第64話 リッタの作戦
ズゴン!
聞こえてくる、なにか衝突するような音。
寝ていた体を起こし、音のする方を見てみると、フレデリカが杖でヴァンパイアの攻撃を防いでくれていた。
「フレデリカ!」
「リッタ……。起きたんだね……」
苦しそうに声を震わせて言ってくる。
「んっ! くぅ……。リッタ……。はんっ! 限界……」
「ちょっと楽しんでない?」
「少しだけこの声を出すの楽しい」
「余裕じゃん」
「壊れちゃう……。あっ! フレデリカ的に物理苦手だからまじでやばす」
言葉通り、フレデリカの杖が押されている。
このままではフレデリカがやられてしまうので、俺は聖剣を持ち、ヴァンパイアに斬りかかる。
流石にまともにくらうわけにもいかないヴァンパイアは後ろにバックステップするので、俺もフレデリカを片手で抱きかかえてエリスの方へと距離を取った。
「相変わらずフレデリカ軽いな」
「この軽い体を貫くことを思うと興奮する?」
「激しい戦場でも1下ネタいただきました」
今日のノルマも達成でございますね。
「確かにフレデリカも軽いかもだけど、それってルナがゴリラなだけじゃない?」
近くにいたエリスがボソリと呟くと、光の剣撃が飛んでくる。
「ひっ!」
その剣撃をエリスが間一髪で交わす。
「聞こえてますよぉ……。エリスさぁん……」
「あは、あはは……」
ガイコツの王と戦っているのに、片手間でエリスに攻撃を加えるなんて、余裕だな。
確かに、今はガイコツの王をバラバラにしているから余裕があるのか。すぐに復活するけど。
ヴァンパイアは距離を取って、王妃の方にいる。その王妃はヴァンパイアに抱きついていた。
さっきの場面を知る俺からすると、なんとも涙ぐましい光景だな……。
……。
この戦いは無意味な戦いだ。なんの意味もない。早く終わらさないといけない。
そう思うのと同時に、俺の脳裏にはある作戦が思い描かれた。作戦と言っても大したものじゃないし、上手くいくかもわからない。しかし、やってみる価値はありそうだ。
もう少し、みんなに頑張ってもらわないといけない。
「ルナ! 大丈夫! シルバーコングなルナも大好きだぞ!」
大声で言ってやると、ここからでもルナの瞳が♡マークになるのが見えた。
「ウッホオオオオオオオ♡」
「マジなゴリラやん」
清楚で麗しい、ザ・美少女で男の妄想のルナがゴリラ化した。
「リッタ様ぁ♡ 私も大好きですよぉ♡」
ここが戦場であることを忘れているかのように、ルナはこちらに向かって大きく手を振ってくる。
待ち合わせでようやく大好きな彼氏に出会えた付き合いたての彼女みたいに。
ただ、後ろから変質者が現れていた。
復活を果たしたガイコツの王が後ろからルナに斬りかかろうとしていた。
「邪魔Death」
ルナがすぐさま振り返り、聖剣で1太刀入れてやると、ガイコツの王様は吹っ飛んで行った。
「あなたなんDeathか? 私達の愛の時間を邪魔してくれて死にたいんDeathか?」
「ルナちゃんルナちゃん。もう、その人死んでると思うよ」
「さっきから斬っても、斬っても復活して……なんですか? 斬っても斬っても斬れないものな〜んだ? の正解の方ですか?」
「それって水だよね」
「下衆がっ。私とリッタ様の愛の時間を邪魔した罪。万死に値する」
「だからもう死んでるんだってば」
ローラが頑張ってツッコミに回ってくれているけど、負のオーラを包んだルナはガイコツの王をしばきに行った。
あれじゃ聖騎士風のエロガッパじゃなくて、暗黒騎士風のチョロインだな。
なにはともあれ、ガイコツの王様はルナ1人に任せても良さそうだ。
ヴァンパイアは王妃に抱きつかれて身動きが取れなくなっているが、いつ動くかわからないな。
「ローラ! ヴァンパイアが攻撃をした時は頼めるか!?」
声をかけると「えー」と駄々っ子みたいな声を出す。
「あたしには愛の言葉ないのぉ?」
「好き!」
「うへ♡ ヴァンパイアをリッタくんとの愛の炎で浄化してくるね♡」
「あ! ばっ! 無理に……」
今はなにもしなくても良いのに……。
そう言おうとしても、もう遅かった。
ローラはヴァンパイアに攻撃を仕掛けてしまった。
ま、まぁ……ローラだし、心配ないだろう。
「ローラへの愛。雑じゃない?」
エリスの質問に笑いながら返す。
「そう?」
「単細胞のローラにはあれで十分」
フレデリカの言葉に「それもそうね」と納得するエリス。
「フレデリカ。エリス」
俺は改めて後衛組に目を配ると、自分の策を伝えることにする。
「俺の言ってることに疑問を抱くかもしれないが聞いて欲しい」
喋り始めると2人は、コクリト頷いてくれる。
「ネクロマンサーは死んでいる。王様と王妃様。そしてヴァンパイアは強い思念で現世に留まっているかもしれない。それを断ち切ってやれば成仏してくれるかも」
そこで、と一呼吸置く。
「思うことがあるからそれを実行したい。俺は一旦、ここを離れてあるものを探すから、2人はいつも通り前衛の支援を頼めるか?」
雑で疑問が生まれるだろう内容だが。
「リッタが言うなら任された」
「聞きたいことはあるけど、後で聞くことにするわ」
2人はとりあえずは指示を聞いてくれたが。
「でも」
呆れた顔をしたエリスが戦場を見る。
「支援……。いるかしら……?」
エリスの視線を追うと。
「おらおら! リッタ様との愛の時間を邪魔した罪はこんなもんじゃ済みませんよ!」
さっきまで互角に戦ってたガイコツの王を四つん這いにして、ルナが思いっきり尻を聖剣でしばいている。
あれは……王様も楽しんでいるのでは?
そして隣を見ると。
「浄化浄化浄化浄化浄化浄化。愛の炎は永遠だよおおオオオオオオ」
狂ったようにヴァンパイアに蹴りを入れている拳の勇者。
ヴァンパイアは引いている。ドン引きしていた。
王妃は『綺麗な炎』みたいな感じで2人の戦いを見ていた。
「いらないかも……」
「ま、まぁでも、いざという時は……ね」
「頼んだ」
そう言って、俺が現場を離れようとした時、俺の服をフレデリカが掴む。
「フレデリカには愛の言葉ないの?」
言われて俺はフレデリカの頭を撫でた。
「好きだよ。フレデリカ」
「性欲100倍。フレデリカ!」
「色々アウトよ! ロリッ娘!」
エリスのツッコミが冴え渡ると、チラッとこっちを見てくる。
「ん? エリスも欲しい?」
「は、はぁ!? べ、別にあんたに好きとか言って欲しいなんて思わないわよ!」
「そ。じゃ」
冷たく言い放って俺は駆け出した。
「あ! 本当になにも言わない気!?」
俺は後ろから聞こえるエリスの声を無視して駆け出した。
「ちょ! まっ! え!? 本当に言わないの!? なんで!? この流れで!?」
俺は後ろから聞こえるエリスの声を無視して駆け出した。
「本当なの!? 本当にわたしだけなしなの!? ねぇ! リッタ! ごめんなさい! 欲しいです! リッタの好きがわたしも欲しいです!!」
そう叫ぶエリスに振り返り笑顔で言ってやる。
「べ、別にエリスのことなんて好きじゃないんだからねっ!」
「なんか思ってたのとちっがーう!! 色々思ってたのとちっがーう!! ツンデレにツンデレは合わないっ!」
ポンポンとフレデリカに背中を叩かれているエリスを最後に見て、俺は今度こそ駆け出した。




