私に家庭教師をつけてほしい
「要求は四つあるんだっけ? ふたつ目は何?」
ひとつ目は『お金を貸して』だったが、オーブリーの母を呼び寄せるということで、金銭の貸し借りよりも前向きな解決策が見つかった。
ナイト辺境伯が芝生の上にあぐらをかき、横目でこちらを眺めてくる。
この砕けた態度……彼ってほんとに貴族らしくないわ……オーブリーは伏せていた顔を上げ、複雑な形に眉根を寄せた。それは困っているような、照れているような、なんともいえないあどけない表情だった。
彼はまったく貴族らしくないのに、それでいて不思議な品の良さがある。たとえ軽口を叩いていても、こうしてあぐらをかいてリラックスしていても、その品性が消えることはない。
教養の基礎がしっかりしているからだろうか。できる人があえて崩しているのと、できない人がありのままできていないのとでは、大きな違いがあるような気がした。
オーブリーはコホンと咳払いをしてから口を開く。
「ふたつ目のお願いは、私に家庭教師をつけてほしいの」
「なぜ?」
「十歳から、まともな教育を受けていないから」
オーブリーは正直に答えた。隠していても、一緒に生活し始めたら、基礎が欠落していることはバレてしまうだろう。
「ふぅん……」
ナイト辺境伯は小首を傾げ、まじまじとこちらを見てきた。
「何よ?」
「いや、なんか、散々オーガ呼ばわりして、ごめんね?」
なんで詫びるの? オーブリーははっきりと眉根を寄せた。
「何それ、どういうつもり?」
「君が狂暴な理由が分かったから、からかったりして、申し訳なくなっちゃってさ」
「どう分かったというの?」
「君さ、子供時代にオーガに攫われて、それ以降は山で魔物と暮らしてきたんだろう? オーガに育てられたなら、雰囲気が似るはずだよね。悪いこと言っちゃったな、って」
……この野郎。
オーブリーは右手をサッと伸ばし、ナイト辺境伯の首を正面からガツッと掴んだ。的確に急所を押さえる素早い動きだった。
膝立ちになり、一点を見つめてブツブツと呟きを漏らす。オーブリーの顔は半分陰になり、どこか禍々しい。
「……先ほどちょっとだけ上がった好感度が、ふたたびマイナスに逆戻りだわぁ……なんなのあなた? 母親のお腹に、礼節を置いて出て来た?」
「オーブリーさん、ジョークです。場を和まそうかと」
「黙れ」
「ほらほら、どうどう」
ポンポン、と手の甲をタップされ、オーブリーはゆっくりと手を離し、ふたたび腰を下ろした。けれど殺し屋のような目つきは改まらなかった。
「私は別にオーガらしさを直したいから、家庭教師を求めているわけじゃないのよ。社交マナーや一般常識に抜けがあると言っているの」
「でもなんか君、結構ちゃんとしてない? ……あのね、僕は本当に洒落にならないくらい粗野な人だと思ったら、オーガ呼ばわりなんてしないよ。教養のなさを笑うのは、後味が良くないしね」
ナイト辺境伯が首をさすりながらそんなことを言う。この台詞は実感がこもっていたので、本心からの言葉のようだった。




