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聖女、契約妻を拝命する 10


 ライナスの屋敷は、王都の東側にあった。

 周囲は、なぜ王都にこんな場所があるのか不思議になるくらい緑豊かな森だった。


 その屋敷の、銀色の装飾はほとんどない重厚な門をくぐった先、神殿以外に大きな建物を見たことがなかったシルビアは、目を瞬いた。


「――――お城?」


 5階建て、さらに4つの尖塔を持つその屋敷は、白く巨大だった。

 馬車が停車すると、軽いノックの後すぐに扉が開く。


「……あの」

「お待ちしておりました。シルビア様」


 恭しく礼をしたあとに手を差し伸べてきたのは老齢の執事だ。

 柔らかい物腰と、優しげなグレーの瞳に、シルビアはホッと息をついてその手を取る。

 まるで、体重なんてないみたいに、可憐に降り立ったシルビアに、玄関の前で控えていた、たくさんの使用人たちが感嘆の息を吐いた。


「ありがとう」

「いいえ。今日からあなた様の家なのです。どうか、のんびりとお過ごしください」

「家……?」


 シルビアにとっては、神殿の地下三階、冷たくて少しジメジメした場所が住まいだった。

 物心ついたばかりで、聖女として家から連れ出されたシルビアには、家というものがなかった。


「どうか、よろしくお願いします」


 ライナスに買ってもらった、淡いピンク色のワンピース、その端をつまんで優雅にお辞儀する。

 その所作は、高位貴族にも負けないほど洗練していた。


「……どうぞこちらへ」


 屋敷の中は温かく、可愛らしい花であふれていた。

 ライナスは、どちらかと言えば、先ほど通ってきた門のように、少し無骨で質実剛健な印象を受ける人だ。

 それなのに、可愛らしく飾られた花は、どこかライナスの印象とはかけ離れているようだ。


「……可愛い花ですね」

「ええ、普段はそんな物いらないと仰るのに、心境の変化があったようです」

「そうなんですか?」

「ええ」


 柔和に微笑んだ執事、その先には、お仕着せを着た使用人が列をなしていた。

 全員が、少しのずれもないお辞儀を披露するものだから、シルビアは素直に感心してしまう。


「さ、お疲れでしょうが、まずバスルームにご案内致します」

「お風呂……ですか」


 残念なことに、シルビアはいつも冷たい布で体を拭くだけだった。

 清浄魔法を掛けていたから、そこまで汚れていないはずだけれど、やはり高貴な家に仕える方々からすると、薄汚れて見えるのかもしれない。


「そうですよね……」

「さあ、こちらに」


 その後、温かくていい香りがするバスタブに浸かり、お断りしたにも関わらず笑顔のままの使用人たちに磨き上げられて、整えられた。


「奥様は、お肌が美しいから、お化粧はほんの少しでいいですね」

「……あの」

「少しだけ、髪の毛を切りそろえてもよろしいでしょうか?」


 確かに、シルビアの髪の毛は、自分で切っていたから整っているとは言いがたい。

 頷くと、軽やかな音とともに、シルビアの髪の毛は整えられた。

 そのまま、複雑に編み込まれたハーフアップにされ、銀色のリボンが結ばれる。


 袖を通した軽やかで着やすいドレスは、まぶしいほどの白。

 ドレスの裾はドレープを作りながら、ストンと落ちる。

 一見してとてもシンプルな物だが、流れるようなドレープ、使われているレースはとても繊細で、一目で上質だと分かるものだった。


「あの、このドレスは……?」

「ああ、サイズがあっていてよかったです。途中、服飾店に寄られたそうで。ライナス様の指示により、そちらの店主からサイズを確認して参りました」


 初めて袖を通すのに、そのドレスはシルビアにぴったりと合っている。

 いつもライナスが買ってくれるワンピースは、間違いなく子どもっぽいが、今日のドレスは大人びたデザインだ。


 侍女が、首元に透明な中に七色の輝きを秘めた宝石が飾られたネックレスを下げれば、シルビアの姿は、見違えるようになった。

 そして、なにより肩口が広く空いたデザインのため、シルビアの左肩に浮かぶ大輪の薔薇、聖女の印がハッキリと見えるのだった。



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