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第57話 ほぼお化け屋敷

 大扉を開けて入った『フラン城』内部。


 当然と言えば当然で、中は真っ暗であった。


「ふ、ふふ、フレデリカ!『ルクス』を唱えてくれよぉ!」


 震える声で言うと小さく「無理」と言われてしまう。


「リッタ。もう忘れたの? ここでは魔法は使えないのよ」


 暗闇の中でエリスが優しく言ってくれるが、優しさだけではこの恐怖心は拭えない。


 さっきみたくネクロマンサーネタで、恐怖を怒りへと変化できるかも知れないが、廃城というお化け屋敷みたいな場所に乗り込み、おまけに部屋全体が真っ暗だったのなら同じネタじゃ俺の恐怖心は消えないだろう。


「だ、だれか! 灯りを! 灯りを灯してくれ!」

「リッタくん。今明るくしてあげるからね」


『鳳凰煉獄脚』


 ローラがお得意の炎のスキルを使用すると一部だけだが明るくなる。


 建物の壁等は見えないが、ルナ、ローラ、フレデリカ、エリスの姿ははっきりと見えた。


「よし! ルナ! ルナ!」

「はい♪ リッタ様」


 俺はルナを『アッパーコンパチブル』して彼女の能力を得た。


「って……。なんでルナなのよ! 辺りは暗いし、炎のスキルを使えるローラを『アッパーコンパチブル』した方が良いでしょ!」


 エリスのもっともな意見。


「うるせええ! 怖いからルナの碧眼で癒されたかったんじゃ! ぼけえ!」

「2回目!?」

「そうですよ! なんちゃって妖精王さん。私達の邪魔しないでください」

「コンボで言われる!? わたしまともなこと言ったのに!?」


 エリスの嘆きのあと、ケンケンっと片足でローラがエリスに近づいて肩に手を、ポンっと乗せた。


「うんうん」

「あんた、器用にこっちまで来なくても良いのよ。色々わかってるから」


 はぁとため息を吐くエリスを無視して俺はフレデリカを見た。


「フレデリカ! 思いっきり殴ってくれ」

「把握」


 フレデリカは俺の言葉になんの不信感も抱かずに杖を出した。


「なんであんたらは自然と変なプレイをしようとしてるのよ!?」

「うるせえぞ妖精王! この恐怖心はロリに殴られないと消えないんだよ! ボケえ」

「3回目!?」

「へたれ妖精王はそこで見とけ」

「コンボ技の2回目!? もういや……」


 エリスは手で顔を覆ってしまった。


 そんなことはどうでもよく、俺はフレデリカに尻を向けた。


「きゃもんぬ! フレデリカ! きゃもーんぬっ」


 パシパシっと自分の尻を叩くと、フレデリカは思いっきり振りかぶった。


「愛してる。リッタ♡」


 バチコオオオオオ!


「ぎゃああ!」


 凄まじい俺の尻がしばかれる音。


 ルナの能力を得ていても非常に痛い。痛いのだが、いけないなにかの扉が開いてしまったみたいだ。


 そんな扉を開いた俺は、数m吹き飛ばされてしまう。


 かと思っていると、ゴゴゴゴゴ! と地鳴りがした。


 ゴオオオオオオン!


「「「きゃ!」」」


 向こうの方で女性陣の短い悲鳴が聞こえる。


「みんな!?」


 なにがあった? 一体なにが起こった? 変態プレイしたから? ロリっ子変態プレイに謹んでいたからバチが当たった?


 状況がわからず、真っ暗な部屋に1人。これはビビり的にやばい状態。えぐい。


「おおおおい! みんなああああああ!」


 必死に呼んでみるが返事は。


「大丈夫? リッタ」

「ひっ!」


 まさか返事があると思ってなかったので、ビビった声を出す。


「わたしよ、わたし。エリスよ」


 声だけが聞こえる。エリスの声だ。


「えりずうう。どごだおぉ」

「ここよ、ここ」

「どごなんだおお」


 声だけ聞こえるので逆に怖くなってくる。


「まったく……。しょうがないわね……」


 呆れた声を出しながらエリスが俺の手を握ってくれる。


「怖いのなら、わ、わたしが手を握ってあ、あげるから。安心しなさい……」

「ぬめっとしてる。え? なに? 緊張してるの?」

「あんたしばき回すわよ?」

「ああ。強めに頼む」

「リッタ……。今日のあんた、絶好調ね……」

「どっちかというと絶不調だがね」


 しかし、エリスに手を握ってもらって少しは安心できる。


 そんなことを思っていると。


 パっと城全体が明るくなった。


「「え……」」


 どうして城が明るくなったのか理解に苦しむが、俺の手を握るエリスの顔が少し青くなっているのがわかった。


「目の前に。美少女が。いたんだよ」

「あんた……。なんでこの状況で一句読めるのよ……。しかも季語ないし」

「怖さの限界を超えた」

「あんた……目がすわってるわよ……」

「あはははは……」

「そりゃ、この状況でいきなり明るくなったら怖いわよね。わたしでも今ビビりまくってるもの。でも、格下を見ると自信になるって言うの? 安心? ゲスだけど、そんな感情が芽生えているわ。わたしよりビビッてくれてるおかげで、わたしは大丈夫よ」

「俺は腰が抜けた」

「ちょっと待ってなさい」

「あ、エリスぅ……」


 俺の手を解いてエリスが、トコトコと歩いて行ってしまう。


 視線の先を見ると、大扉の前に大きな穴が空いていた。


 先程の騒音は、玄関の前に穴が空いたみたいだな。そして勇者パーティの悲鳴は穴に落ちてしまった時の悲鳴だったか。


「みんなー! 大丈夫ー!?」


 穴に向かってエリスが声を出すと「大丈夫ですー!」とルナの声が聞こえてくる。


「みんな運ぼうかー!?」


 エリスは飛べるので、飛んでみんなを運ぼうかと提案するが。


「大丈夫だよー。3人運ぶのは大変だろうしー!」


 次はローラの声が聞こえてくると、すぐにルナの声がした。


「こっちにも通路がありますー! こっちはこっちで進みますのでー! そこで待っていてくださーい!」

「おっけー!!」


 3人は気を利かせて歩いて戻る様子だ。


「ってことでここで待機ね」

「ここで?」

「まぁ……気味の悪い場所だけど、仕方ないじゃない。わたしもいるんだし、大丈夫でしょ?」

「本当に……。エリスがいなかったら、この城破壊してたわ」

「やめなさいよ……」

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― 新着の感想 ―
[一言] ビビりすぎて破壊神になってしまうとは/w よほどのトラウマでもあるのかなあ。 魔法は使えなくても飛行はできるのかな? 飛べると思って穴に入ってそのまま落っこちてしまったり/w また二人だけ…
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