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私を生贄にしようとするサイコパスたちを、隠れた魔法の才能で見返します  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!
2.オーブリーとナイト辺境伯の出会い

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僕は元々いい人なんだけど


 ふたりは芝生の上に腰を下ろし、きちんと話をすることにした。


 誤解は解けたわけだけれど、オーブリーは相変わらずちょっと怒ったような顔つきのままだった。


 それは彼からオーガ呼ばわりされたというのも、もちろんある。けれどそんなことより、オーブリーは追い詰められていた。彼女はずっと崖っぷちに立たされているようなもので、その状況は何も変わっていないのだ。


「伯父のマーズ子爵は占いのたぐいは信じない」


 ナイト辺境伯が瞳を細めてそう言う。


「頑固な彼が、『一年後にナイト辺境伯が死ぬ』だなんて馬鹿馬鹿しい話を信じたのは、それが『宣託』だったからかな? そういえば、うちの教区に数カ月前、聖女フェイスが来ていたな……直接会って、何か言われたか」


 彼の話し方はなんとも掴みどころがないわ……オーブリーは耳を傾けながら、そんなことを考えていた。


 表面上はのらりくらりとした印象が強い。人を食ったような調子だ、とも思う。けれど話すリズムや声には知性が感じられて、言葉の裏に潜む本心が掴めないから、一筋縄ではいかないと感じてしまう。


 オーブリーは口を開いた。


「そうね。聖女フェイスからの宣託だったと聞いているわ。あなたが死ぬという未来を変えるには、花嫁が一年後に死ぬ必要がある。犠牲になるのは誰でもいいわけじゃなくて、私じゃないとだめみたいで」


「ていうかさ」


 ナイト辺境伯が少し棘のあるような表情に変わり、こちらを流し目で見てくる。


「なんで君がそれを知っているの」


「なんで、って……」


「君、生贄なんだろう? 生贄本人にさぁ、『君は一年後、死ぬ運命だからね、人生諦めて嫁に行ってください』って……わざわざそれを伝えたやつ、馬鹿なの? 普通、隠すだろ。――それを聞いて、来るほうも来るほうだ。とっとと逃げろ」


 通りの向こうのほうを指差して『行っちまえ』とばかりに彼がそう言うので、オーブリーはムッとして眉根を寄せる。


「うるさいわね、色々事情があるのよ」


 宣託について知ることになったのは、激高した父の口が滑ったという、事故のような成り行きだった。けれどオーブリーは知れてよかったと思う。


 知った上で、病気の母を護らなければならないことや、『悪いことをしていないのにコソコソ逃げ出すのは悔しいから、そうしない』という自分のつまらないプライド、意地、これからの計画、様々な事情があって、オーブリーはこうすることを選択した。自分の意志でウェディングドレスを身に纏ったのだ。


「事情を言い訳にするな。――あのさ、ポチは自分で袋小路に飛び込んでいるんだからな」


「だから誰がポチよ」


 この男、まったく腹の立つことを……というか、すべてが図星なだけに腹が立つんだわ。


 オーブリーは不機嫌なまま、はぁ、とため息を吐く。


「……違約金のことがあるでしょ。私が事情を知った時にはもう、婚約は纏まっていた」


 この婚約を破棄した側は、とんでもない額の違約金を払うことになる。


「別に気にしなければいいだろう」


 ナイト辺境伯が口角を上げた。ふたたびの意地悪そうな笑み。


「自分を売った親が借金を背負うのが、そんなに嫌なのか? ずいぶんお優しいね」


「病気の母がいるのよ。療養所に入っている。私には今、自由にできるお金がないの。私が逃げ出したら、母は路頭に迷って死ぬわ」


「……そうか」


 彼は少し驚いたようだった。宝石のように美しいオッドアイに、いたわるような優しい光が宿ったような気がした。――右と左で色が違う。緑の虹彩は物柔らかく、紫の虹彩は温かみがある。


 しばらくのあいだ黙り込んだあと、彼がポツリと呟きを漏らした。


「知らなかったから……無神経なことを言って、すまない」


「何? 急に」


 オーブリーは困ってしまい、可愛げなく顔を顰めていた。


「別に、知らなかったんだから、仕方ないでしょ。いきなりいい人に変わらないで、調子狂うわ」


「僕は元々いい人なんだけど」


「どこが」


「君にカバンで撲殺されかけたのに、僕は寛大にも許してあげただろう?」


「違うわ。あなたをカバンで撲殺することもできたけど、私は寛大にもやめてあげたの」


 ふたりは顔を見合わせて、少し打ち解けた笑みを交わした。


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