File:41 困った時は筋肉に限る
ボクの呟きに反応し、G・Gがさらに言い返そうと眉間にシワ寄せ迫って来る。
ところがすぐに二人は距離を離すことになってしまった。
『バルルルルルルルルッ!!』
路地裏に轟くバルカン。いつぞやのカニタンクに追いまわされたことがデジャヴする。
「どうした、どうした! さっきのは威勢だけか? 負け犬探偵さんよぉ!」
「あら、言われてますわよ『子犬』ちゃん」
「隣のゴリラ女も逃げてんじゃねぇ! テメェには散々邪魔された恨みもあんだからな! まとめてぶっ殺す!!」
「キミも言われてるみたいですよ、G・Gくん」
「むき~!! やっぱりワタクシ! 尻尾巻いて逃げるのは性に合いませんわ!!」
「ちょっと、何をする気なんですか!?」
不穏な発言に驚きボクは振り向く。
嫌な予想は的中し、自慢の巨躯を大きく広げて立ち尽くす彼女の姿が目に入る。
大の字に手足を広げるその様はまさに仁王立ち。
力づくでもメタルスーツを止めて見せるという意気込みなのだろう。
「なにやってるんです! 脚を止めればミサイルの餌食ですよ!」
「それがなんぼのもんですわ! 気合いをブチかまして返り討ちでしたよ!!」
「まったくもう! キミって人は……」
チャンスを待つということが出来ないらしい。
振り回されるのこそボクの性に合わないが、ここで見捨てるわけにもいかない。
非常に癪だが、ボクの方から彼女に合わせてやるしかないか。
「しょうがないですね! なら腕を借りますよ!」
G・Gの筋肉でガチガチになっている背中を駆けのぼり、彼女の利き手に脚をのせる。
人一人が乗っているというのにビクともしない大木のような細腕。
その上から彼女を顔を見下ろすと、少し驚いたような瞳でコチラを見返していた。
手を貸すのがそんなに意外だったのだろうか。
「思いっきり上に投げてください! 遠慮は無用です!」
「何を企んでいるか分かりませんけど……分かりましたわ!! どっせぇぇぇい!! ですわ!!」
肩が外れそうなほどのGが全身にかかる。
急上昇の負荷が身体中を痛めつけて来る。
それでもなんとか手を動かし、ワイヤーガンをありったけ射出していく。
先端のアンカーがビルに刺さった瞬間にカートリッジを排出、次のカートリッジへ入れ替えるという息もつけぬ早業をこなさなければならないのだ。
「一本、二本、三本……!!」
次々と打ち込まれていく銀の糸。
陽光の下でならばさぞ綺麗なイルミネーションだろう。
しかし、ビル影の深く差すこの谷間では非常に目立たない。
「さぁ来やがれですわ、スットコドッコイ! アナタなんて、ワタクシだけで充分でしてよ!!」
「見つけたぜ、クソ女の片割れ! 一人だけかぁ? 身を挺して仲間を守りますってか? ケッ、クセ―んだよ!!」
「ワタクシに不可能なんてありませんの!!」
普段からやたらと声の大きい彼女の性質が役に立っている。
相手の視線はG・Gにだけに注がれ、トドメを刺そうとミサイルハッチを開いていた。
【チェック:ミサイルハッチ】
銃弾こそ特殊カーボンのスーツで弾く彼女だが、爆風や炎上には弱いことを知っているのだろう。
同業の中でもあの正確のせいか一際目立つ。公然の秘密といったところか。
だからだろう、勝ち誇った声が拡声器から伝わって来る。
(要はキミです。 頼みましたよ、G・G──)
それはボクにとっても逆転の始まりでもあるのだから。
「今度は逃げられねーぜ! 死ねぇ!! 大奮発だ!!」
『ボシュゥッ!! ボシュゥッ!!』
人間の胴回りほどもある大口径のミサイルが二発、メタルスーツの両肩から放たれた。
仮に一発はいなせても二発目が確実に獲物を焼き殺すという殺し屋稼業らしい殺意。
あの鉄の棺桶の中で、ドッペルゲンガーがさぞご満悦で舌なめずりしている姿が頭に浮かぶ。
しかし、対するG・Gはまったく逃げる素振りも見せず、地に根を張ったように両脚をピタリと動かさない。
「逃げる必要なんてありませんわ~!! ワタクシも! モチのロンで、『子犬ちゃん』も!!」
「何ィ!? 連れがまだいたのか……!? ど、どこに──」
「ヨシ、捕らえた! というか、なんでバラすんですかキミは!!」
ワイヤーガンの糸をまとめて鉄の左手に絡めていく。
全ての糸を腕に纏わせてると、それを思いっきり引っ張った。
『ビィン』
地上から空中まで隙間なく張り巡らされた銀の蜘蛛糸。幾重にも交わる線が網を作っていく。
宙を舞う二発のミサイルはまんまとその罠に囚われ、長い弾頭に首輪を付けた。
「なんだと!? ミサイルが止まった!?」
「やりましたわね! 『子犬ちゃん』!!」
「バカスカ撃ちすぎなんですよ。 何度も見てれば特性が分かります。 これは信管が潰れないと着火しないタイプです」
「これなら爆発しないってわけですわね!!」
「ぐっ……そんなアホ面で見上げてないで、手伝ってください!!」
重い身体を目標まで飛ばす推進力、それを二つ分。か細い女の腕一つではとても足りない。
今だって、予備のワイヤーガンを壁に固定してなんとかしている状況だ。
糸を絡めた左腕など、もはやミシミシと金属疲労の悲鳴でうるさいくらい。
いつ砕け散ってもおかしくはない。幸い、痛覚がないのだけが救いだろうか。
「させるかよ! ようは、探偵女をハチの巣にすりゃ解放されるんだろうが!!」
地上に佇むメタルスーツが、両腕のバルカンポッドを上に向ける。
確認するまでもなく狙いはボクだ。
「それはコチラの台詞ですわ!! とぅッ!!」
視界の外で力強く地を蹴る音が響く。
次の瞬間、身体を引っ張る力が一気に消失し、肩が楽になった。
ミサイルに何かあったのだろう。
「捕まえましたわよ~!!」
「遅いですよ! くっ、危ない!!」
彼女の言葉から、何をしでかしたのかは予想がつく。
それを信じてぶら下がっていた予備の方のワイヤーガンを手放した。
刹那の差で、ボクが留まっていた空間に銃弾の雨が横切っていく。間一髪、なんとか穴だらけにならず済んだらしい。
ボクの身体はそのまま落下し、途中でG・Gとすれ違う。
【チェック:G・Gの様子】
彼女は羽根も無いのに空中浮いていた。
実際には両脇に抱えたミサイルのおかげなのだが。
推進剤が減ったとはいえ、よくもまぁ、あんな暴れ馬を抑えつけられるものである。
「あとは頼みましたよ。 美味しい見せ場は譲ってあげます。 キミは目立ちたがりですから」
「オ~ッホッホ!! ワタクシのことをよく分かってますわね! それではいきますわよ~!!」
なにをするのかと思えば、彼女は抱えたミサイルごと宙返りしはじめる。
本来はG・Gへと向かうはずだった進路。それが180度回転したのだ。
つまり、撃った張本人の方へと向いたのである。
「んな、なんだとぉ!?」
「ワタクシ、無粋な殿方からのプレゼントはお断りしてますの。 これはお返ししますわ~!! せい、やぁぁぁぁ!!」
力任せの脳筋パワープレイ。
足りない推進力は腕力でどうにかしてやるとばかりに、彼女の剛腕が唸る。
再び発射されたその二発は、真っ直ぐにメタルスーツへと射られてしまった。
「クソ、クソ、なんでコントロールが効かねぇ!? ひ、ひぃぃぃ!!!」
鉄の棺桶の中で、男の困惑した悲鳴が響く。
当然だろう。今の推力のほとんどは、G・Gの純粋な筋肉の賜物だ。
遠隔操作でどうにかなる話ではない。
彼はそんなことを試みる前に逃げるべきだったのだ。もっとも、既に手遅れなのだが──
『ドゴォォォン!!』
特大の爆炎が路地裏を埋め尽くす。
籠った空間で逃げ道を失ったために、威力が増しているのだろう。
メタルスーツから最期の断末魔すら聞こえない程の轟音で耳がイカれるかと思った。
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