今なら、なんでも聞いてあげる
オーブリーが瞳をキラキラさせて、前のめりになる。
「OK、任せて。私、猫さん好きだから、真似できる。私、できる!」
「なぜか花嫁がやる気だ」
「メイドがこっそり飼っていたらしくて、白猫が屋敷の敷地内に住み着いていてね、部屋の窓からよく観察してたの」
「ああ、そうなんだ」
「えっとね、そう――人に甘える時は、こんな感じ」
オーブリーは腰を上げ、ナイト辺境伯のほうに歩み寄った。
そして彼の左膝の上にストンと腰を下ろした。
あぐらをかいていたナイト辺境伯は一瞬呆気に取られたものの、彼女が滑り落ちないよう、さり気なく腰に手を回して抱え込む。
そうしたらなんとオーブリーが、右側頭部をこちらの肩にグリグリこすりつけてくるではないか。縋るように、礼服の下襟をキュッと華奢な左手で握りしめているのが、妙にキュートだった。
ていうか……せっかく綺麗にハーフアップにしてあるのに、ほつれるぞ、お転婆娘。
それに、なんの香りだろう。甘い……フルーツのような、花のような。
「……これ、なんの香り? 爽やかな……花、みたいな」
考えていることを、思わず言葉に出してしまったのか――……ナイト辺境伯はそう錯覚した。しかし一拍置き、先の呟きは、オーブリーが漏らしたものだと気づいた。
「ああ……ポプリの小袋を内ポケットに入れている」
ナイト辺境伯が静かに答える。
「おまじない程度だけれど、魔除けになるから」
「ふぅん、そうなんだ、それって――……」
オーブリーは無邪気に顔を上げ、彼の端正な顔がすぐ近くにあることにやっと気づき、ガチリと固まった。視線を外すこともできず、彼のオッドアイをじっと見つめる。どうしていいか分からなくて、掴んでいた下襟をさらに握り締めてしまう。
ナイト辺境伯もまた、じっとオーブリーの瞳を見おろしていた。彼女の薄青の虹彩――晴れた日の空というよりも、澄んだ水面のような、涼やかなブルーだ。
彼が瞬きする――……それは艶っぽいような、それでいて不思議と清潔感のある仕草だった。
「……オーブリー」
「あ……」
「オーブリー、三つ目のお願いは?」
「ん……三つ目?」
「言っていいよ。たぶん今なら、なんでも聞いてあげる」
甘く蕩けるような口調でもない。けれど素敵な声だとオーブリーは思った。
落ち着いていて、柔らかで、鼓膜がジンと痺れる。
「あの、私……」
「うん」
オーブリーはドキドキしながら口を開いた。
「――あなたにもっと強くなってほしい」
ナイト辺境伯は呆気に取られた。




