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聖女、契約妻を拝命する 3


 ***


 再びシルビアが目を覚ましたとき、すでに馬車は動き出していた。

 なぜか、狼閣下ライナスが、向かい合わせに座っている。


「……よく眠るな」

「あっ、申し訳ありませ……」


 謝ろうとしたシルビアの唇に、もふっとした指先が添えられる。

 パチパチと瞬いた紫の瞳に、狼の顔が近づけられて、ニヤリと笑う。


「謝るな」

「え?」

「シルビアは、俺の妻になった。周囲に簡単に頭を下げるのは望ましくない」

「……でも、謝らないと怒られてしまいます」


 どちらかといえば、謝ったところで心ない人たちには叩かれた。

 働きもせず、こんな風に眠ってばかりいたら、怒られてしまうに違いない。


「……これからは、俺が守ってやろう」

「ライナス様が?」

「ああ、傷を治してもらったおかげで、また、戦えそうだからな」

「傷、ですか。よくケガをするのですか?」


 その言葉の意味が分からずに、ライナスはシルビアのあまりに透明な瞳をのぞき込んだ。

 もちろんそうだろう。ライナスは、いつだって前線で戦ってきた将軍なのだから。


 黙ってしまったライナスの様子から、なにかを察したのだろう。

 シルビアが、話題を変える。


「……あ、そうだ! ワンピースと靴、それにお薬まで、ありがとうございます」

「礼には及ばない」

「と、ところで着替えは誰が」


 おずおずとシルビアが見上げると、ふっ、といかにも楽しそうにライナスが吹き出した。


「気になるか? だが、もちろん女性将校に頼んだ」

「そっ、そうですよね!」

「薬を塗って処置したのは俺だが」

「えっ!」

「……そもそも、まだ、子どもだろう。そんなことを気にするのか」


 妻にするといったのに、ライナスは本気で言っているようだった。

 シルビアは、頬を膨らませる。


「神殿に来てから13年。もう、16歳になりました! 結婚も出来る年です! 分かっていて、私をお嫁さんにしたのではなかったのですか?」

「え? 俺と3歳しか違わない……?」


 信じられないとでもいうように、ライナスはシルビアを見下ろしてくる。

 狼頭だから分かりにくいけれど、ライナスは19歳らしい。


「え? だって、お嫁さんに……」

「契約婚だ。年齢は関係ないだろう。だが、16歳というのなら都合がいい」

「……契約婚」

「期間は最初に話したとおり1年だ。その間、俺はシルビアのことを全力で守り、願いを叶える。だからシルビアは、俺を裏切るな」


 考えていたお嫁さんとはずいぶん違うようだ、とシルビアは思う。

 けれど、不思議なことに目の前の男性への嫌悪感は少しも湧かなかった。


「……では、私からは一つだけ」

「ああ、一方的なお願いだ。何でも言えばいい」

「たまに、触れてもいいですか?」

「は?」


 温かかった体温が忘れられない。

 誰かに抱き上げてもらった記憶なんて、シルビアにはないから。


「……あ、ごめんなさい」

「容易に謝るな、と言っている」


 そう言いながらも、その声には怒りは滲んでいない。

 ギシリと馬車の床が音を立て、次の瞬間、シルビアはライナスに抱き上げられていた。


「ああ、俺の答えはこうだ」

「ライナス様!?」

「お安いご用だ」


 馬車は揺れる。

 小さな子どもみたいな触れ合いは、やがて姿を変えていく。

 けれど、そのことを知っている人など、まだどこにもいないのだった。

ご覧いただきありがとうございます。


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どうぞ、よろしくお願いします(*´人`*)

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