聖女、王宮に招待される 1
* * *
シルビアの姿が整えられれば、使用人たちからは感嘆のため息がこぼれた。
白く美しい肌と金の髪、そして紫水晶のような瞳を持ったシルビア。
白いドレスは、そのどこか危うい美しさを際立たせている。
「美しいです。奥様」
年配の柔らかい雰囲気を持った侍女がシルビアを褒めてくれる。
長老様以外には、ほとんど褒められた経験がなかったシルビアは、思わず赤面してしまう。
でも、とシルビアは思う。聖女の印を隠さなくてもいいのだろうか、と。
少しでも、聖女の印が見えてしまうと、ひどく打ち据えられた。
けれど、ここにいる人は、事前に説明を受けているのか誰も、シルビアの左肩に咲いた赤い薔薇の印を気にしていないようだ。
その時、来客が告げられて、急に周囲が慌ただしくなる。
困惑した様子の執事に連れられて、シルビアは玄関で来客を出迎えた。
「君がライナスが迎えたという奥方か……」
「あの」
目の前にいる男性は、月の出ないあの夜、湖の前に佇んでいた、ライナスの姿に似ていた。
だがその瞳は赤く、黒い髪の毛をしていることからも、ライナスより近寄りがたく恐ろしい印象を受ける。
ようやくシルビアは、王弟殿下だというライナスによく似た人は、王族に違いないということに思い当たる。
そして、内心ひどく慌てながらも、白いドレスの裾をつまんで優雅に礼をした。
「――――ふむ。なかなかだな。大聖女に育てられたというのは本当なのか?」
確かに、長老様はかつて大聖女をしていたとシルビアも聞いていた。
シルビアにとっては、唯一自分に目を向けて優しくしてくれる存在だが……。
「はい。物心ついてからずっと神殿で過ごしておりましたので、私の育ての親は大聖女様でいらっしゃいます」
事実、聖女として神殿に連れてこられたシルビアは、六歳になり公爵家令嬢に聖女の印が現れるまで正式に、当時はまだ大聖女様と呼ばれていた長老様の下で過ごしていた。
その後、神殿の最下層に追いやられたが、なぜか長老と呼ぶように、と言って大聖女様は、いつもシルビアを見守ってくれていた。
時に厳しく優しかった長老様を育ての親というのは少し違うのかもしれない。
けれど、シルビアにとって唯一の家族は、長老様しかいなかった。
「――――ふーん。ところで、聖女の印……。こんなに美しく大輪の薔薇、文献でもほとんど見たことがない。大聖女様にもかつては、美しい花が咲いていたというが……。まあ、新たな聖女が生まれれば、消えてしまうはずのものだ。今となっては知りようもない、か。ところで」
「陛下!!」
その時、ひどく慌てた声が聞こえた。
声の主を理解したシルビアは、安堵の息を吐く。
狼の頭をしていても、いつもの黒を基調にした軍服ではなく、白と青を基調にした美しい正装姿のライナスが、足早にシルビアに近づき、目の前に立つ。
「おや、そんな顔も出来たのか」
「…………お戯れを」
陛下と呼ばれたということは、目の前の男性は国王陛下に他ならない。
シルビアは、困惑しながらももう一度深く礼をするのだった。
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