これまで一度も本気を出したことがないし」


 えー! 子供って、自分で転んだだけでも、膝をすりむいて大泣きよ? この人、人間?


 思わずペタペタと彼の頬に触れてしまう。化けの皮が剥がれて、下から悪魔が出てきたりして……と思ったのに、滑らかね、なんか気持ちいい。


「ん、何?」


 彼が訝しげに尋ねる。


「いえ、あなたって人間? と疑問に感じて」


 するとナイト辺境伯がくすりと笑みを零した。


「たぶんね」


「たぶん?」


「じゃあ、逆に訊くけれど、君は人間?」


 彼が気まぐれのように右手を伸ばしてきて、手のひらをオーブリーの頬にあてがった。――長くて形の良い指――温かい。


 オーブリーは頬がかぁっと熱くなり、キュッと眉根を寄せた。


 それを眺めおろした彼の口角がさらに上がる。


「なんなんだ? また殺し屋みたいな顔つきになっているぞ」


「うるさいな」


「照れてるの?」


「照れてない」


「だけど顔が赤いぞ」


「頬っぺたに触らないでよ」


「君が先に触ったんだろう」


「じゃあ、いっせーのせ、で離す?」


「いいよ」


「いっせーの」


 せ、と言い終わったのに、彼は手のひらを離さなかった。


 ……オーブリーも離さなかった。



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