えーと……僕は一年後に死ぬのでしょうか
「……どうして? ひどいじゃない」
オーブリーは言葉を絞り出した。声が少し震えてしまう。
怒りからか、やるせなさからか、目元がじんわりと熱くなる。込み上げてくるものをこらえるように俯いていると、彼が静かに立ち上がる気配がした。
こちらに向き合って立つ彼の靴の爪先を眺める。
何も言わない……言い訳くらい、したらいいのに。それとも、偉そうに怒鳴ればいい。お前に文句を言われる筋合いはないと、殴ればいい。
調子狂う。
「あなた、強いんでしょう」
「そうだね」
落ち着いた声音。答えを躊躇わないんだ。
オーブリーは反感を覚えて彼の顔を見上げた。
「強いなら、どうして? どうして私を犠牲にするの?」
言葉に出すと止まらなくなる。オーブリーは彼の顔を見ているようで見ていなかった。全部ぶちまけてしまいたい。聞いてほしいというより、吐き出したかった。
「強いくせに、どうして一年後に死ぬのよ! しっかりしなさい、死なないように頑張りなさいよ!」
「……ん?」
「大体、やり口が姑息よ。自分が生き残るためなら、妻が死んでもいいの? 犠牲になった私の死体を見て、それでも平気で息が吸えるわけ? 人でなしすぎない?」
「いや、ちょっと待って」
「待てない」
「いやあの、オーブリーさん」
「気安く呼ばないで」
「じゃあポチ」
「誰がポチよ」
「ハニー」
「誰がハニーだ」
「えーと……僕は一年後に死ぬのでしょうか」
「え?」
ふたり、訝しげに見つめ合う。
奇妙な空気が流れた。
「あー……」
彼が腕組みをして俯く。そうしてガシガシと手のひらで額をこすり始めた。
「くそ、やられた……あのタヌキオヤジめ……!」
呻き声。
一方、オーブリーの頭の中にはたくさんのクエスチョンマークが浮かんでいた。
……え、まさか。
「あの……もしかして、知らなかった?」
恐る恐る尋ねると、ナイト辺境伯はうなだれたまま腰に手を当てた。
それから彼がゆっくりと頭を上げる。お綺麗な顔が少しやさぐれていた。
「……僕はね、伯父のマーズ子爵には大変お世話になってきたわけですよ。父が早くに亡くなって、祖父は不在がちだったから、親代わりってやつだね」
「そう……」
「そのマーズ子爵に『一生に一度のお願い』って言われたらさ、聞くでしょ」
「え」
「聞くよね」
「いや、知らないけど」
「聞くに決まっている」
チ、と舌打ちする彼。なんだか苛々しているらしく、踵を地面につけたまま、靴の先を上げたり下げたり、トントンし出す。
「ふた月以内に結婚してくれ、相手はフォックス子爵家の令嬢だ――もうね、問答無用ですよ」
「……はぁ」
「知らん、つーの。誰だよ、フォックス子爵」
「私の父ですが」
「ロクなもんじゃないだろ、フォックス子爵。クソ腹立つ」
「口が悪いわね」
「さらに言うなら、なんで僕が狂暴なポチと結婚しなければならないんだ」
「私はポチじゃない」
「寝込みを襲って、カバンで撲殺しようとするような女だぞ。凶悪すぎないか。これもう魔物だろ」
「失礼すぎない?」
「んん……実は本当にオーガなのでは?」
ふざけているのか、真顔で腕組みをしてマジマジと見おろしてくるので、オーブリーは歯を食いしばり、プルプルと震え出した。
「間違いない」合点がいったというように、ポンと手を叩く彼。「これは新種のオーガだ」
「……殺す」
オーブリーは他人任せにせず、この男を今殺すことにした。




