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File:08 襲撃、カニタンク

「ハッ! 馬鹿がよぉ! 俺達の装甲車が入れないとでも思ったのかクソチビ!! その通りだがよ!!」


「けど、こちとらプロとして雇われてんだぜぇ? テメェは俺達の手の上だっつーの!! 想定内ダッゼェ!!」


「後部ハッチ、オープゥゥゥン!! テメェら兎狩りの時間だァァ! イェェェェ!!!」


「イェェェェ!!!」


 角を曲がる瞬間、追って来る警備隊の車両がチラリと目に入る。


 やたらと胴長のクルマだとは思ったが、中に隠し玉を用意していたらしい。


 バイクよりも一回り大きな赤い球体が二つ、コロコロと排出されいた。


 それがカパッと花弁のように開くと、無数の細長い脚に変形する。バイオミュータントの『カニタンク』だ。


【チェック:カニタンク】

 ミュータンテック社の中型生物兵器として最近見掛ける、市街戦仕様の新型だろう。

 あの長い脚ならば、通りに積まれた雑多なゴミも平気で乗り越える踏破力がある。

 装備は重心の低さを活かした反動の大きいガトリングを口部分に一門、それと捕獲・切断用のハサミが両腕合わせて二丁といったところ。


(各二体格納している装甲車が四両なら、その数はざっと見積もって八体いるとみていいでしょうか──いえ、装甲車が全部コチラへ来ているなら、一体は制圧用に施設へ残したはず。 それでも七体……)


 全てを確認する前に路地裏へ入ったため、総数に確証はどこにもない。


 しかし、メガコーポ(あいつら)ならばそれくらい用意するだろうという厭な信頼があった。


「カニタンクですか──なるほど、路地裏は通れますね。 それだけいれば、狭い路地くらい簡単に全域封鎖出来るでしょうし」


「カニャたんく」


「か・に・ですよ」


「カ、ニャ~!」


 相変わらず舌ったらずな猫耳娘は、カニを真似しているのかダブルピースでボクにアピールしてくる。


 だがこちらは迷路のような小道を突っ切っているのだ。相手をしている余裕はない。


 実際、ガッチャガッチャと煩い足音が背後に続いていた。


 巨大な生物というのは思いのほか素早く機敏な動きを見せる。軍事利用されるだけの価値はあるといことだ。


 ましてや、路地裏にギリギリ入る図体のせいで、なさがら動く壁である。奴らの思惑通り挟み打ちでもされれば、文字通りハサミで容赦なく引き裂かれることだろう。


「堅い装甲に覆われて弱点無し、今の手持ち火力じゃ太刀打ちできないとは……厄介な相手です」


 そもそも潜入任務で戦車相手までするつもりは全くなかった。まさかここまで本気を出してくるとは思わなかったのだ。


 しかし、この焦りとも取れる本気ぶり。


 ボクの気まぐれで連れ出したが、よほど大切な実験体らしい。俄然この子に興味が湧いて来る。


 探偵としての『嗅覚』がそう言っていた。


「この分なら、反対側へ抜けるのも難しそうですね。 ほら来ました──!!」


『バルルルル──』


 目前に迫る三叉路。どちらへ舵をきるかと悩む暇もなく、出会いがしらの弾丸が飛んで来る。


 片側の道から、ガトリングを景気よくぶっぱなすカニのバケモノが道を通せんぼしていたのだ。


 この狭い路地裏では避ける幅も無い。弾丸がボク達の目と鼻の先に迫る。


「くっ──!?」


「ニャニャァァ!!」


『キンッ』


 走馬灯が一瞬チラつく刹那。ボクの胸に埋まる猫耳少女が、掌から黒い抜身の刀を突き出し弾丸を弾く。


 マイマイの走行速度も加味すると、異常過ぎるほどの神業としか言えない。


 神経拡張機(ニューロナイザー)も未装着ならインプラントも差していない生身。


 神経加速も無しに人間の身体能力を超えるなんて、まるでニンジャのようだった。信じられない。


「まさか、捉えている……? どういう動体視力なんです、キミ──」


「ニャふん!」


 猫が獲物を捕らえたことを自慢でもするように、猫耳少女は鼻息をフンと鳴らす。


 どこの誰に言われたかは忘れたが、仕事の礼は尽くせと言われている。ボクは鉄の左手でポンと頭を撫でてやった。


「かんたん! もっと、やるニャ!」


「これは良い弾避けを拾えましたね」


 それにしても、カニタンク達はまるでこちらの進行ルートを知っているかのような手際の良さである。


 最新型のカニタンクなだけはあり、地形図と連動した戦略運用(タクティクス)なのかもしれない。


「逃げ道は選ばせてもらえませんが──どうせこちらも待ち伏せているのでしょうね」


 否応なしにカニタンクのいない方へ逃げ込んでいく。


 だが後ろからは相変わらず最初のカニタンクがべったりであり、底なし沼にずぶずぶと身体を入れているようなイヤな感覚が押し寄せた。


 そういう予感は的中するもの。やはりこの道の先にも忌々しいバイオミュータントが待ち伏せていた。


「今度は一本道……!! 前門の虎、後門の狼というやつですね。 まぁ、どちらもカニなんですが」


【チェック:絶体絶命の小道】

 長いロングストレート。迂回路はどこにもない。超高層ビル(メガビルディング)の壁は空を覆い、ボク達を見下ろしている。

 無理矢理増設した歪な構造のせいか、アチコチからパイプとエアコンの室外機が飛び出し、動きを阻害する。

 盾にもならない邪魔なゴミばかりが散らばり、誰も味方のいない孤立無縁だ。

 

 (マズイですね。 いくら攻撃を弾けるとは言っても、流石に秒間数十発も捌ききれはしないでしょうし──)


 チラと胸元を覗き込んだが、当の猫耳娘はフンフンと鼻息荒くやる気満々。


 しかし、この子の実力を信用するほどまだ付き合いは長くない。申し訳ないが、活躍はまたの機会にしてもらおう。


「腹を決めました。 図体が大きくとも所詮はカニ──脳の大きさまでは負けられません」


 鉄の左手を猫娘の頭から離す。


 そのまま乱雑に壁から生えるパイプと室外機へ向けて、指先に残った3発を撃ち尽くしていった。


『パパパンッ──プシュゥゥゥ!!』


 裂けた鉄の管からは真っ白いスチームが勢いよく吹き出す。室外機からは泡のような白い冷媒ガスが溢れ出してきた。


 狭い通路だ。たちまち前方の視界は最悪の状態。もはや向こうの景色の陰すら見えない。


 こちらから見えなければ、当然あちら側からもだ。


「これで前はなんとか……後ろは予定通り、マイマイにはハチの巣になってもらいましょうか」


 発砲に反応したのか、白い煙の奥からガトリングのけたたましい連射音が響く。


 だが、それはボクを見据えて放ったものではない。ただの当てずっぽうだ。


「また無茶をしますよ、歯を食いしばってください──!!」


「ニ゛ャッ!?」


 義足(左足のウェア)に力を込めると、内蔵されたショットガン(マスターキー)が火を噴いた。


『ガシュンッ!!』


 その衝撃は反動を産み、ボクを伝わってマイマイの車体をわずかに浮かせる。


 浮足立った足元は次の瞬間、世界を90度傾かせていた。メガビルディングにタイヤを擦らせ壁走りをしていたのである。


「ウ゛ニ゛ャァァ!!!」


「ヨシ、上手くいきましたッ!」


 長くは走れないとはいえ、待ち構えていた門番を跳び超えるのには十分。


 居るはずもない地上に向けて銃を撃ち続けている間抜けを出し抜き、まんまとその頭上を通っていた。


 しかし、この奇策にも欠点がある。後ろからは丸見えだということだ。


『バルルルル──ガガガガッ!!!』


 背後から追っていた個体がボクを見逃すはずもなく、後方からの集中射撃が精確にリアボックスを襲う。


 ガトリングの弾が鉄を抉る恐ろしい音が鳴り止まず、耳が張り裂けそうだった。


 おまけにロデオよりも酷い振動が全身を揺らし、猫耳娘は軽い脳震盪(のうしんとう)まで引き起こしており被害甚大でる。


「ブニャニャニャニャ!?」


「マイマイ、ごめんね──」


 すぐに地上へ降りたので座席までは貫通しなかったものの、かなりの弾をもろに受けてしまった。


 マイマイの殻は見るも無残なほどにボロボロだろう。


 それでも搭乗者の命を守ったのだから立派なヤツだ。帰ったらレストアしてあげなければ。

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