第43話 勇者パーティと別行動
「──てな訳」
説明をしながら家具屋を出る。
エリスが俺達の前に急に現れたのは、ノーシュヴァイン王からのクエスト要請が入ったかららしい。
店を出て、ポンっとフレデリカが手を合わせる。
「なるほど。王からの要請なだけに?」
「そうそう。王からの要請なだけに妖精王直々に──って、なに言わせてんのよっ!」
「テンションたけぇ……」
下ネタの次はくだらないギャグとは……。
「バカなこと言ってないで行くわよ。ルナを謁見の間で待たせてるんだから」
「ん? ローラは?」
そういえばダイセン町を出てからローラを見ていない。
彼女を直近で見たのはゆかた姿が最後だったな。
「ああ。あの子は『ワルツワットの森』に籠ってるみたいよ」
「ええー。あの森って魔物がわんさかいるんじゃないのか?」
ワルツワットはノーシュヴァイン城から南下したところにある綺麗な森だ。綺麗で環境が良いからこそ魔物が住みやすくなっており、森のそこいらに魔物が住んでいる。並の冒険者じゃ森を抜けることはできない。
まぁ、抜けたところであるのは廃城しかないのだがね。
なので、ワルツワットの森に近づくメリットはない。
「だからでしょ」
エリスが呆れた物言いで説明してくれる。
「あの子。リヴァイアサンとの戦いの後、修行するって言ってたからね。絶好の修行場所ってわけよ」
「ああー。言ってたな」
「もしかしたら、今頃、あの森の魔物を全滅させてるかも」
冗談めかして言うエリスの言葉を想像してみる。
「──いや、エリス。割と冗談になってないぞ」
マジな声で言ってやるとエリスから乾いた声が聞こえてくる。
「あはは……。そうね……」
コホンと咳払いを1つするとエリスはフレデリカを見る。
「というわけで、今回は3人でのクエストになるっぽいわね。無理にローラを引っ張り出さなくても良さそうなクエストみたいだし」
「そう。わかった」
フレデリカは名残惜しそうに俺を見つめる。
「リッタ。突然のお別れで寂しい」
「また帰ったら研究の手伝い頼むよ」
「こっちの研究は?」
言いながら短い賢者のスカートをひらりとさせる。
「あ・ん・た・わ! 1回は下ネタ言わないと死ぬのか!?」
エリスのチョップが炸裂しそうになるのを華麗にかわして、そのままのノリで俺に抱き着いてくれる。
「うわーん。むっつりエルフが怖いよー」
「このっ! 誰がむっつりだっ!」
エリスの2回目のチョップが炸裂しようとしたが。
「じゃあね。リッタ」
フレデリカのテレポートの魔法で一瞬で姿を消した。
魔力消費の激しい魔法を易々と使えるのは彼女くらいだろう。
なんて考えている場合ではなかった。
チーン!
この表現がまだ良いだろう。
実際は、ドスッ! なんて鈍い音を立てて、エリスのチョップが俺の股間に直撃した。
「ちっ、こ!?」
「きゃあああ! リッタ!」
俺は泡をふいてその場に蹲る。
「だ、だ、だ、大丈夫!? 大丈夫リッタ!?」
「あ、あかん……。あかん……やつ……」
「ど、どど、どどうしたら良い?」
「エリスのおっぱい飲めば……治るかも……」
「そ、そうなんだ。うん。わかった! わたしので良いなら沢山飲んで」
そう言って彼女は右の乳を出そうとするので「わー! わー!」と声を出して止める。
「まじもんのむっつりか! こんなところで出そうとするなよ!」
冗談で言ったのを焦っているからまじで捉えらた彼女に大声で言ってやると、数秒の時が止まる。
「あ、あのー。エリスさん!?」
「2回死ねええええええ!」
「ぎゃああああああ」
エリスの魔法が俺に突き刺さった。
「──ったく……。もう……」
「いや。悪いの俺なの?」
エリスの治癒魔法をもらって、股間にダメージを受ける前よりも元気になったが、さっきはまじで死にかけたからね。男の股間への攻撃はデコピンでも致死だからね。まじで。
「わ、悪かったわよ。ごめん」
素直に謝るエリスへ「あはは!」と笑ってしまう。
「な、なによ?」
「いや、素直に謝るなんて珍しいなって思ってさ」
「そ、そんなことないわよ! わたしは自分に非がある場合はちゃんと謝るわよ」
「そう? 俺はよく八つ当たりされてる気がするけど?」
「は、はぁ? べ、別にあんたは特別とか、そんなことないから!」
「あはは。そうですか」
笑うとエリスが睨んでくるので視線を城に向ける。
「良いのか? 行かなくて」
「そうね。こんなくだらないことしてる場合じゃないわね」
言いながら彼女がゆっくりと浮遊していく。
地に足が浮いた時に言ってやる。
「確かに。街中で乳だそうとするのはくだらないな」
「なっ!? それはあんたが──」
「はいはい。いてらー」
強制的に手を振ってやると「覚えてなさいよ!」と言いながら行ってしまった。
「それは乳を出したことを覚えてろという意味なのか?」
『違うわよー! ばかぁ!』
城の方からエリスの声がこちらまで届いた。
あいつ、すげー地獄耳。
さて……。
ググレカスの研究には雷の魔法が必要だが、フレデリカがクエストに行く以上は進まないだろう。それに親しき仲にも礼儀あり。フレデリカがいないのに勝手に研究所にいるのは忍びない。
「たまには俺もクエスト受注でもするか」
俺の職業は一応冒険者ということで、以前はお金稼ぎのためにクエストをバンバン受注していた。
最近はお金も貯まっていたのでセーブしていたのだが、当然だけど働かないとお金は減って行く。
まだ余裕はあるが、バンバン稼いだ時期の貯金も少なくなってきている。
ここは王都ノーシュヴァイン城下町。ここのギルドは世界一受注が多い。
俺に合ったクエストがあるだろう。その足でメインストリートにあるギルドへと足を運んだ。




