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File:31 デッドオアアライブ

 仮眠してすっかりと元気になったコテツを抑え、シャークドックへ降りる。


 途端に物凄い低音が鳴り響き、身体を芯から震わせた。


 同時に台風かと錯覚するほどの風圧と飛散するゴミが襲い掛かる。


『ブロロロロォンッ』


「ニ゛ャッ!?」


 コテツなんか驚きすぎてボクに跳び付いていた。爪を立てているのでちょっと痛い。


「うるさいですね……フカク君、その音を止めてください」


「あ゛ぁん!? 聞こえねぇよ!!」


 爆音に掻き消されているせいか、あるいは吹き溜まりのガラクタ山が壁になっているせいか。


 ガレージの向こう側にいる彼の耳には届かないらしい。


 このままではボクの一張羅がコテツの爪で台無しになってしまうではないか。


 スゥっと息を吸い込むと、目一杯に声を張り上げる。


「だ、か、ら──止めてください!!」


『ブォォン……』


 ようやくまともな可聴量に納まった。


 風でしっちゃかめっちゃかになったガレージを掻き分け進むと、なんとかフカク君の特徴的なリーゼントが見えて来る。


 あの風圧でもビクともしないとは、どんなワックスで固めているのだろう。


「まったく、何を考えているんですかキミは……」


「おう、久々に相棒を動かすからよ。 フルスロットルまでアゲて起こしてやんねぇとな」


「まさか街中までこんな調子で行く気ですか。 ボク達が何のために外出するか理解してます?」


「分かってるっつぅの、みなまで言うなって! だけどよぉ、この『ムラサメ』はカッ飛ばすためのチューニングしてんだ、仕方ねぇだろ」


 バツの悪そうに答えながら、彼は軽くバイクを叩く。


 すると、ゴンという重い音が返って来た。聞くだけで中身のギッシリ詰まった重量感に圧倒される。


【チェック:フカク君のバイク】

 大昔のアメリカなどで流行った大型のバイクに近い形状だ。

 タイヤは大きくボクが跨れば脚も着かないだろう。

 どことなく鮫に似た意匠がデザインに取り入れられているのは彼の趣味か。


「昔、ヤンチャしてた時のでしたっけ」


「まぁな。 あれは『おやっさん』に拾われたくらいの頃だったぜ。 暴走族(ハシリヤ)(ヘッド)やっててな──」


「あ、昔話は結構です。 さっさと行きましょうか」


「おい! 今のはオマエの方から話を振ったんじゃねかよ!!」


「ニャにこれ! マサムのヤツより、デッカイ!! 丸いのも、二つニャ!」


「フカク君の二輪車です。 ボク達は……さて、どこに乗りましょうか」


「スルーしてんじゃねぇよ!? ま、いいか──マサム姉たちはオレ様の前に乗っとけ。 風が最ッ高だぜ?」


「分かりました。 この座高差だとボクも邪魔にならなそうですし」


「コテツは? ね! コテツは!?」


「キミはボクの前ですね。 いつもと一緒です」


「うニャ!」


「決まりか? んじゃ、オメェら乗りこめ。 つっても、アテはあんのか? 何処行きゃいいんだよ」


 バイクがあまりにも大きすぎて、そのままでは乗りこめない。


 フカク君の手を借りながら乗馬するように脚を上げて跨る。


「一応、行きたいところはあります。 ですがその前に、まずは表へ回ってください。 脱走したゴリラに用事を伝えないといけないので」


 フカク君の身体に遠慮なく背中を預けると、続けてコテツを引っ張り上げる。


 流石に座席は空いてないが、彼女は気にせず天板の上にチョコンと座ってくれた。


「あのブルジョワも連れてく気かよ!? 流石にコイツをぶっ壊されるのは勘弁だぜ?」


「ボクだって御免ですよ。 言伝を残していくだけですから安心してください」


「ならヨシ! そんじゃ行くぜ」


「行くニャ!」


『ブロロロ──』


 少し身構えたが、先程のような恐ろしい爆音は襲ってこなかった。


 普通のバイクよりかは煩いが、それでもアレに比べたらマシというもの。


 その音もすぐに止まってしまった。


「この辺か? お、アイツじゃね?」


 ガレージからグルっと回った表通り方面。


 停車したバイクから一望すると、すぐに目的の人物は見つかった。


 なにせ、人の積み重なった山の上でふんぞり返っていたのだから目立つ。


【チェック:人山の上のG・G】

 アホみたいな顔で決めポーズでしている様は、まさにお山の大将。

 観察していると、ちょうど不意打ちをする男が上から降って来た。

 彼女がそれを軽くいなし、ぬいぐるみのように軽々と振り回して元の場所へと放り投げ返しいた。


「G・G! 少しいいですか?」


「あら? お~っほっほっほ! 『子犬ちゃん』じゃないですの! ワタクシになにか御用でして?」


 まるで彼女だけ重力の設定が狂っているかのように、ひとっ飛びで二車線道路を越えて来た。


 相変わらず人間離れした運動能力である。


 踏ん張った際、山と詰まれた人間から悲鳴のような声がしたのは気のせいだろう。


「話の前に、『アレ』──なんなんですか?」


 先程ジャンプ台にされたモノを指す。


 周囲には争いの形跡があり、ただごとでは無いことを物語っていた。


「あぁ、なんてことないですわ~! 何故かワタクシのことを『横取り』呼ばわりしてくる無粋な方がいらっしゃったので、コテンパンにノシて差し上げましたの!!」


「なるほど、サイトウ氏の賞金は結構高値になっているわけですね」


「まぁ! そういうことだったのですわね! ちょっとお待ちを──」


 ボクの話で合点がいったのか、彼女はポンと手を叩いて頷く。


 すぐにコメカミの辺りに手をやると、しばらく口を閉じたまま沈黙した。


 神経拡張機(ニューロナイザー)でネットにアクセスしているのだろう。


「ビンゴですわ! 賞金首『サイトウ』──生死不問(デッドオアアライブ)、既にレッドボーダーを超えてましてよ~! これで力加減を誤ってブッ殺しちゃいましても、怒られませんの!! やりましたわ~!!」


「どうりで──物騒なモノが落ちてると思いましたよ」


 道路の向こう側に散乱する重火器の数々。


 G・Gはそれを徒手空拳で全て返り討ちにしたのだろう。恐ろしい女だ、敵には回したくないものである。


【チェック:賞金額】

 新警察の定める賞金にはランクがある。

 とはいっても生け捕りか、生死を問わないか、ぶっ殺せ、の三択だけだが。

 だが生死不問でもかなりの額がつかなければ、そうそうならないはずなのだ。


「しかしデッドオアアライブですか……『ドッペルゲンガー』も派手に暴れているみたいですね」


「ドッペルゲンガー? なんのことですの、それ?」


「いや、オレ様も聞いてねぇぞ?」


「コテツも! コテツも聞いてニャい!」


「ボクがたったいま名付けた犯人の呼称(ユニーク)ですよ。 呼び名が無いと不便でしょう」


「なんだそりゃ? なんかの造語か?」


「ワタクシ思い出しましたわ! ドッペルゲンガーってあれですわよね? 同じ顔のオバケさん!」


「ねー、オバケってニャに?」


「あら、知らないんですの、オチビちゃん。 オバケは、と~っても恐ろしいモノのことですわ! だって、殴っても死なないんですのよ!?」


「はニャ!? ニャにそれ、怖い!!」


 ホログラムにすら驚くコテツだ。G・Gの話を真に受けてしまったらしい。


 尻尾をくるんとお腹側へ丸めて、不安そうに抱きしめている。


「オメェらの基準は殴れるかどうかなのよ……」


「コテツはともかく、子供と同レベルの大人がいることに驚愕ですね」


「まぁ! 『子犬ちゃん』もオバケが怖いんですの!?」


「キミのことを言ったんですよ……」


 トボケているのか真面目に言っているのか。


 オツムまで筋肉の女の真意は、開いて覗いているまで分からない。


「まぁいいですけど。 それよりも、『キミにしか』頼めないことがあるのですが──」


「お~っほっほっほ! この、ワタクシに! 『子犬ちゃん』がですの!? んも~どうしようかしら! どうしてもとおっしゃるのなら、考えて差し上げてもよろしくってよ~!!」


「ハァ……本当に不本意ですが、どうしても……ですね」


「まぁ~そうでしたのね! そんなにワタクシが必要だと!!」


「あぁ、ハイハイそうです。 お願いですから話を聞いてもらっても?」


「よろしいですわよ~!! お~っほっほっほ!!」


 破天荒だが単純な女である。少し下手に出れば調子に乗せるのは簡単だった。


 途中で少し面倒になってきたが、とりあえず承諾の言質は取れた。


 プライドが無駄に高いので、何を言いつけても約束は守るだろう。


「『猿もおだてりゃ木に登る』っつぅけど、ゴリラも例外じゃねぇんだな」


「何か言いまして!?」


「おっと、コイツは不覚! 今のは聞かなかったことにしてくれや」


「フンッ! これだから殿方はデリカシーが無くて嫌なのですわ!」


 フカク君がポロっとこぼした失言で、危うく彼女の機嫌を損ねるところだった。


 余計なことをしないでほしいものである。

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