旦那様が弱いの、私、つらい
オーブリーは彼の下襟を引き、懸命に伝える。
「詳細は分からないけれど、あなたは一年後、誰かにむごたらしく殺されるらしい。『誰か』というのは、おそらく魔物のたぐいかしら? それで私は、あなたを死なせないために、生贄にされる予定とのこと――……でも待って、なんていうかこれって、根本的に何も解決していないわよね」
「いや、そもそも僕は誰かを生贄にするつもりはなく――」
「まぁ聞いて。仮定の話ね――期日が近づいてきたら、聖女からなんらかの指示があり、私はそれに従って死ぬことになるのでしょう――そして宣託によれば、あなたはそれで助かる」
「いや、知らんけど」
「助かるらしいのよ」
話を強引に戻すオーブリー。
ナイト辺境伯は『キスする数秒前みたいな距離感で、この女は何を言っているんだ』と考えていた。情緒はどうなっているんだ、イカレているんじゃないか?
オーブリーが続ける。
「あなたは死なずに済むけれど、実力でピンチを切り抜けたわけじゃないから、また新たな災難が形を変えて現れると思うわ。――だって人生ってそういうものでしょう? 課題をクリアしないで逃げると、結局、似たようなことがまた起こる」
彼女は真理を述べている気もしたが、それでもナイト辺境伯は『ちょっと待て』という気分だった。
これ、どこから突っ込んだらいいんだ。
「私、嫌よ――せっかく生贄になって死んであげたのに、数年後にまた宣託が下されて、『ナイト辺境伯、やっぱり死んじゃいそうです、テヘ』みたいな感じで、新たになんの罪もない令嬢が選ばれて、犠牲になる――その子も、私も、どちらも浮かばれないわ! 全部、あなたが弱いせい!」
「弱いって言うな」
「じゃあ、頼りがいがない」
「失敬な」
「そしてまるで期待が持てない。その上、女子をオーガ呼ばわりする、残念極まりないマインド――新しい花嫁も、たぶん同じハラスメントを受けるんだわ、すごく可哀想」
「どんどん足すね。なんなの君、悪口の才能、すごくない? 十歳からまともに教育を受けていないって、絶対嘘だろ。悪口の英才教育を受けてきただろ」
「旦那様が弱いの、私、つらい」
「情に訴えてきた――ちょっと待ってくれ――僕は何も悪いことをしていないのに、『弱い』『頼りがいがない』『期待薄』と散々な言われようだよ」
「――じゃあ、頑張ってもっと強くなってくれる?」
「いや、そもそも僕は、日々退屈しきっているくらい強いんですが」
見つめ合う、ふたり。
……風がさぁっと吹き抜け、オーブリーの赤毛を揺らした。




