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テーマなし詩集

よくわからない もじゃもじゃ

作者: 歌川 詩季

 バーガー、みっつくらい食べたい。


 チーズ。

 てりやき。

 ちゃんとチーズのはさまった、フィッシュ。

 翼のない背中を見られるのが

 はずかしくて

 なんだか よくわからない もじゃもじゃを

 かわりにつけといた


 ものめずらしそうに見られたら

 むしろ おしゃれでしょって顔をして

 バーガーショップの 左にゆがんだ列にならぶの

 シェイクはMでお願いします



 よくらわかならない もじゃもじゃ じゃあ

 空なんて飛べないって わかってたから

 2F(にかい)の奥の ボックス席に

 じょうずな あんよで トレイをはこぶよ

 ちょっと しずかにしてて


 かたいシートと 背中ではさんで

 よくわからない もじゃもじゃを

 ぺちゃんこにしながら

 カリカリだけど 塩気の足りない

 ほっそいポテトをかじる またかじる



 ナゲットのソースを ぺりって

 あけたあたりで きづいたものは

 驚愕(きょうがく)だけど 周知の事実

 あたしのまわりには だれひとり

 背中に翼のあるひとなんて いなかった

 それなのに みんな 平気って顔をして

 チーズバーガーを 注文してたんだ


 あたしは おでこと ほっぺが

 かぁっと あつくなって

 よくわからない もじゃもじゃを

 かたいシートと 背中のあいだに

 はさんで かくしたまま

 うつむきながら ナゲットを口にはこんでた



 翼のない背中を見られるのが

 はずかしくなったんじゃなくて

 翼のかわりに 背中につけてた

 よくわからない もじゃもじゃが

 はずかしくなったんじゃなくて

 翼がないのを ごまかしてるのが

 なんだか はずかしくなったんだ



 そしたら 店内放送で

 絶滅したなんとかサウルスが

 翼は背中に はえるんじゃなくて

 とびたくて はばたこうとした

 両手にはえてくるんだって 教えてくれた


 あたしは カバンからノートを出して

 とちゅうかけの へたくそな少女マンガの

 つづきを()きはじめずには いられなくなった

 登場人物は 5人いるけど そのうち ひとりでも

 ハッピーエンドなら 上出来だろう


 翼は背中に はえるんじゃなくて

 こころにはえてくるんだって

 もっともらしい おとしどころなんてのは いらない


 はしらせた えんぴつが

 はねペンに見えるくらい

 ちっぽけでいいから

 あたしの手からも 翼がはえたらな



 ちょっと つめたくなったバーガーと

 ぎゃくに とけて ぬるくなったシェイクを

 ぜんぶ たべおわったら

 よくわからない もじゃもじゃを

 トレイのごみと いっしょにすてて

 じぶんの部屋で このつづきを()くことにする

 もじゃもじゃは、持ち帰って捨てたほうが、よかったかもしれません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「新着の短編小説」の中に、こちらの作品があったので読ませていただきました。 マクドナルドの店内に、不思議な女の子がいる。 壮大な物語ではなく、日常の中にいて。 大島弓子さんの少女マンガの一…
[一言] おんなの子、 不思議ですよね おんなの子や なんとかサウルスは 流行り廃りの象徴 または、在り方の象徴なのか とも捉えてました 言葉通りのみ世界観の可能性ももあるけれど 考え方も同じで …
[一言] 確かにもじゃもじゃは持ち帰って捨てたほうがいいですね 他人と自分が違うんだってことを 初めて認識したときは どことなく恥ずかしくなって 周りがみんな自分を見ているのではないかって そんな気…
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