デレるオーブリー
「いい? 私からの要求は四つよ」
芝生の上に正座したオーブリーは、ナイト辺境伯に向けて指を四本ビシッと立ててみせた。
ナイト辺境伯は微かに顎を引き、
「えー、そんなにあるの? いくらなんでも、ちょっと図々しすぎると思いまーす」
と半目になって子供じみた抗議をしてきた。瞼が下がると、虹彩の色が深みを増す。
オーブリーは前かがみになり、彼の目を覗き込んだ。
「こら、真面目に聞きなさい」
「はい、はい」
「『はい』は一回でしょ」
めっ、と凄まれて、ナイト辺境伯はほんのちょっとだけ大人しくなった。……なにこれ、威張っている赤毛の猫みたいじゃないか?……彼はこっそりそう考えていた。
「まずひとつ目」
コホン、と咳払いしてからオーブリーが切り出す。
「――お金貸して」
シン、とその場に沈黙が落ちた。
数秒置き、ナイト辺境伯はこれ見よがしに腕組みをすると、分かりやすく渋り出した。
「えー、どうしようかなー」
「いいから貸しなさいよ」
「ていうか、のっけからすごいこと言うよね、君。――悪女か」
「母を今の療養所から別の場所に移したいのよ」
オーブリーは真面目に説明する。
母の治療費をこれからはオーブリーが全額負担するつもりだから、すぐにお金がいる。
「できれば西部地方の、あなたの領内に移したいわ。私もちょくちょく会いに行きたいし、父の手が届かないようにしたいから」
「お金を貸すのは別に構わないが」
「よかった」
オーブリーがホッとして頬を緩ませるのを見て、ナイト辺境伯はなんともいえない顔つきになる。
「何よ?」
「いや、ちょっと気になって。お金貸して、ってさぁ、返すアテあるの?」
「二十五歳になったら信託財産が動かせるようになるから、借りたお金は二年後に全額返すわ。利息はまけて」
「ということは君、今、二十三歳なの?」
「そうよ」
「……あのね、僕、今、二十六歳」
「ああ、そう」
「君の三歳上なわけさ」
「ええ、それで?」
「いや、もっと敬いなさいよ。僕、三歳上ですよ?」
「だったらもっと年上らしく紳士的に振舞ってよね。あなたの態度って、五歳児レベルだから。女子をオーガ呼ばわりとか、万死に値するから。ひどいクズ男だから」
「流れるような悪口……そっちこそ、ひどくない?」
「全然ひどくない」
にっこり笑うオーブリーに対し、ナイト辺境伯は渋い顔。
「そもそもの話――お金は『貸して』じゃなくて、『ちょうだい』って言えば?」
「え?」
「僕のピンチを救ってくれるんだろう? 恩に着せて、お金をくれ、って言えばいい」
「そういう訳にはいかないわ」
「そうかなぁ?」
「そうよ……だってお金をもらっちゃったら、私もう、あなたに偉そうにできないわ」
それを聞いたナイト辺境伯が吹き出した。
「君は僕に威張りたいから、お金をもらわないって言うのか?」
「そうよ」
「――OK。君の提案、僕は大変気に入った」
「じゃあ決まりね」
「でも、待った」
ナイト辺境伯がここで意外なことを言い出す。
「君のお母さん、うちに連れて来なよ」
「……え?」
「行先は療養所じゃなくてもいいだろう? 介護のスタッフはこちらで手配するから」
「でも」
「婚約破棄をして、君の父親に馬鹿げた違約金を払うと思えば、介護費用なんてずいぶん建設的なお金の使い方じゃないか? ――それで、療養所の入院費ならしっかり算出できるけれど、うちに住むとなると計算が難しいから、チャラってことにしよう。どう?」
オーブリーは頬を赤らめた。……どうしよう、これ、なんて言うか……。
モジモジと俯き、ボソリと呟く。
「……あ、ありがと。すごく……私」
「――うん」
「すごく、嬉し、い……」
オーブリーの頬は夕焼けのように赤くなっている。
どうしていいか分からないというように、ドレスの布地を摘まんだり離したりしている彼女を見て、ナイト辺境伯はくすりと優しい笑みを漏らした。




